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第66話


祥子の未来を変える為。

本題に入る前に色々と準備をしなければと意気込む集であったが…

その前には厳しい壁が立ちはだかるのである。

時間は順調に流れ学期末テスト。

そう。


学生である以上決して逃れられないテストが待っているのだ。

そしてテスト結果を受け入れる事になった集は頭を抱える。

―不味いなぁ…―


学期末テストの結果に集は自身で驚く事になっていた。

中間テストの結果は上々。

普通に何の問題もなく期末テストもこの調子で行けば問題ない。

と言い切るには問題がある点数であった。

赤点を取るような事は無いが問題はそこではない。

赤点を逃れる様な点数で満足している様では集の目標である就職先にはたどり着けない。

高校を卒業するだけではだめなのである。

その先の大学。

そして就職と続く道程は果てしなく遠い。

2度目と言う事であっても思考能力と記憶問題が特に問題で…

先を知っているが故に規格や訂正される事になる歴史問題がネックだった。

どうしても新しく記憶している事を優先してしまう。

やり直ししているが故の間違いに足を引っ張られる事になるのであった。

2度目だからこその記憶の重なりが集にとって良いだけではなく…

悪い方向にも向いてしまった瞬間だった。


「やり直しだからと言って全てが有利になる訳じゃないか」


模試と自己採点の結果を見ながら間違いを確認するのだが。

どうしてもその採点結果に納得できない集。

それでも一度目の成績とトントンよりギリ下を維持してはいる。

その様子を見ていたアリスは笑っていた。


「アナタでも苦戦する事があるのね」

「とは言ってもどうしても整合性が取れなくなるからなぁ。

ともかく歴史関連はコロコロ新説が出て来ているし。

新説が出るたびに覚え直すのは骨が折れるな」


教科書と参考資料から自身の記憶の間違いを必死に修正する集。

それも数年後には覚え直さないといけないので嫌になりそうになっていた。

それを見かねてかアリスは自分の演算をとめて集の見ている参考資料の修正箇所をトントンと指摘する。


「うわぁ…なんでそうなる…」

「結構多いわよ教科書の改訂があったからね」

「頭が痛くなるな…正解がコロコロ変わるのは」


アリスと集の様子はそのまま勉強会の様な形となり、

集は記憶の修正を行っていく事になった。

その容姿は本当に仲の良い友達の様でもあり…

見ようによっては長い時間を連れ添った夫婦が出す独特の雰囲気が感じられた。

同時にその様子をみて視線を向ける有珠。

恋人でも深い仲でもないにも関わらず何故か感じる疎外感。

そして苛立ち。

確実に蓄積する何かを有珠は感じつつも自身がアリス・ミロワールに何かを言う事は無かったのである。

ただ…

確かに青木集という存在は黒江有珠の中に根付き始めていた。

無視したいけれどそれも叶わないそのジレンマ。

それは形を変えて有珠を動かす原動力になるのかもしれない。



高校生になって初めての夏。

それは可能性と自由に満ちた素晴らしい日々の始まりである。

部活動に青春の汗を流す者。

初めてのアルバイトで金銭を得るためにガッツリ働く者がいる一方。

全力で将来の為に夏期講習を受ける生徒もいるのである。

青木集はどの立ち位置にいるのかと言えば…


「やべぇ…法案が古いのが優先?…

いや新建築基準は…」


将来の為に少しでも役に立つ知識を蓄えようと行動を起こしていた。

色々な物が保存されている資料館へと足を運びつつ、

将来の自分にとって重要な知識を溜め込むために動くつもりでいた。

が…


「解っているでしょう?これからの為にまずしなければいけない事。

それは集自身が偶然を装って、ある男性と接触する事が必要なのよ」

「それは解っているつもりだったけれど…コレはまずいんじゃないか?

