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第78話

「あの、持ってきたよ」


不安そうにしている里桜に大地は自信満々で対応する。

それでも二人は息を合わせたかのように意地を張る。

大地もまた里桜を不安にさせない様にいつもの調子で里桜に応えるのだ。


「ああ。ありがとう。これからも空の旅を楽しむといい」

「う、うん」

「なに何の問題もないさ。

着陸までの方法はちゃんと把握できた。

後は集と私のテクニックに期待するだけで良い」

「えと…大丈夫なのね?」

「もちろんだとも。

だからまぁ副機長殿の相手でもして差し上げて聖さんの手伝いをしてやってくれ。副機長殿が妙案を思いつかない様に。

私達の邪魔をしない様に導いて差し上げてくれると助かる。

私も今はアストラルパワーを放出して力場を形成しているから。

色々と大変なのだ」


それが今、大地が里桜にしてあげられる唯一の事であった。

着陸が始まれば操縦席にいると嫌でも警告音を効く事になる。

それは里桜を不安にさせるだけだと思い別の役目を里桜に与えたのだ。


「…わかった。頑張ってね」

「勿論」


それこそ…

どうやってその余裕を作り出しているのか。

そして大地のアストラルパワーの件を聞いた里桜の表情は明らかに緩んでいた。

冗談を言うほどの余裕があるのかもと。




パタリと後ろで扉が閉まる音がする。

操縦席に二人だけになった集と大地。

誰にも聞かれる事が無くなった状態で集は大地に本音を聞く事になる。


「大地。ちゃんと目的地にたどり着けると思うか?」

「無論だ。私と集が力を合わせれば出来ない事は何もない!

そうだろう集?」

「そう…なのか?」

「深く考えるな。

失敗が確定したらその時は二人で別の方法を考えれば良いのだ」

「なるほどな」


恐れる必要はない。

失敗したらその時自分達はこの世にいない事が確定しているのだから。

なら失敗した時の事を考えても仕方がないだろう?

暗にそう大地は言ってきていたのだ。

非常識でありえない状況に立たされた、

突然飛行機を操縦しなければいけない状態なのだ。

出来なかったとしても誰も文句は言うまい。

そして何より…

責任者と言う立場を悪用して、いるべき所から逃げた奴。

半ば伊集院庄司にハイジャックされている様な状況なのだ。

助かる為には努力するほかない。


「まだ時間があるのなら手順を教えてくれ。

自動着陸装置があるんだろう?」

「…うむマニュアルには載っている。

了解だ。

だが手動の方も一通りしておこうどちらでも対処できるように」

「わかった」


何とか前向きに考え。

天候と燃料の残量計に目を光らせながら二人は飛行機を飛ばし続けるのだった。

背中に汗をかきつつ誰の指示も受ける事が出来ないながら…

その予定の空港に近付いた大地と集は行けると。

あとはマニュアルの手順通りに捜査して自動で着陸させるだけ。

その数値とコースに乗せるだけで良い。

そう考え安堵できそうだったのであるが。

その希望もその願いも別の意味で打ち砕かれる事になる。


「集…着陸用の誘導電波を受信できていない」

「…もう一度手順を確認する。

ここまで近づいて受信できない事はないだろ」

「わかった」


その空港の座標。

そして設備に関する項目。

それらを知ることが出来た時点で誘導用の電波が無い事に気が付いたのだ。


そもそも…目的地として決められていた所に近づけば近づくほど。

状況は余りにも酷い事を実感する事になる。

飛行機での直接リゾート地に乗り付ける。

そのコンセプトの為に空港は占有空港の様であった。

それこそプライベードジェットからのリゾートと言うコンセプトの為。

勿論オーナー自身で操縦してやってくること。

そういった形で整備を進めていたがために。

空港設備は最低限にまで削られていたのだ。

民設の個人的に造られた滑走路。

それこそ極端な話であるが航空法などの法律を無視した、

形だけの着陸施設だと言う事であった。

誰も場所を知らない秘密の空港という意味では、

とても神秘的で秘密主義が大好きな特別な事が大好き大人たちなら喜ぶ物。

しかしその全てが逆境として集達に襲い掛かる。

着陸支援設備が無い事を示す飛行機の計器。

それは自身の腕を信じて降りる以外の選択肢が無い事を意味していた。


「大地。

オートパイロットでの着陸は?」

「条件が揃わないから無理だな。

横風が強すぎる上に地上設備も足りない様だ。

誘導装置が軒並みない」

「手動での着陸をせざるを得ない…か」

「そんな集に素晴らしい報告だ。

喜べ燃料も無いから一発勝負だな…」

「何処に喜ぶ要素があるんだよぉ」

「機体が軽ければ着陸速度を落としても大丈夫だ!」

「そうなのか?」

「そうなんだ!

さぁ気合を込めて行ってみよう!」


もはややけくそ半分。

それこそ最初で最後の一発勝負。

ここまで来てしまった以上引き返したら森か海へと落ちる事になる。

それだけの緊張感の高まりを感じつつ。

厳しい横風を受けつつの着陸と言う…

素人には難しい状況での着陸を余儀なくされている。

それでも引き返す道はもうない。

覚悟を決めた集はエンジンの出力レバーを絞り始めたのだ。



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