目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第59話

「未来に発生するはずだった災厄の原因その物を潰したわ。

大城さんも聖さんも決して悲しむ事は無い未来が訪れるはず。

それだけの改変は行ったつもり。

けれどソレは別の災厄の原因が近くに無いからこそ決定できるの。

今回の災厄の種をちゃんと処理しないと…

大城さんはまた災厄に引きずり込まれると私は計算しているわ」


そして唐突に告げられる里桜がまた不幸になると言う可能性。

未来は変えたはずだろうと集は言いたかったが、

その言葉は集の口からは出て来なかった。

その代わりに確認するかのように問い質す集。


「アリスの計算が間違っていたって事?」

「計算が間違っていたなんて失礼ね。

ちゃんと問題なくなるように設計しておいたわ。

けれどそれはまだ確定した未来になっていなかったってだけよ。

更に言うのであればね?

必死になって溝浚いをして綺麗にしたあの集の努力。

肉体労働の意味が無くなると言う事ね」

「なんですと?」


それは集にとっては悪夢でしかない。

あのシャベルを片手に排水溝を綺麗にすると言う苦行。

時間が限られ、それまでに終わらせなくてはいけないと言うプレッシャー。

後から急かしてくるアリスの非情な応援に耐えながら集は必死に掃除をしたのだ。

それが全て無駄だった事にされるとなると流石にゲンナリする。


「どうしてそうなるんだ?」

「その形になる様に災厄に振り回されるからよ。

既に私達は出遅れていて災厄の目的は半分達成されている気がするけれどね。

今回の災厄の種を摘まなかった場合どうなるかを考えると解るのよ」


アリスは悔しそうにしながら手を握りしめていた。

確実に対処する事。

そして災厄が置いた仕掛けに気付くのに遅れたことに対する後悔だった。

そもそもその起点に関しても今回は良一に見つけてもらう形になっている。

その時点でアリスにとっては出遅れているのだ。


「それこそ必死に存在しない不審者を集は探し続ける事になるでしょ。

その行動こそ探偵というとても都合のいい配役を集は押し付けられて。

それに相応しい立場になっているでしょ。

これから厄介事に対処する立場に集は押し上げられる事になるでしょ」


集の高校時代の前半。

それは夢の為にわき目もふらず走り続けていた結果であるが…

進奏和高校に通う一人の高校生でしかなく。

際立って目立つ生徒では無かった。

それが表舞台に出る事になるのは黒江有珠と深く関わる様になってからである。

それまでは薄く浅い関係でしかなく青木集が進奏和高校で有名?になるのは、

その辺りからである。

目立つ有珠の困り事を解決する人と言う立場から引きずり出される形であった。

まだ1年の夏が迫る時期。

不審者を捕まえると言う探偵の真似事をしてしまった集、

既に普通の生徒ではなく青木と言えば誰の事?と質問されると、

一年の集くんではと名前が上がるほどには有名になっている。

実績が出来ている事。


「そして大城里桜は不審者に目を付けられている事になる」

「あれ?不審者はいないと結論が出ているだろう?」


前後の話がなかなか繋がらない。

集はもう一度アリスに確認のために聞き直していた。


「それが存在する事になるの。

別の何かがその不審者と言う存在に滑り込み世界にとって不審者がいる事。

それが当然と言う形を創り上げる種になる。

世界に割り込むための亀裂が欲しいの。

そして終わらない不審者騒動はその格好の餌なのよ。

何処の誰がその不審者という「枠」に収まるかなんて今は置いておくとして。

断ち切れていた繋がりがまた作られてしまえば改変は始められてしまう。

里桜がその不審者に襲われてしまえば変えた未来は今一度、

青木集にとって都合の悪い未来に引き戻される因果が割り込める。

確実に災厄は里桜に対して回避した怪我と同じ結果を作り出すわ。

私達が切り替えた未来をあざ笑うかのようにね。

災厄もそう言う風な形を取って私達の書き換えた運命を引き戻すのよ」


それは叶える者として作り上げた計算結果から導き出した未来の結果。

その結果を災厄も思考しあらゆる手法を使って改変する。

都合のいい形に作り直すと言う事である。


「世界は可能性を内包し続けているの。

私達はその可能性の中から一番私達にとって良い物を選んで固定するのよ。

未来は現在の積み重ねの先にあるのだから」

「なんとなくだけれど今回しなければいけない事が解った気がするよ」

「そう?あまりうまく説明できた気はしないのだけれど。

納得してくれたのならこれ以上の説明はしないわ」

「十分」

「そう。なら時間も差し迫ってきたわ。

そろそろ始めましょう?」

「解った」


丁度そのタイミングで最終下校時間を知らせるチャイムが校内に鳴り響いた。

当然そのチャイムが鳴り響いた結果校内から生徒はいなくなり、

後は見回りの教職員が巡回する時間となった。

そのタイミングを狙ってアリスと集は目的の場所。

写真愛好会の部室へと向かったのである。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?