流石にオカルトが過ぎる」

「とは言っても目的と手段を考えた結果一番最良な状況がこれなのよ」


集からすればアリスから提案された事は少しばかりグレー過ぎた。

そしてその提案は確かに祥子の運命を変える事になるとは思うのだ。

そのキーパーソンとなる人物が紫龍司であった。

祥子がお兄様と慕っていた。

もしも許されるのであれば傍にいたいと一途に思っていた人物である。

けれど二人の仲は最期まで進展する事はなかったのだ。

理由も簡単な事で紫龍家と綾小路家はどちらも伝統ある由緒ある家である事が原因だった。

伝統的に二家の関係はライバル関係となり競いあい張り合う事が多いのだ。

統合するのであれば紫龍家と綾小路家の間で姻戚関係を結ぶ事。

それが時代にとって一番の最適解。

それにも関わらず綾小路家が伊集院家を選んだのはその仲の悪さからである。

綾小路家の娘としてパーティー参加し一人になる事が多かった祥子。

ライバルとはいえ関係があることから無下に出席を辞退する事は出来ず。

そんな時に相手をしてくれていたのが司であった。


実の妹を可愛がるように祥子を可愛がっていた司であったが、

大学2年の時にその実力を試してみたくなり簡単なビジネスを始めたのである。

問題はその資金の出所であった。

結果から言ってしまえば司のビジネスは上手くいった。

だがその成果は出資者によって奪い取られたのだ。

不要となった司は何もかもを失う結果となった。

それが彼にとっての「転落」の始まりであり…

同時にそれを呼び寄せたのは災厄。

対処される事が無かったその災厄は見事に成長し司を食いつぶしたのである。

集と同じように紫龍司もまた災厄に遊ばれて。

誰かの為に未来を閉ざされる一人でしかなかったのだ。


「…未来の集と直接関係があった訳じゃない。

けれど紫龍司が破滅へと追い込まれたのはこの時期この改変があったからね。

警戒心が無さ過ぎて突き刺さってしまったのだけれど。

今ならまだ間に合う。

そして彼の作り上げた実績が司の手に残るのなら…

司と祥子はきっとうまくやっていけるわ」


紫龍司が会社を立ち上げる為に資金を借りる。

それが災厄の起点が作られる原因であった。

ならばその原因となる資金を自己調達させればいい。

とは言っても集とアリスにそんな莫大な資金を直近で用意するだけの力はない。


「…こういった稼ぎ方をするとまともに生きるのがあほらしくなりそうだ」

「非常事態なのよ。

少しはグレーな事から目をつぶりなさいな」

「はいはい」


未来を少々であるが知っている。

その未来情報を少々使うだけである。

提供した金額とゴールした着順を当てる事によって、

資金が倍々に増えていく素晴らしい結果をもたらすゲームがある。

とは言ってもそう言った倍率が出るのはかなりの確率で毎日出る訳じゃない。

それでも数千円の元手で数回の大当たりを引き続ければ、

数日間で数千万単位の資金を手にする事が出来たのであった。

集の口座には一時的にであるが学生が持つには甚だありえない金額が、

積みあがっていたのだった。


「賭け事が人生を狂わせる原因を体験した気がする」

「知っているから掛けられる。

100%当たるから興奮はしないけれどね。

ともかくこれで集は謎のパトロンになれるわ…

後は貴方の演技次第ね。

これからが集にとっては賭け事になるんじゃない?」

「そうかもしれない」


それから数日後集は紫龍司に会う事にした。

資料を探しに来た司に偶然を装って接触したのである。

ドンとぶつかりその拍子で落とした司の資料を見ながら。


「面白い構想ですね…実行するご予定はあるのでしょうか」

「え?解るのですか?」

「少なくともこの発想とビジネスプランは時代に合った形で展開していけば…

成功する可能性は高いのではないかと考えてしまいました」

「…ありがとうございます」


出会いは偶然を装っていたとしても…

その集の装いはブランド物のスーツに身を包んだ堂々とした姿。

立ち振る舞いと落ち着いて深い考察を話す集の姿は堂々としていて。

若輩者と集を侮る事など出来なかった。

そして集は本題を切り出す事にしたのだ


「よく考えられているプランです。

もしも…この事業を始めると言うのであれば投資をしてみたい。

そう考えてしまいましたね」

「!!ありがとうございます」


そこには年齢は関係なかった。

唐突に表れた人であっても自身が賭けているビジネスプランを褒められて。

それで悪い気分になる事はない。

それどころか資金提供まで申し出てくれたのだ。

司はこの偶然の出会いに感謝するしかなかった。

集も中身の年齢の様な詳しいプラン提示を受けその数字の正しさと、

可能性を感じさせる発展性を見せられて少しばかり興奮していた部分もある。

上手くいくかな?

ではなくて、うまく行かせたいと考えた二人の会話は弾んだのである。


「それで…何時から本格的な起業を開始するのです?」

「それは出来るだけ早くと思っています。

恐らく規制がかかるのは時間の問題です。

知ってしまえば動かずにはいられませんから」

「なら…夢を始めましょう」

「はいっ!」


紫龍司が実際に動くのは早かった。

そして集はブルーと名乗りその資金を司に託したのである。

集の未来予測と企業直後のアドバイスは司によく響いたようで、

順調に司は学生と企業経営者というハードな学生生活を送ることになったのだ。

司にとっても充実した日々の始まり。

小さくともしっかりと育つ企業は紫龍家本体の考えすら捻じ曲げる事になる。

始めの一粒として確実に芽吹いたのだ。

司の運命は加速する。

有珠達が旅行に行くそのレセプションパーティーに参加する機会が生まれたのだ。

それは祥子と司が幸せになる可能性がある未来が生まれた瞬間だった。



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