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第60話

最終下校時間が過ぎた後の学校。

そこは巡回する警備員が定期的に訪れる以外は無人の時間となる。

学園祭や特別な合宿が無い限りは本当に無人となる場所であった。

当然アリスにとっても集にとってもその方が都合がいい。

足早に目的の愛好会の部室がある階へと階段を駆け上がる。

そして愛好会の部室へと潜り込んだのである。

当然鍵がかかっている愛好会の部室であるが…


「ちょっと待っていてね…」

「解った」


それだけ言い残すとアリスはスッと集の視界から消えるのだ。

次にガチャリと鍵が外れる音がしてそのまま部室へと入る事が出来たのである。


「鍵開けのトリックも技巧もあったもんじゃないよなぁ」

「それともちょっと近いのだけれどね。

今は説明している時間も惜しいわ。

直ぐに探し始めましょう」

「わかった」


探し物はアナログカメラの不審者が写っているフィルムただ一点。

その意味でデータの複製が可能なデジタルカメラでない事が今回の事柄の難易度を下げていた。

複製された物が少なく…、


現像された写真程度しか派生した物は存在しない。

とはいえほぼ真っ暗闇の中。

室内の電灯をつける訳にも行かない集。

さてどうやって始めようかと周囲を確認していたのだが。

アリスはまた迷うことなくブレザーのボタンを外したのだ。


「…契約した時以来かな?」

「そうかもね…」


アリスの表情には少しばかりの気恥ずかしさが見える。

けれど止まっている訳にはいかず直ぐに指を躍らせラインが引かれていく。

ボタンから伸びるその光のライン。

それは確かに光っているはずなのに眩しくなく…

そして空間と場所を越えて光は踊っていると表現するのが正しかった。

壁にぶつかっても干渉する事はなく突き抜け、

その先へと光を伸ばしていったのだ。

そのままアリスは集にその光の線に触れる様にジェスチャーをしてきたのである。

何をしているのか。

どういった意味があるのかは集がその線に触れた瞬間理解する事になったのだ。


「見えるかしら?」

「ああ…そのなんだ…見たくなかった」

「そんな事言わないの。

世界の神秘に触れられて嬉しいでしょ?」

「知らなくても良い事もあるんだなぁとしか言えない」


それはそうだろう。

集が見たその映像は現実ではありえない合成映像の様な物であった。

近しく表現するのであればそれはバグっておかしくなったゲームの映像。

それが一番表現としては近い。

視覚的にはその真正面に机の様な障害物があるのだ。

けれど障害物はすり抜けられる。実態が無い。

正しく災厄とそれに関わる物に触ろうとすればすり抜ける。

叶える者であるアリスが見ている世界に近しい空間がそこに有ったのだ。


「…で僕はここから何をすれば良いのかな?」

「私達は災厄に触れる事が出来ないのは解っているでしょ?」

「それは勿論」

「だから私達の代わりに災厄に繋いでほしいのよ」

「…繋ぐとは?」

「勿論私の叶える者としての力を繋ぐのよ。

今触っているでしょう?」


確かに集は今アリスの作り出した光の線を掴んでいる。

そしてその掴んでいる線は四方へと散乱していた。

当然災厄がありそうな場所にも向かっているが当たっていない。

ともかくやってみなければわからないと集は動き始めたのだが…


「ん…?どういう…はて?」

「何をしているの早く繋いで頂戴」

「い、いやそのつもりなんだけどね?」


けれどそのさなか集は混乱の極みにいたのである。

始めてみる異世界の様な映像。

バグったゲームの世界は集に混乱しかもたらさなかった。

暗闇に光り輝く線。

けれどその明るさは感じられるが周囲を照らさないという不思議さ。

そしてその光の線に触れているから見える…見えてはいけないズレた世界。

どうもこうも…

掴んだ光を導いでその写真のネガが治められている棚に近付けば、

今度は磁石が反発するかのような力が発生していて掴んでいる光が、

その対象物に対して逃げていくように動くのだ。

生き物の様に嫌がる光をムンズともう一度強く握りなおした集。

写真のネガが何処にあるのか細かい所まで解っていなかったのだが。

逆に言えばその反発の中心に問題の有るネガがある事はなんとなくわかったのだ。

ともかくその掴んでいた光のズブズブとその場所に近づけていく。

狂った距離感と避けたくなる障害物の映像を見せられつつ集はなんとか、

アリスから伸びていたその一本の光の線をそのネガに干渉(接続)させたのだ。

瞬間アリスが反応する。


「…よくやってくれたわ集!一本目が繋がったわ」

「あ…うん」

「でもまだ足りないわね。パスを広げる為に更に繋いで」

「解った。なんだ…簡単な…」


作業だと言いたかったのだが。

少しずつ。

けれど確実に集は自身に起きている事を自覚していく事になる。

それは引っ張られると表現すれば良いのか。

引きずられると言えば良いのか。

立ちながら座っているかのような曖昧さを感じ始めていた。

それに反してアリスから出る光の線がどういう風に動くのか。

視覚と腕先でつかんでいると感覚とのズレが解消していく。

視覚に映りながら触れない物質に触っている感覚が生まれ始めたのだ。

二本目の線を繋いだ時にはさっきまであったその感覚が更に強くなる。

けれど違和感が無くなっていく事を集自身から拒否反応を示していた。


「アリス…ここは愛好会の部室だよ…な?」

「そうよ。愛好会の部室で合っているわ」

「おかしいな…広い空間に立っている様な気持ちが…」

「それも間違っていないわ。

今その空間を解体して洗浄している所なのよ。

さっき言ったでしょうアーティファクトの話。

その災厄によって干渉されて汚染された物を洗浄して…

問題の無い形に書き換えているわ。

世界の境界面。

現実の外側と内側の丁度間とでも言えばいいのかしらね」


アリスは集に返答をしながらもその指は激しく動き続けている。

それに合わせるかのように風景はめまぐるしく変わる。

集自身が動いていないのにも関わらず集の立っている位置は変わり続ける。

目に見えていた物が全てではない。

それをまさしく体現している時間であった。



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