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2-05 井原伊織

 昼休み。

 私とみひろは連れ立って保健室にやってきた。

 実は今日、新しく学校に入ってきたのはみひろだけではない。本日付けで着任した新しい保健の先生に挨拶に来たのだ。

 もちろんそのヒトは……。


「なんであなたまで、ウチの学校に来ちゃってるんですか……」

「みひろ様の身を案じ、常にお傍にお仕えするのが私の仕事。いつか世間一般の学校に通われる日が来るかもしれないと、養護教諭免許を取っておいて正解でした」


 白衣にブラウス、ベージュのパンツ姿になった伊織さんは、お椀のように盛り上がった二つの山を見せつけて堂々胸を張る。

 その姿はどこの学校でも見かける、典型的な保健室の先生なわけで――って事は!?


「伊織さんって、女の人だったの!?」

「はい。近侍の男装はご法度ですが、みひろ様は氏立探偵というお立場のため、外部との折衝は助手の私が担当しますので」

「マジかぁ……」


 相変わらず天高くティーポッドを掲げ、紅茶を淹れてる伊織さん。

 その癖さえなければ、昨夜拳銃ぶっぱなしてた執事と同じ人とは到底思えない、フツーの女の人だ。


「だからって、わざわざ男の人にならなくても……」

「交渉の場では、メイド姿の小娘よりもスーツ姿の男性の方が、軽んじられずに済みますので」

「そうかもしれないけどさあ……」


 スーツの下にきっちりベストまで着こんでいたのは、胸を隠す理由もあったのね。

 私は丸椅子に座って片膝を立て、顎を乗せた。イケメン執事じゃないと分かれば、男子の前ではできない仕草も自然と出てしまう。スリながら現金なものだ。


「ねぇ伊織! この制服、今朝より断然可愛くなったと思わない? クラスメイトの瑞穂さんが、スカート丈を短くするテクニックを教えて下さったのよ!」

「ええ。みひろ様、大変可憐でございます」


 チェックのスカートを翻し、姿見の前でくるくると嬉しそうに回るお嬢様。

 その傍で伊織さんがハンカチで目を抑えながら、その所作を褒めちぎっている。

 なんだこれ。クララでも踊ってんのか。


「病弱設定なのに、そんなにはしゃいじゃって大丈夫? クラスのみんなには、昼休みは保健室で横にならなきゃいけないって言って、無理やり出てきたのに」

「そんな事より藍海さん、写メ撮って下さい写メ」

「女子高生が写メとか言わない。普通に『写真撮って』と言いましょう」


 みひろは自分のスマホを持っていないらしい。

 私はスマホを取り出して、連射モードで謝罪会見ばりのフラッシュを焚いてやる。

 瞬く光に怯えるみひろが、庇護欲そそられてとってもキュート。


「今度はほら、三人で一緒に撮りましょう! 伊織、今朝届いた自撮り棒を持ってきて。藍海さんもほら、こっち来て入って!」

「かしこまりました」

「あのさあ……初めての学校でテンション上がんのも分かるけど、ここ保健室だよ? 誰か入ってきたらこの状況、どう説明すんの!?」

「あら。その方も一緒に写真を撮れば、仲良くなれるのでは?」

「女子高生が写真撮ってりゃ、なんでも許されると思うなよ。まぁあながち間違いでもないけれど」

「藍海さん、みひろ様の写真は全てこちらのメールアドレスに転送して下さい」

「いいけど……何? このアドレス。ランダムな文字の羅列で、超打ちにくいんだけど」

「すみません、捨てアドですので」

「もうちょっと私の事、信用してくれてもいいんじゃないかなあ!」


 もちろん信用されていれば、こんな事態には至ってない。

 錬金金貨クリソピアコインについて全てを知ってしまった私が、拉致されたり裏切ったりしないよう、二人には監視する義務があるらしい。だから学校まで付いてくると。

 でも……みひろのはしゃぎっぷりを見る限り、なんか違う。

 絶対この娘、普通に女子高生やりたかっただけじゃないっ!

 まぁ、喜んでるし。可愛いからいいんだけどさ。

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