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第53話

写真愛好会の部室で新しい手がかりを手にする事が出来た集と大地。

最後に愛好会のメンバーにその写真の事を聞く機会を得る事が出来たのだ。


「僕達の写真はお役に立てたかな?」

「はい!十分に役に立ちましたよ。

出来れば撮影した時の事を聞きたいのですが」

「構わないけれど、僕たちも撮影に夢中でそこまで深くは覚えていないんだ」

「大丈夫です。その些細な気付きだけでも!

もしかしたら僕達が探している相手に近付く事が出来ると思うので!」

「解った。微力ならが協力するよ」

「ありがとうございます」

「感謝する」


とは言っても写真愛好会は別に不審者を撮ろうとした訳でもない。

ましてその風景に違和感があったから撮影しようとした訳でもないのである。

本当にその写真を撮った時間と雰囲気位程度であった。

だが迷探偵と偽助手にとってはそれだけで十分な手がかかりとなったのである。


「見つけた複数台あったあの自転車の行方を探す事が次の課題だな」

「その通りだとは思うが、探すにしてもどうするつもりだ?」

「知らないのか大地。今どきの自転車は防犯登録がされているんだ」

「ふむふむ」

「なら同型の自転車を所有している人を見つければいい。

そしてそこから防犯登録している登録先を問い合わせればいい。

それで不審者の正体は簡単に判る!」

「なるほ…イヤ待て集」

「なんだよ大地!名案を閃いた以上直ぐにでも調査に取り掛かりたい!

自転車の色と形は解ったんだから不審者に僕たちは近づいているんだ。

ここは一気に調べて不審者が痕跡を消す前に捕まえなきゃいけないだろ?」


流石にこのガバガバで穴だらけの推理とも言えない考察?

そこにはいかに寛大に見ているつもりだった大地も付き合えなかった。


「…確かに複数台の自転車は確認できたそれは認める」

「だろ?」

「しかしその複数台が問題だ。

不審者は一人なのだから複数台自転車があった所で使うのは一台だ。

その一台がどれなのかわからないではないか」

「それは…全てを調べれば!」


いやそれ以前に防犯登録された物をどうやって調べる気なのか?

そもそもそう言った物は警察にしかないし。

しかもどういった理由で調べる?見せてもらえる物じゃない。

更に言えば複数台ある自転車の写真。

その車種を特定するのも難しい。

確かに特徴的に判別できる所もあるが限界もある。


「どれ程の種類があると思っている?」

「そこは!写真はアナログカメラだろう現像する時に引き延ばせば!」


デジタルカメラと違ってアナログカメラは現像すればいくらでも拡大できる。

集はそう思って写真愛好会のメンバーを窺うものの苦笑されてしまった。


「確かにデジタルカメラと違って拡大も出来るけれど限界はあるよ」

「そうだったんだ…」


そして自転車の部分を限界まで引き延ばしたとしてもぼやけるだけで、

車種の判別は出来ないよと教えられる始末である。

更に大地は追い打ちをかけるのである。


「そもそも犯罪を犯しそうな危険な不審者が防犯登録で住所が割れるような物を使うと思うか?」

「もしかしたら間抜けな奴かもしれないだろ?」

「そんなお粗末で間抜けな奴なら既に尻尾を掴んでいると思うのだが?」

「…相手はそう簡単に尻尾を掴ませてくれないと言う事か?」

「相手が愚者と考えたら既に私達で捕まえられている。

集も私もそこまで愚かではないはずだ」


自分達は不審者をそれなりに評価していたはずだと。

だから簡単に見つからない。

そして見つからないからこそ手がかりが極僅かであり薄かったのだと。


「…希望は抱くなって事だな」

「ああ。

だが収穫はあった。

自転車を移動手段に使っていると言う事が解ったから。

行動範囲を絞る事が出来る。

徒歩じゃない。

いつも自転車通学をしている可能性が高くなった」

「そうか。

移動時間を考慮して行動範囲を絞ればいい!」

「やるぞ集!私達は犯人に近付いている!」

「ああ。もう少しだ!」


こうして集と大地は新しい手がかりを手に入れたことにより、

その不審者の影を追って行動する事を止めないのである。

動き出した二人を止める者はおらず…

この迷探偵と偽助手の考えは写真愛好家の生徒達の前で繰り広げられていた。

一見真面目な受け答えをしている集と大地。

その熱く理論を語り合う二人を制止し突っ込める生徒は悲しい事にいなかった。


「あの二人は一体だれを探しているのかなぁ?」

「迷探偵と(偽)助手なので私達にはきっと理解できないのよ」

「そっか」

「ええ…」


気の毒そうな何とも言えない考えしか浮かばない写真愛好会の面々。

けれどその大胆にして間違った推理は大地と集を有名にするのに十分な姿だった。

迷探偵と偽助手の迷い続ける推理は次の段階に入る。

彼等が向かった場所は自転車が停められていた場所であった。

商店街の裏路地へと辿り着いたのである。


「ここから学校までの道のり。

そして自転車での行動範囲内に不審者はいる」

「その通りだな集よ。

今日はもう時間も遅い。

商店街の聞き込みをする時間としては不適切だ。

続きは明日の放課後から始めよう」

「ああ!」


次の目標を確認した二人はそこで別れる事にしたのである。

一人になった集であったが…

まだ帰るのには少しばかり早い。

そう考えそれならばその時間は有意義に使うべきである。

今日こそ有珠の働く姿を見たいと考えるのは普通の事であった。

有珠が無事に働いている姿を見られればそれだけで安心できる。

自身の(迷)推理は間違っていないと言う確信が持てる。

集はその足を喫茶ミロワールへと向け…


「…聞き込みって、あなた達何を聞くつもりなの?」


その先にいたのはメイド服スタイルのウェイトレスのアリス。

ジト目で何を意気込んでいるのか解らないと言った風であった。


「アリス?どうしてこんな所に?」

「どうしてって、それを集が言うの?

私に有珠を見守っていてくれと言ったから。

こうして近場のお店で陰ながら有珠を見守っているんじゃない?」

「…そうでした」


そのメイド服姿のアリスを見るまで見守る事すら忘れていた集であった。

やれやれと言った感じで集を見るアリス。

それには若干の疲れを感じさせつつ集への追及は止めなかった。


「で、あまり言いたくないのだけれど?

どうして聞き込みをする気なの?」

「それは勿論不審者の情報を集める為だよ」


その言葉にアリスは凍り付く事になったのだ。

同時にこの不可解な不審者騒動に対して一種の確信めいた事を覚えたのである。

その考えはアリスにとっては余り認めたくない物だった。


「そう。なら不審者に関して教えてあげるから寄ってきなさい」

「それは何か掴んだって事なんだな?」

「ええ。これ以上振り回されるつもりはないから。

一定の回答は必要でしょうし、ね」

「解った」


こうして集はアルバレストでアリスと店主の良一から話を聞く機会を得られたのである。

集の迷探偵としての力走は終わりを告げられる事になったのだ。



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