災厄側からの明確な動き。
その動きに対応するためにアリスは動き始める事になる。
とは言ってもその起点となる点は既に良一が調べてくれている。
だからそこまで状況は難しくない。
契約者としている集が動いてくれれば何ら問題なく終わる。
軽作業ともいえる事であった。
アルバレストで良一からのアドバイスを聞いた数日後。
準備が出来たアリスは集と行動を起こす。
今回の不審者を作り出した災厄に対してこれ以上迷惑な探偵事が続かない様に。
その矛盾を作り出す災厄を排除する為に動き出したのだ。
何気ない日常学校生活の放課後。
何処に行くわけでもなく最終下校時刻までアリスと集は時間つぶしの為に、
図書室へと移動していた。
「初めての実戦ね」
「実戦という表現を聞くと何だかとても危ない事になる気がするんだけど」
「それはやってみなければわからないわ。
ただ、無条件に安全な作業をする訳じゃないから。
多少の驚きと痛みはあるかもしれないわね」
「想像を超えた事が起こらない事を祈るよ」
「目の前で起こる事は全て常識的な事しか起こらないわよ。
ただし、その常識は脚色されていると思うけれどね」
「難しい言い回しだな」
「そうね。簡単に見えて中身が複雑な事なんてよくある事じゃない?」
「確かにそう言った事もあると思うけど」
そのアリスの言葉に少しではあるが集は気分が高揚していたのである。
それは非日常への入り口であり集の知りえない理の中で動いていた不思議。
未知との遭遇と言う意味では恐怖よりも好奇心が勝っていた。
アリスとしてもビビッて足を止められるよりかは暴走気味の方が都合がいい。
ただ集からの質問が尽きる事は無かったが。
「教えてほしいんだけど。
災厄とは叶える者と僕達の敵なんだよな?」
「ええ。その通りよ。
少なくとも害悪と表現できる災害ね。
予測が出来ないと言う意味では天災という表現もあてはまるかもね?
集が未来において破滅させられた理由は単純よ。
災厄が引き起こした結果に集が引きずり込まれたのよ。
だから力が働く前に処理してしまえれば災厄への対処としては一番楽ね」
「その処理という意味がいまいちわからないんだけど」
「そう難しい事じゃないわ…
ただ世界にとって「あってはいけない形」を崩すだけ。
災厄とはこの世界に紛れ込んだ異物なのよ。
その異物を取り除かないと現実がその異物に引き込まれるの」
「…やっぱりよく理解できないな」
集にしてみれば因果の流れは見えない。
どう動けばその効果となるのか見えているのは叶える者のアリスだけ。
そのアリスの行動通りに動く事は出来ると考えているが。
集の目には普通の常識的な世界しか見えないのだ。
立場がその二人の考えを分け隔てているのである。
それでもアリスは気にした様子はない。
わかってる。
わかってると言いたげに話を進める。
「…ならもっと簡単にオーパーツとかアーティファクトって言えば解るでしょ?
歴史の流れから考えるとアリエナイ物だって」
「それなら知っているけど」
「そのオーパーツとアーティファクトが常識的に世界にある事が正しい世界。
それが世界に認められ証明されると災厄側の勝利になるの。
私達は私達の知っている時間軸でおかしな所を潰す事。
それが私達がしなければいけないゲームの勝利条件。
災厄との戦いの結果出来た物って事」
「誰かが、災厄と戦い勝利した結果がアーティファクトってこと?」
「完璧な勝利を得られなかったからその残滓がこの世界に形として残ったのよ。
ありえない精度で嵌まり込んだ巨岩なんかがいい例ね」
それは集も見たことがある事だった。
テレビなどで放送される遺跡の一部。
年代からすれば絶対に作ることが出来ない、
ぴたりと岸壁の様に嵌まり込んだ巨石が綺麗な正方形でカットされており、
どうやって並べたのか解らないほど正確な石室を創り上げているなど…
「未来や現在において別の叶える者達が災厄と戦ってその改変を阻止したの。
けれどその結果過去に「その石室がある事」が正しいとされてしまった。
未来において正しい環境の為にその石室が必要となってしまったから、
その場所が残されてしまったって事」
「更にややこしくなってきたな」
「じゃあ簡単に言ってあげるわ。
今の正しさを証明すると時間は正しく流れる。
そしてその流れは未来だけじゃない過去にも影響するって事」
「なる…ほど…?」
「この世界は今という時間を起点に未来も過去も決まっていないの。
いくらでも何度でも世界は書き換えられる。
些細な事で未来は変わっていくのがこの世界なのよ。
ただし時間という流れは確実に存在していて私達はその時間に流されている。
だから立ち位置と見える世界を違和感なくしなければいけないのよ。
でなければ今ある物理法則は崩壊し世界がおかしな事になる」
「災厄に任せていたらまずい。
未来はいくらでもおかしな方向に変えられるって事なんだよな?」
「ええ。ちゃんと成果も出ていいるのよ」
その成果とは勿論集が動いた事による些細な変化。
けれど長い目で見れば確実に変わった事であった。