「…え?」
「…はい?」
男子2人とウェイトレスが向かうはミロワールの伝統的な席。
そこに制止も効かずに座ることになった大地と集。
集は有珠の愛らしさに見とれて使い物にならず。
大地と有珠とで話は進んでしまっていく。
「ダメ!ダメだよ。榊原君!君には里桜がいるでしょ!」
「うん?大城さんなら今日はここにいる事(働いている事)を知っている。
良いと言ってくれたから来たのだ」
「…え?そんな。里桜公認って事なの?」
「そうだ。安心してくれていい。これでも常識は弁えている。
(仕事中に里桜に)手を出す様な事はしない。ただ見守っているだけだ」
「ええ?そんなの…そんなのってでも、(愛の)形はそれぞれだから」
「その様だな。(制服は)各自違うとは良く出来ている。
プロフェッショナルな対応に感動しているよ」
「そうなのね…認めてほしいんだものね…
解った!私も応援するよ」
「それはありがたい。なるべく早く(不審者の件は)決着をつける。
待っていてくれ。期待を裏切るようなことはしない」
「う、うん…」
フリーズしている集に代わって大地はテンポよく動いて決めてしまう。
そして大地は適当にメニューを開くと写真を見て注文を決めたのだ。
集と2人できているのだからと格安のメニューを選んだのであるが…
それはセットメニューであり2人分用である。
ただし…カップル専用のメニューであるのだが。
大地と集が友情を越えて愛情を覚えるまでになっているのであれば…
当然このメニューを注文してもおかしくはなかった。
有珠も指をさされてどうしようかと少しだけれど悩んで。
そして結論を出したのだ。
―うん愛にも色々な形があるからねっ―
―里桜が泣かないのなら別に良いかな―
全く良くはないのであるが。
それ以上は深く考えない事にしたのである。
「では店長を呼んでくれ。話を聞きたい」
「え?う、うん」
困惑しながら有珠は注文を厨房に伝えに行って、
その足で店長である美香を呼びに行ったのであった。
「て、店長?そのカップル席で
お客様がお呼びです…」
「へ?解ったわ。それじゃ少しこの場を離れるから」
有珠からのその呼び出しに丁度きりも良かった事もあり直ぐに美香は、
対応したのであるが…
向かった先の風景に美香は驚く事になる。
いや…どう反応して良いのか解らないのだ。
何せ3度目の不審者の入店は1番インパクトがあったのだから仕方がない。
同時に何故か美香の中で納得できるストーリが出来上がってしまったのだ。
そう1度目の来店でカップル席を無下に扱い、
2度目の来店で人を探していたのは…きっと里桜。
現彼女を説得したかったのだろう。
そして3度目の来店で学校全体に伝わる公認のカップルになる為。
全力でここに来たのだ。
何と誠実な男なのだろうと。
美香は集の事を見直していたのである。
「それで私達は不審者に関して色々と情報を確認お聞かせ願いたく…」
「…え?公認してほしくて来たんじゃないの?」
「公認とは?」
未だフリーズして動かない集を放置気味で話は進もうとしたその時、
後から来たのは注文された品物を持ってきた里桜であった。
「ね、ねぇ榊原君?これは一体どういう事?」
「どうとは?」
「その席に座ると言う意味を理解しているの?」
「いいやまったく。たまたま開いていた2人席があるのに、
黒江さんが案内を渋るから先んじて見つけて座っただけだ。
彼女も忙しそうであまり手を煩わせる事をしたくなかったからな」
「そう…。
ねぇ榊原君。ちょっと向こうで私とお話をしてくれるかな?」
「…やれやれ。我が愛しの姫君は」
「そう言うのはいいからっ!」
「ま、まて大城ぉ」
自体は複雑かつ壮大な勘違いの4角関係の装いを見せていて。
そしてその誤解を解き間違いを正す為に大地は里桜に連れ去られる事になるのであった。
同時に置き去りにされた集と美香は席をカウンターへと移した。
店内のお客さんが4人の関係性にどぎまぎしながらざわめく事になる。
けれどそれも一瞬の出来事。
直ぐに店内は普通の雰囲気が流れて平常状態を取り戻したのである。
「それでお話って?」
「人伝に聞いた事なのでその事が正しいのか間違っているのかを、
考えたいと思いまして」
「そうなの?」
「はいそれで不審者がこの喫茶店に現れるっていう話を詳しく…」
「ああその事ね…」
美香としてもなんとも言いにくい状態であった。
勿論不審者として確認していたのは目の前の集である。
しかしあの時のように言い淀みどもる様な素振りも見せず。
その与えられる印象はとても同一人物とは思えない。
とは言っても容姿は、見たままであり見間違えようがない。
美香は言い訳をするのもなんだし。
もう謝ってしまうのが一番問題が無いだろうと。
話始める事になったのだ。
「ごめんなさい私の思い込みと早とちりだったわ。
さっきまでのやり取りを見ててね。
なんとなく大城さんと有珠ちゃん達の関係が解っちゃったから」
「…」
「そうよねぇ。好きな子が働いているお店に不審者が出たって聞いたらね。
頑張っちゃうわよね?
その気持ちはわかるから」
「えっあぁ。その…」
「気づいてもらえない感じなのでしょ?」
「…はい」
「応援しているとしか言えないから。
ともかく有珠ちゃんは危ない目に合っていないから」
「その言葉を聞けて安心しました」
集としては店が抱えている不審者と言う存在が明確になり有珠が問題なくアルバイトが出来ればそれ以上の事は求めない。
求める権利も無いのだが。
不審者騒動と有珠のアルバイトにはある一定のラインが引かれた。
それは集にとって問題が無いレベルになったのである。
そして余裕が出来た集とアリスは初めて集に対して仕掛けられた災厄。
その存在に対峙する事になるのだ。