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第50話

「なかなか難しい戦いになりそうだな…」

「しかしこの先を越えて内部を確認しなければ手がかりは掴めない。

諦めるつもりはないのだろう?」

「勿論」

「きっと重大な秘密が隠されているはず。

僕の推理に間違いはない!」


高らかに勝利?を宣言する集であったが…

集と大地は当然部員がいる日を狙って写真愛好会の部室に現れたのだ。

当然目的は不審な写真を手に入れる事であった。

この日も迷探偵と偽助手は絶好調である。

本人達はいたって真面目なのがある意味やるせないのであるが…

ただし迷探偵らしくその行動は一味違う。

偵察や視察という単語の前には別の単語が付くのだ。

強硬と言う言葉を取り付け真正面から切り込むのである。

その正々堂々とした切り込みは当然写真愛好会にもバレているのである。

正しくはバレない方がおかしいのだが。

集達が狙うのは写真の現像が終る時間に合わせてである。

事前調査もばっちりなのだ。

幸か不幸かクラスメイトには写真愛好会に所属する部員がいたのだ。


「今度写真愛好会の部室に写真を見せてもらいたいんだ」

「それは構わないけど。青木が楽しめる様な写真はないと思うよ?」

「大丈夫さ…君たちが持っている写真を確認したいだけだから」

「ええと、それは迷探偵的な意味でかな?」

「勿論。きっと君達の取った写真は重要な証拠が取れていると思ってる」

「そっか。そうなんだね。なら協力するよ!」

「ありがとう!」


とても友好的に対話を終わらせる事が出来たのだ。

その現像が終わる時間を知ることが出来た集の素晴らしい交渉の成果であった。

既に集は迷探偵として学校内での知名度を飛躍的に向上させる事に成功していた。

その信用を代価に貴重な情報を得る事が出来たのである。

勿論その情報を聞き出す様子を遠目から大地は観察しながら、

調査に入ると事前に言ってしまえば証拠が隠されてしまうと思ったのだが…


「心配するな大地。

それで慌てて動くようであればそれはやましい事があると言う事さ。

そしてその動きこそがまだ姿を見つける事が出来ない不審者がいる証拠!

そいつの断末魔となるのさ!」

「なるほど確かにその通りだ!流石迷探偵だ!」

「今日の僕は冴えている頭脳戦で左に出る者はいない!」

「…そーだな」


そうして現像が終わる時間に合わせて集と大地は部室棟に張り込んだのだ。

その様子はばっちりと写真愛好会の生徒に見られているのである。

真面目な性格が災いしてか虚を付く様な卑怯?な事は集はしないのである。

同時に物を隠す時間を与えない。

その絶妙な時間。

決定的瞬間を押さえる為に厳選したその時間に大地と集は飛び込んだのである!


…開いている扉に向かって。


行儀よくコンコンと扉を叩いてから入室したのである。

部外者である大地と集は愛好会の生徒にどうぞと声をかけるまで、

部室に入る事はなくちゃんと呼び込まれるまで待つのであった…


訪問日。

訪問時間を事前に伝えていただけあって部員の対応はとても友好的。


「よく来てくれたね歓迎するよ」

「あ、はい」

「失礼する」


笑顔で出迎えてくれる愛好会の生徒達に集は驚き大地はそうだろうなと。

納得した様子なのであった。

予告通りの時間と言う事で現像された写真が並べられており、

写真愛好会の生徒達はこれから一番良く取れている物、

どの作品を選んで記録として残すのか保存するのかの会議に入る直前であった。

正しく集の狙い通りのタイミングなのであるが…。

その部室の雰囲気は個展の会場の様な雰囲気。

正しく写真を眺める場所として仕立て上げられている。


「それで迷探偵はどの写真を見たかったんだい?」

「僕達が商店街でひったくり犯を捕まえていた時に撮影した写真はあるかな?」

「その写真なら一通り準備してあるよ。

きっと迷探偵の重要な手がかかりなのかなって思ってね。

事前に連絡しておいてくれたおかげでその日撮った写真は全て揃える事が出来てるよ」


事前予告。

それは社会人としてもマナー。

その規範をある意味逸脱出来なかった集は自然と告知してしまっていた。

予告する事によって円滑に物事を進める。

そんな常識的な思考が集に自然とそういった行動をとらせていたのである。

…という事はなく単純に集が迂闊なだけである。

その行動が駄々洩れな所が正に迷探偵と言われても仕方がない事であった。

事前準備として完璧に揃えられていた写真の束。


「その、ありがとうございます」

「済まないな。調査には必要な事なのだ」

「解っているさ」


愛好会の代表の生徒は笑顔で受け答えして、去っていく。

集達は部室に用意してもらっていた写真の束を確認する作業に入ったのだ。

不審者として怪しいと考えていた愛好会の生徒達。

けれど皆真剣に撮影した写真を見分してより良い一枚を選ぶのに集中している。

それは下手に不真面目な部活動よりも真剣。

そして本当にこの街の風景を切り取って形にして残す。

その純粋な気持ちだけで続いているメンバーが揃っているからの討論であった。

どう見ても盗撮をするような者はおらず。

正体を現さない犯人像とは違う生真面目な生徒しかいない。

彼等は正々堂々と撮影をしている。

そこに後ろめたさなんて感じている様子はないのである。


「集、確認を始めよう。

色々と気付かなかった視界の外にあるかもしれない」

「…そう、だな」


写真を受け取った集と大地は写真の良し悪しを聞きながら手を動かす。

食い入るように手がかりを求めて何枚ものを写真を確認し続けた。

そして、ついにその努力は報われる事になったのだ。


「見つけた」

「…あぁ、そういう事だったのだな」


その写真は裏路地を望遠で写していた写真であった。

そして大地と集が捕まえた自転車が写っている。

しかし、その自転車は一台では無かったのである。

複数台が重なり合うようにして置かれていた。

けれど集と大地が見つけた時にその自転車は一台しかなかったのである。

そこから導き出される答えは一つなのだ。


「集よ逃走用品が複数台あるな。

ビンゴだな!不審者は一人じゃない…」

「ああ。やっぱりあの時捕まえたひったくり犯は偵察だった。

そして奴を囮にした臆病で卑怯な犯人がいるって事だな」

「そう考えるとまずい事になってしまったな。

我々の動きが完全に見透かされていると言う事か。

このままでは後手後手に回ってしまい奴を捕まえる事が出来ないっ」

「際どい綱渡りを強いられる事になりそうだな」

「これからはより注意深くそして細心の注意を払って行動せねばいけない。

出なければ我々は出し抜かれてしまう」

「…くそっ。俺達よりも奴等の方が一枚上手なのかよ。

だがまだだ。

まだ完全に後手に回った訳じゃない。

僕たちにもチャンスはある!」

「その通りだ集。

まだあきらめるのには早い!」


色々な意味でドラマチックな展開を見せる集と大地の迷推理は終わらない。

そして見つけてしまった不審者へと繋がるのかもしれない証拠。

複数台置いてあった自転車は不審者へと繋がる物とされてしまうのか。

それは集と大地の集める証拠によって決まってくるのである。



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