集はその夏休み前半の時間を司とのビジネスの為に使う事になったのだ。
同時期に大地より集は告白を受ける事にある。
「済まない集。夏休みもお前と友情を育みたかったのだが…
それは叶いそうもない。
許してくれ」
「大丈夫だ大地。
ただお前言動には気をつけような…」
隣には里桜が立っており何やらご機嫌斜めなのか…
集の方を睨んでいた。
「青木君…少しは有珠の事を考えてあげても良いんじゃない?」
何を言われるかと思えば…
集にとって有珠を気にするのは当たり前の事。
何時だって有珠の事は気にかけている。
それなのに有珠の親友である里桜がからそう言われるのは心外だった。
「夏休みに入ってから全然会ってないらしいじゃない?」
「それは、色々と予定があって今はちょっと忙しいから…」
「何がそんなに忙しいのよ?」
「夏期講習だよ。
学期末テストが思った様な成績じゃなかったらもう少し成績を上げたくって」
「あ…そうよね…」
集にとっては将来の夢の為にも今努力しておくことはとても重要な事である。
合間を縫って司との話し合いもあり現在の所は学校がある時より忙しかった。
それでも…夏休み後半には有珠と一緒に旅行が出来る。
そう考えれば耐える事も出来ていた。
夏の思い出はちゃんと作れる。
絶対にずらせない休みは確保済みなのだ。
ここは集にとっても頑張り所である。
当然の事といえば当然の回答であり里桜の怒りは沈静化する事になる。
「それよりも…せっかくのカップルになったんだからさ。
僕も黒江さんの事も忘れて二人の時間を楽しみなよ」
「ちがっ…それは…そうじゃなくてっ!」
「大地も大城さんの為に少しばかり融通をきかせなよ?」
「大丈夫だぞ集。
私はお前と違ってちゃんと大城さんに愛を囁いているからな」
「…そーかそれは羨ましい限り」
それが夏休み前の集と大地最後の会話であった。
休みに入れば吹奏楽部の練習は更に増量される。
全国の切符を勝ち取るために努力して来た吹奏楽部の練習はハードであった。
それでも今の楓には強い支えがある為なのか余裕すら生まれていた。
心持と安心感を与えてくれる工藤紘一というパートナーを見つけた楓。
彼女は時間を見つけては工藤楽器を訪れて紘一との時間を作っていた。
「紘一!紘一!また調整お願い」
「やっぱし駄目だったか?」
「そんなことないけれどなんだから指に違和感を感じるの」
「それは練習のしすぎかもしれないな。進奏和は強豪校だから」
「で、でもこの頃は良くなってきてるの。
自分の思ったような音が出せている気がするの!
だからもう少しだけ…調律を手伝ってよ」
「安心しろ。俺が手掛けた楽器だからな!いつまでも俺が面倒みるさ」
「うん!
それでさ…夏休み後半の旅行なんだけどね?」
「おー?」
「紘一も楽器何か持って行かない?」
「それはまた…」
「有珠もきっとヴァイオリンを持っていくだろうからさ!」
「そうかぁ…そうすると何がいいか」
「勿論トランペットだよ!」
「少しぐらい悩む仕草をさせてくれよ」
「あはは。解っていて溜めるのはナシよ」
紘一と楓の関係は少しずつ。
けれど着実に進んでいるのであった。
それぞれが準備に奔走している時期。
綾小路家の固定電話と祥子のスマホには着信が立て続けに続いていた。
ひっきりなしにかけてきていたのは伊集院家の人間。
祥子の許嫁になっている伊集院庄司からであった。
今回の唐突な旅行の原因には庄司の意思も大いに反映されていた。
「祥子さんちゃんと準備は進んでいるかな?」
「はい庄司さま。ちゃんとお友達三人もお誘いしました」
「それは良く出来たね…
けれど私の事は旦那様と呼んでくれていいんだよ?
両家の仲を良く見せないといけないからね」
「はい」
「君のお友達はとても愛らしくて素晴らしい。
私の妾としても選んであげられるよ」
「う、あの、何度も言っていますけど、
ちゃんとお友達たちにはパートナーがいるんです。
ですから…」
「解っているよだから、ちゃんと旅行に連れてきて、
その事を証明したら諦めてあげるから安心して?
これでも未来の奥さんを困らせる様な事はするつもりはないからね…
私は優しい旦那様だからね」
「はい…」
勝手に話を進め勝手に自分の物だと主張し勝手に手中に収める。
そんな庄司の有り様に対して祥子が意見する事は許されなかった。
それでも決められてしまった以上祥子に選択肢はない。
有珠達を連れてパーティーに参加する事から逃げられない。
せめてと条件を付けて彼氏達がいるのだからと庄司を諦めさせる他、
祥子に反抗は出来なかったのである。
そして…
運命の旅行の日程がやってくる。
四泊五日の日程で組まれた少々長めの旅行日程。
楽しい旅行となる裏側で集は暗躍する事になる。
駅前のロータリーを集合場。
そこには大荷物を抱える事になった六人のグループが出来ていた。
少し大き目の多人数が乗れる2台の車が迎えに来たのである。
「お待たせ致しました。黒江有珠様達ですね。
お迎えに上がりました」
スーツ姿の女性が数人おりてきて荷物は後ろの車に。
有珠達は前の2列に並んで座る8人乗りのミニバンに乗り込んでの移動であった。
向かう先は空港であったが都心の大型旅客機が到着する飛行場ではなく…
プライベードジェットが多数離着陸する小規模の空港であった。
空港では…庄司と祥子が待っていたのである。
なによりこの旅行は新しいリゾート地へと向かう若い男女の学生達。
と言ったコンセプトなのか…
空港に着いた集達6人は着替えを行なってスタイリストに身なりを整えてもらう事になったのだ。
「これが只で旅行できる代償なのね…」
「うわぁ…」
そこに用意された衣装は2種類。
冬と夏用の衣服である。
真夏の蒸し暑い9月の炎天下で真冬の格好はきつすぎる。
けれどCMとして使う以上はどうしても季節感は合わせたい。
その辺りの配慮はぬかりなく着替えは迅速に行われて、
楽しい風景を取るために集達は協力する事になったのだ。
旅行は空港そこから始まり一人がカメラを片手に撮影を始める。
「プロモーション用の撮影も入りますご協力お願いします!」
そして空港内の待合室で楽しい演技が始まるのだ。