「同時に結論から言わせてもらえば、
お前らが言っている「不審者」は「災厄」だった。
そして同時にその実態は存在しない」
それは良一がこの辺り全域を調べた調査結果だったと言う事。
災厄が現実に干渉する力場の場所を調べマーキングした結果だった。
「濃く残った場所は学校と商店街の裏路地の2か所だ。
近場だったから調査は楽だった。
その場所に強い因子も残っていたからな」
「…既に対処済みだって事?」
「商店街の方が対処済みだ。
お前らの母校の方はまだ見つけたままにしてある」
大き目のタブレットを開くと地図を見せられその観測された場所を、
良一は指さす事になった。
その場所はちょうど集と大地が自転車を見つけた場所。
もう一つは学校でありその位置は写真愛好会の部室がある場所と一致していた。
「思考誘導だな。
少なくとも青木集の立場を大きく変える為に災厄も手を打った可能性が高い。
何を狙ったのかは解り難いが。
青木集。お前の学校での立場はかなり変わっているのではないか?」
「…あまり実感がわかない」
「今までの自身とは全く別の見られ方をしていると思うが?」
「ここ数日間はがむしゃらに動きすぎたんだ。
…心当たりがある意味多くて」
存在の解らない不審者を見つけ捕まえる。
ここ数日間はその為に奔走していた集。
ひったくり犯を捕まえた事をトリガーにして愉快な言動を繰り広げた。
その結果本人は望んではいないが集には迷探偵という肩書が付く事になった。
学校内で青木集という存在は確実に変化をしている。
いままでの集にはない明らかな学校での立ち位置が確かにある。
「迷探偵という肩書が付いたと思う」
「その肩書を付ける事こそ災厄の狙いだったのではないかと考える」
「話が見えてこないんだけど?」
「災厄にとっての用意していた駒が所定の位置に置かれていない。
そのままでは予定通りに進まない事が解った。
なら災厄にとっての予定通りの未来を創るにはどうしたらいいのか。
簡単だ。
青木集という存在が災厄にとって予定通りの躓きをする場所に置けばいい。
災難に巻き込まれやすい立場に押し込めてしまえば良い。
確かに探偵なんて肩書はとても良い「事件」と遭遇する立場じゃないか?」
そんな事はない。
集自身は断言したかったが。
「もっと簡単に言ってやろう。
この不審者騒ぎの根底が何なのか。
偶然とすれ違いの産物から始まっている。
犯人となる起点が曖昧な事がその証明だ。
疑念と負の感情。
そもそもこの辺りの治安は悪くはない。
喫茶ミノワールの店主がそこまで不審者に関して深く考える必要が無いほどにな。
本当に見え隠れする犯人像通りの不審者がいるのであれば。
しかもヒントとして学生服を着ていたと言う明らかに特定しやすいマーク。
それがありながら数日間にわたって潜伏し、
そんな不審者が捕まらずにいられるはずがない。
にも拘わらず犯人の姿は見つからなかった。
そして待っていましたと言わんばかりの犯人を捕まえる為の役者。
それらしいヒントが青木集には集まりそのヒントに操られる様に動かされた。
違うか?
一連の行動はそう言った思惑がなければ成り立たない
悪い気分でもなかっただろう探偵と言う立場は」
思いかえせば確かにヒントは腐るほど揃っていた。
そう考える様に誘導されていたかに感じる。
そして確実に集は探偵と言う立場に押し上げられていた。
その場所で与えられた立場を演じる事は物凄く危険な事であるにも関わらず。
既に作られた土台から降りる事は許されない所に立っていたのである。
「…集、あ、あのね?」
折角上手く折り合いをつけて安全でより問題のない未来に向かって歩き始めたと思ったのもつかの間。
それ以上に危ない立ち位置に集は立たされていたのである。
しかし…ものは考えようである。
前回の人生は言い様にやり込まれて災厄が望むままに踊り狂って破滅した。
けれど今回は戦うチャンスと方法が与えられたと捉えれば、
この与えられた探偵という立ち位置は悪いわけじゃない。
「むしろ好都合じゃないか?
確実に災厄は僕を潰しに動くと言う事なのでしょう?」
確かにその通りだと良一は宣言する。
今の自分ならある程度未来を知っている。
それが最善であるかどうかはわからない。
けれど少なくとも前回の歩みを知っているからこそ、
更に良い結果を得るために別の選択肢を選ぶことが出来ると言う事でもあった。
「少なくとも破滅する未来よりかは良い未来を掴めるのであれば。
それ相応に生き足掻く事も悪い事じゃない」
「集…」
少しばかりであるが靄がかかっていた未来に対する記憶。
それが集の中で蘇りつつあるようであった。
この世界に転生してから考え行動した結果。
それは確実に積み重なっていると言う事なのだ。
「それで災厄の種は学校に有る事は確実で、
それを処理すればこのありもしない不審者騒動は沈静化する?」
「その見立てが一番近い。
しかしその正体は一体誰なのか…それは感知できなかった」
けれどここまで来たら集でもある程度の予想が付き始めていた。
自身に関わる事であると同時に青木集という存在を迷探偵にする為に、
災厄が作らなくてはいけなかった証拠。
それが災厄の基点であり楔であるのだと。
持っていた写真愛好家から貰った一枚の写真。
それを制服の内ポケットから取り出してアリスの方に差し出した。
「アリス。この写真に触れる事が出来るか?」
単純かつ明確な確認方法である。
その問いかけにアリスは直ぐにその写真に対して手を伸ばしたのである。
そして差し出されたその写真は、受け取ろうとしたアリスの手を貫通したのだ。
災厄と叶える者との関係。
叶える者は災厄に対して干渉する事が出来ない。
その証明がなされたのである。
「思考を操作する思念的な物が込められ変質した物か」
良一はそうしみじみと判断した。
同時にアナログカメラである事がその災厄と現実世界に干渉する強い楔となる。
何枚でも複製できるその本体フィルムこそ集を探偵に押し上げる為に作り出された災厄の本体なのだと言う目星が出来たのであった。