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第69話

一方集達はと言うと…


そこまで手を入れる必要が無かったと言う事なのか。

早々に終わらせてしまい別室で待機する事になったのである。

女性陣とは違ってあくまでカジュアルな感じを強く残している姿。

撮影の中心は普通に考えたら有珠達が中心となるだろうし。

自分達の立場は引き立て役と割り切った対応と言うべきかもしれない。

削れる所は削っておくと言わんばかりに用意された物を着るだけで終わり。

同時にある目的も透けて見えると言うか。

考え通りな展開だなとも集は考えていた。

引き立てるのは祥子のパートナとしてこの旅行に参加する人物。

一着だけ用意されているブランド物のスーツ。

自分達よりも年齢が上なのか大きさもワンランク上のサイズが用意されていた。

そう考えれば自分達の扱いなどこんなものかと納得は出来た。


この旅行のもう一つの側面。

その事実を紘一も大地も知らない。

だがいま警戒するべき人物の姿が見えない事から。

準備だけをして用意されている部屋で無駄な時間を過ごす以外の選択肢はない。


ところで。

待機中の男性陣である紘一と大地は集も知っている人物であり挨拶の必要はない。

けれど大地と紘一が直接会うのはこれが初めての出会いであった。

当然と言っては当然なのだが、二人ともそれ相応に容姿は良い。

高身長気味の楓ですら頭一つ小さく見えるぐらいに身長が高いのが紘一であった。

大地も集も紘一ほど圧倒的な身長はない。

そのため自然と大地を見下ろす形になった紘一。

二人はなんとも言えない雰囲気を醸し出していた。

別に喧嘩腰というわけではないが。

楽器を作り修理する事をしている紘一は筋肉質でがっしりとした体形。

そんな紘一が大地を見下ろす形となると、必然威圧的にならざるを得ない。

雰囲気は一食触発とは少々違うが。

二人は互いの関係を確認するように集の前で会話が始まったのである。

話しかけたのは勿論恐れと空気が読めなくなる大地からであった。


「君が工藤紘一であっているのだね?」

「…そう言うお前はまさか伝説の榊原大地なのか?」


集との会話の中で大地の事は何度か話題に出てきていた、

紘一はその不思議ぶりを知っている。

それは紘一にとっては伝説と表現してしまっても良い位であった。

どうにも裏が見えないと言うか。

けれど行動を示せば結果が付いてくる。

それを紘一は伝説と表現したのである。


「その通りだ。私が伝説になる榊原大地なのだ」


…その瞬間紘一は理解してしまったのだ。

大地とはこの場で「伝説」を創り上げる奴なのだと。

だがそれも面白いと考えてしまった紘一は大地の会話に乗っかるのだ。


「伝説は本当だったんだな」

「ああ私の伝説は本当さ。

その伝説がなければ我が人生の最大の親友となる(予定の)集と、

タッグを組む事が出来ない!」


は?何だよソレ。

何の話をしているんだよと会話に割り込みたかった集。

けれどそんな余裕を二人は与えてくれないのである。


「…聞いているぞ。

その熱い友情があるからこそ不審者を協力して捕らえる事ができたと!」


そもそも不審者の話を紘一にはしていない。

となれば紘一が誰から聞いたのかという事になるが。

当然楓からだろうことは推測できる。

しかし楓は基本吹奏楽部でコンクールに向けて猛練習をしていた。

故にその話はまた聞きとなり話の内容はよりダイナミックに。

そしてあやふやになっている。

そこから紘一へと伝わったのだとなれば話は色々と違ってくるのは仕方がない。

こうなると集は殊更不安にならざるを得なかった。

どういった形で紘一にあの迷探偵物語が伝えられたのか。

それを考えると怖くなってくる。

ソファーで寛いでいた集は立ち上がると二人の会話を修正したかったが。

二人の阿吽の呼吸は集が割り込む事を許さない。


「その通りだ!

