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第65話


長年続いている由緒ある家のお嬢様である祥子。

その伴侶となる相手は当然両親が決めたお相手となるのであるが。

いわゆる許嫁って奴である。

悲しい事にそのお相手となる伊集院家の子息との間があまり宜しくない。

それはありそうで、どこかでよく聞く定番な関係であった。

集達が誘われた今回の旅行。

未来を知るアリスは知っている。

この旅行のパーティーがそのまま祥子の未来を決める決定打となる事を。


「…不味いわね」

「え?そんなに急いで処理しなくちゃいけない災厄の種があるのか?」

「それもあるけれどそれ以上に綾小路さんとその未来が危ないって事」

「物凄くその先を聞きたくない」

「そんな事言っている場合ではないわ。

今回の事は前回の2つよりも大きくそして面倒な事になるの。

出来るだけ準備をしてから始めたかったんだけれどね。

集が巻き込まれる事になるのであれば動かざるを得ないでしょう?」

「マジかぁ…」

「マジよ。

凄まじく面倒で、そして今の集でなければ対処できないもの」

「何をやらされることになるんだ?」

「千年重工業(ミレニアムインダストリー)を覚えている?」

「それは…うっすらとであるけどお世話になったと言うか。

お世話をしたと言うか…」


千年重工。

それは集が就職した会社の子会社に当たる企業であった。

系列の子会社である事から見捨てられる事はなかったが。

グループから資金を注入されて延命しているだけの存在であった。

既に事業体としては終わっていて清算されるのを待つ会社と記憶していた。

製造能力と言う意味で工場などはもう持ってない。

ただ名前が残っているのであるがその名前には価値があった。

千年重工が作った部品は文字通り千年持つ。

そう言われるだけの制度と品質があったのである。


「じゃあ、これから数年後にその千年重工が新しく製品を作った結果、

大事故を起こしてしまう事は?」

「…ああ、嫌な事件だった。

その事件の後に保証をしていた保険会社が数件潰れた事も思い出したよ」

「その内の一件が綾小路家が経営している保険会社よ」


そのセリフを聞いただけで集は絶句する事になった。

いやまてまてと。

どういった繋がりが綾小路家に出来るのかという疑問も生まれていた。

アハハと気分も軽く集は冗談交じりに返事をする。

そんな偶然があってたまるかと思いたい。


「まってくれよアリスさん?

綾小路家は保険事業には手を出していないと思うのだけれどね?」

「そう思いたいかもしれないのだけれどね?

事は単純なのよ。

祥子の結婚して変わった苗字を覚えていれば解るんじゃない?」

「うわぁ…」


霞がかった集の記憶。

しかしアリスの言葉と共に朧気だった記憶ははっきりとして来る。

そして思い出したくないほど嫌な名前だった。

伊集院祥子。

つまりこのまま結婚した場合祥子は伊集院家に嫁がされると言う事である。

親同士の決めた関係。

一応表面上は良い関係だったように覚えている集であったが。

大企業同士の合併。

だからこそニュースにもなり業界第3位までその規模を大きくしたなど。

ある程度社会に影響が出るほどの出来事だった。

2家はその繋がりを起点にある程度の経営統合に乗り出す事になる。

結果から言うとその統合は水と油の様な最悪な組み合わせであった。


「伊集院家は没落。

そしてそれに巻き込まれる様に統合に及んでいた、

綾小路家も破滅の道をたどることになる。

三流のシナリオライターが描いたかのようなド定番の展開ね」

「そうだった。

笑い話にもならないフルコンボで芸術的な倒産劇だったな」

「そして祥子は肩身の狭い思いをしながら逃げる事も出来ず、

両家からどうしてパートナーを諫めなかったのか。

責められ続ける事になるのよ。

同時に千年重工のやらかしの原因を作ったのはその伊集院から出向した人物ね。

けれどもその出向した人物を後押しできた理由はわかるでしょ?

綾小路家のバックアップがあったからね。

…今年の夏の旅行で祥子は伊集院家からの申し出を断る権利を失うの」


その瞬間集は大きなため息をつかないではいられなかった。

壮大なドミノ倒しのスタート。

それが今眼前に用意されている旅行から始めるのかと思うと頭が痛くなる。


「今年が始まりで…

毎年夏の決まり事になって。

そして高校卒業を迎える3年になる時のことは覚えているんじゃない?」

「…そう言われると思い出したくない記憶がよみがえってくるよ」


祥子はその年の夏有珠達のグループの中でいち早く結婚をするのである。

表向きは全員に祝福されながらの結婚という体裁であったが…

祥子の結婚生活が幸せだったかどうかと問われれば怪しいとしか答えられない。

未来を知るが故に。

始めは上手くいっていたが後に必ず始まる伊集院家の暴走。

それは綾小路家ではどうやっても止められない。

若さと勢いからの失敗であるが。

新興の伊集院家と名家の綾小路家では考え方が火と水だったのだ。

全てが失敗するように仕組まれた破滅への道。

それが解っていながら誰も止める事が出来ない二家の複雑な感情。

そしてその千年重工のやからしはそれだけにとどまらない。

集が進めていた建設プロジェクトにおいても被害を出している。

帳尻合わせと尻拭い。

多大なる負担を強いられたのだ。

当時の余裕がない状況でのその負荷は確実に集を追い詰める要因ともなっていた。


「結果と結論からすれば祥子の恋愛を阻止しないといけない?」

「可哀想?だけれど。

しなくてはいけないわね」

「阻止するのは決定事項としても代役がいなければそれも難しいかもしれない」

「それこそ…綾小路さんに相応しい人は別に他家から探す必要はないわ。

既にいるもの。本物の幼馴染がね」

「候補があるなら有難いと思うべきなのかな?」

「それじゃあ行動を起こすわよ…」

「了解」


集とアリスは未来を知っている。

知っているからこそ伊集院家と綾小路家との繋がり。

祥子が不幸になる結婚を阻止したいと考えるのであるが…

現在を生きている有珠達4人グループはそうは考えない。

それ以上に伊集院家と綾小路家の繋がりを考えれば考えは変わる。

上手くいかせなければいけないと思い込む。

祥子が我慢する事で犠牲になる未来へと続いているとも思えない。

囚われの不幸なお姫様に似合うのは白馬の王子様なのだ。

祥子に救いの王子様が洗われるか否か。

それはこれからの集とアリスの行動にかかっているのであった。



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