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第63話

楓から見て二人の相手は彼等以外にあり得ないと言わんばかりの反応だった。


「だって、知っているんだからね?

花火大会を学校の屋上で見たんでしょ?

それって仲が良くなっていなくちゃできないじゃん?」


花火大会は有珠からすれば迷惑をかけた集に対するお礼の意味合いだった。

それ以上でもそれ以下でもないつもりだった。

それよりも大地と里桜との関係が進んでいた事に喜んでいて。

集が一世一代の告白をした事は聞き流しているし。

華麗にスルーする程度には花火大会は里桜の恋愛事情の為だと考えていた。

里桜に対しての意見は榊原君を誘うだけよねと思ったのだが。

集に対して旅行に行くような関係かと言われたら疑問しか浮かばない。


「里桜は榊原君なのは私でも解っているわ」

「え?有珠?!どういう事?」

「違うの?アルバイト先にまで心配して来てくれる相手なんて、

もう恋仲で間違いないでしょ?」

「それは…」


里桜と大地の関係は少々違う。

じれったくも全く進まない有珠と集の関係に弾みをつける為。

疑似恋愛をして背中を押すつもりで里桜が動いていたのだ。

灰色の青春で中学時代は部活しか出来ない吹奏楽部での3年。

流石に高校では恋愛の一つや二つはするべき。

やりたくもない部活に縛られていない有珠を見たいと里桜が考えた結果でもある。

有珠の中で里桜と大地の恋愛模様は順調に進んでいる事になっている。

花火大会の夜。

集と有珠を屋上に取り残したのは当然、集に告白する時間を与える為であった。

結果は聞いてないが聞かなくても解る程度には失敗している事は理解している。

理解していたから不審者騒動が出た時に心配させるつもりで、

大地にそれとなく有珠を気にかけてアルバイト先まで来るように促したのだ。

それなのに今度は大地の所為で思った様に集は来店してくれない。

それどころかひったくり犯を捕まえると言うミラクルまで起こる始末。

結果的に不審者騒動自体は無かった事になり。

けれど犯人を捕まえた集は迷探偵の称号を得てしまっている。

より行動的で活発に動く事になりそうな集。

それは有珠との接点を減らす事になりそうで逆効果となっていた。


「もうっ!どうして上手くいかないの!?」

「上手くいかないのは大城さんの作戦が悪いからではないか?」

「だったらっ!だったら次の作戦は考えて!」

「ふむ…しばし待たれよ」


つい先日の事であるが大地と里桜の二人で作戦会議を広げたばかりである。

その二人の時間が有珠達にどう映るのかは考えついてないようである。


「そ、そうよ。私と榊原君はこい、恋人どうしよ!」


その言葉にやっぱりねとしか思わない有珠達。


「まぁ!素敵ですね!」

「何時私達に教えてくれるのかって思っていたのよ」

「え?もうそんなに進んでいたの?」


三者三様のおめでとうを返し有珠達は喜び里桜の顔は真っ赤であった。

当然の恋人宣言…の結果を大地が聞かされるのはもう少し後の事である。

親友の恋愛事情を進める為に始めた偽装恋人計画であったが…

この度めでたく?偽装の部分が外れてしまったのであった。

けれどこのまま顔を赤らめたままで終わる里桜ではなかった。


「私と楓は声をかける人が決まったのだから。

ちゃんと有珠も青木君に声を掛けなさいよね!」


それはやけっぱちになった里桜からの言葉だった。


「え?な、なんで青木君に?」

「だって!有珠が今親しい男子なんて青木君位しかいないじゃない」

「そ、そんなことは…ないよ」

「だったら、別の誰でも良いわよっ。

ちゃんと声をかけて8人で旅行に行くわよっ!」

「ええっ!?」


引っ込みのつかなくなってしまった里桜。

彼女のその引っ込みの付かなくなった破れかぶれの発言の結果、旅行に行く事は自動的に決まったのだ。

そしてそうなれば有珠も悩む事になってしまう。

もう8人で行く事は決定している。

有珠自身も自身のパートナーとして誰かを選ばなくてはいけなかった。

問題は誰に声をかけるかである。

その昼休みが終った放課後である。

色々あるが今日も里桜と有珠は放課後、アルバイトの予定が入っていた。


「里桜も今日はシフトが入っていたわよね?」

「ええ。けれどでも今日は少しばかり遅れていくわ。

店長にも連絡済みよ」

「それは…どうして?」

「だって…ちゃ、ちゃんと旅行に行ってくれるか聞かないとっ」


思い出した様に顔を赤らめる里桜である。

榊原君なら断る様な事はしない。

有珠の目から見て大地と里桜は不思議なバランスであったが。

それでも成り立っているカップルに見えていたのだ。

少々不思議な思考をする大地であるが里桜の事を無下に扱ったりはしない。

そしてちゃんと里桜の考えに寄り添った対応をしていた。

不思議でミステリアスな雰囲気が漂い続ける大地。

その雰囲気も里桜には合っているのかもと思っていたのである。


「ああ…うん。大丈夫先に行っているね」

「う、うんっ」


こういった所は即断即決で悩まない里桜らしくない。

やっぱり恋愛事となると奥手になるのかなぁと考えてしまう有珠であった。

それでも遅刻を前提として店長に時間がかかると連絡しておく辺り。

里桜の時間間隔はしっかりしているのかもと思い直していた。



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