しかし…工藤紘一。あなたには確認したい事があった」

「なんだ?応えられる事ならどんな事でも答えてやろう」

「集よりあなたは師匠だと伺っている。

それは本当なのか?」

「…よしてくれ俺と集の関係は師匠と弟子という関係だけでは語り切れない」

「なんだと!?」

「俺と集は熱き心で絶望に沈む心を救い上げた戦友なのだ」


勿論楓のトランペットを修理するべく集は走り回った。

そしてあのトランペットを完成させる為に紘一が調律をはじめれば、その正解にたどり着かせるよう。

必死に紘一を誘導しもした。

それこそ師匠を慕う一人の弟子として。

師匠が正解にたどり着けるために支えたその姿に紘一は感謝していた。

その事を只の弟子としておくには勿論足りない。

それこそたどり着けない。

完成しないと諦めるべきか迷いそうになっていた紘一。

迷うことなく励まし続けた集の存在は大きい。

それこそ戦友と呼んでも良いほどに。

大地は紘一からのその言葉に驚かずにはいられなかったのだ。


「…そんな。

私が集の親友であり誇り高く!そして最大の友だと思っていたのだが…

集よ!違ったのか!そんなことはないだろう!」


明らかにショックを受ける大地の姿。

だが待ってほしい。

勿論紘一の宣言した熱き心云々の意味合いは大地が考えている物と全く違う。

勿論壊されてしまった楓のトランペットを直すのに協力したと言う意味。

それ以上でもそれ以下でもない。

それこそ正解はアリスが用意していた物があったから。

集はただ正解に導くだけで良かったのだ。

苦労をしていないからこそそこまで感謝される謂れがない。

戦友と言われる事こそ過大評価だと思ってしまっていた。

その自己評価の基準が違うからこそこの状況は生まれていたのだ。

二人は一体何を考えているのか、なんて事を集は考えたくなかった。

冗談だろうと思いつつもともかく二人の会話の流れを止めるべきだと思って。


「えーとしばらく考えさせてくれないかな」

「何を考える事があるんだ。

たた集はイエスと答えるだけで良いのだ。

それで私と集の熱い友情は成立するのだから!」


イエスと言ったらそれは大地と熱い友情で結ばれている事が確定する。

しかしその瞬間紘一との戦友関係が崩れてしまうのだ。

熱く関係を語り合う二人のボルテージは何故か上昇中。

けれど冷静に考えればそもそも戦友関係とも熱い友情と呼べる様な関係?

と集は頭を傾げたくなる。

勿論大地とも紘一とも長い付き合いと呼べるほど、が崩れた所で何ら問題はなく、

大地とは親友でなくとも友達であるから問題はないはずなのであるが。

その場の雰囲気と勢いが集にどちらも選ばせない。

どうするべきかと考えを巡らせる暇はなく。

同時に茶番を真剣にやり続ける二人に面倒くさくなりつつある集の判断は…。


「あぁ…そうなんだな…

だから二人の考えは合っているんだ!何も間違っていないのさ」

「なん…だと?」「どういうことだ?」

「僕の師匠が紘一なら大地の師匠も紘一と言う事だろ?

そして大地と僕が親友だと言うのであれば大地と紘一も親友だ!

なら二人の関係は師匠と親友!

ほら何の問題もない」

「確かにその通りだ」「流石我が一番弟子の集!良い考えだ」


大地と紘一は厚く友情の握手を交わしその関係を深めていく事になる。


「紘一師匠!これからは私を導いてください!」

「まかせろ大地!お前も親友として熱い心を見せてくれ!」

「はい!」


2人の友情が程よく温まって来た頃であった。

集はこの二人に状況を説明して手伝ってもらうべきか。

もう一度考え直すべきなのかと思い始めていた。

有珠達の着替えも終わってその撮影が開始されるのかと思いきや…

集は二人から離れるとまたソファーに座りなおしたのだ。


「…僕は控室で何を見せられているんだろうなぁ」

「いや、良い絵が取れているよ。二人とも役者だなぁ」


ぽつりとつぶやいてしまった集。

けれど二人の様子を見てカメラを構えていた人物が呟きに応えてくれる。

大き目のカメラは回り続けそしてその機材の向いている先は当然大地と紘一。

興奮気味にその映像は撮影されていた。



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