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第49話

進奏和高校写真愛好会。

その発足はとても古く長い間愛好会であり続けている。

部員数は12名前後で1学年4人程度の人数であった。

他の部活とも掛け持ちできる程度の活動しか行っておらず、

分類としては弱小と言ってしまっても良い。

その発足は高校周辺の変わりゆく街並みを綺麗に残そう。

そう言った純粋な気持ちから始まっている。

当時の学生がアルバイトを自身でやって機材を集め、

アナログにこだわって風景を記録し続けている。

今では珍しくなりつつあるアナログカメラ。

利便性に逆行した何度も取り直しが出来ない。

けれどその一瞬を取り残すのだと未だにアナログのカメラにこだわり続けている。

卒業して社会人になってもその繋がりは途切れる事はなくOBから手厚い支援も受けていた。

繋がりはより強くそして脈々と続くその写真を撮りづ付けると言う行動。

それ自体に価値を見出しその関係は終わりがない。

進奏和の愛好会は学校の外の繋がりでとても良好な関係を築いているのだ。

彼等はやるべき事をやりなすべき事をしているだけなのである。


放課後。

定刻時間となれば転向に関わらず三脚を立てて屋上で撮影をする。

その行動は手慣れたもので愛好会の生徒達は粛々と準備を進めていた。

その様子を見張る集と大地であったが…


「やはり…大きすぎるなあのカメラのレンズは」

「確かに集の言う通り普通のカメラに搭載できるギリギリの大きさだ」

「カメラは見た目通りに高い物だからな。

ああいったレンズをそうポンポン買える物じゃない。

見れば年式も新しいようだし。

一体いくつあるんだよ…」


三脚に並べられるカメラと巨大なレンズは愛好会の生徒の数以上に並んでいた。

見るからに豪華でありとても個人で揃えられるレベルではない。

集の見立ては確かに正しかった。

正しいのであるが…

それは愛好会の管理する部室に収められていた物。

変わりゆく街並みを保存すると言う理念に感銘を受けている卒業生が強力にバックアップしてくれているが故の光景に過ぎない。

が、その実情を知らない二人にはそうは見えなかった。

愛好会はそれだけ長い間続いていてOBとの信頼関係が出来上がっている。

その機材を見た集は疑いの目をさらに深める結果となってしまった。

知識と常識を掛け合わせる正解を導き出す探偵と言う存在は最後に閃きを求める。

そしてその閃きは集に間違った正しさを導くのだ。


「しかもなかなか古めかしい物まである。

あれだけ物を揃えるのにはやはり相当な元手が必要だ。

どれだけ資金力があるんだ。

…有名所のブランドカメラも一台や2台じゃないな」

「支援者がいると?」

「誰かはわからないけど。

太い繋がりを持っているんだろう」

「…昔のカメラは頑丈だから物持ちが良いのでは?

アナログカメラなら電子部品はないだろうし」

「確かにカメラは頑丈かもしれない。

けれど形あるものは壊れるはずだ。

それを使い続けるには直せる人材がいなくてはおかしい。

…僕たちは、簡単にカメラを直せるような技術はない」

「…まぁ、確かにそうかもしれないが」


集の推理は理由付けがありながら見当違いな方向に転がっていく。

そして不審者は遠くから見ている情報を初めに考えついた大地が言うのもおかしなことだが。

その集の言い分から、大地はこの推理は間違っているのではと思い始めた。

確かに集の言っている事は正しいように聞こえるが。

大地はそう納得しかけながら目の前の集に不審気な視線を向ける。

おいおい。

言っている事とやっている事は違うぞと。

集は確か楽器店の工房に入り浸って、

壊されたトランペットを奏者が納得するレベルまで直している。

主導したのは紘一であったが。

それでもあれやこれやと走り回って気を利かせていた。

直す事を成功させる為に奔走した事を見ていた。

そもそもカメラを直せる職人はいる。

集のような行動力があれば職人を見つけて修理をお願いする事も出来るのでは?

…という。

集を見ているからこそ思いついてしまった事を考えなかった事にする。

迷探偵の推理は正しいのだ。


「つまり愛好会には裏に隠しきれない大きな組織があると言う証明だ」

「…そうか?」

「それ以外に考えられないだろう?」

「そういう事にしよう」


屋上で愛好会の撮影準備は進んでいる。

皆真剣であり慣れた手つきで連携しながら動いていた。

そこからも集と大地が隠れて見張っているのに気づく素振りは全くない。

その冷静で規律がある様に見える動きは更に集の推理を加速させる。


「見てくれ。

あの全てを解っている動きと準備の手際の良さ。

それは撮影に慣れているからこそ出来ることだろう?」

「…それはそうだろうな」


定期的に場所を変えて撮影しているのだから。

個人でやるべき事。

成すべき事が自然と役割分担されている。

だからこそ手際よくそして上手に動けているのである。

普通におかしな所はないのであるがそれも疑いに曇った迷探偵の目を通せば変わる。


「話を続けるぞ。

今迄の事を考慮すると写真愛好会は怪しい。

その裏の組織と不審者が繋がっている可能性が高いだろう?

ここまで表に出て来ないんだ。

きっと巧妙に隠されていなければおかしいだろう。

そう簡単に存在を全て消す事なんて出来るはずがないんだから」

「確かにそうだな」

「つまり愛好会を隠れ蓑にして暗躍している可能性が高いわけだ」

「…あ、はい」

「ありがとう大地お前と対話を重ねた事によって、

僕は素晴らしい結論を得る事が出来た」

「そうだな?」

「だから次はその推理に対する裏付けをしよう」

「…解った」


こうして二人は愛好会の撮影を見張ることになったのである。

屋上で周囲に大きな望遠レンズを向けて撮影を続ける同好会。

近くでは吹奏楽部の演奏が鳴り響く。

進奏和高校の放課後の屋上の風景としては別段おかしな所はない。

ありふれた風景であり当然怪しい動きなどもありはしなかった。

撮影準備から終わりまで。

二人はその様子を確認し続けたが手がかりとなりそうな物は何もない。

撮影は無事に終了してしまい。

愛好会の面々は部室へと引き上げてしまったのである。

そうなると自分達の推理が外れている事になるのであるが。

またしても間違った閃きが大地には出来てしまったのである。


「…何も不自然な事は起こらなかったな」

「…違うぞ集。私達は失敗した」

「どういう事だ大地?俺達の見張りは完璧だったはずだっ」

「いや。きっと愛好会の連中は私達に気付いてしまっていた。

そして気付いていたからこそ、何も見せなかったんだ」

「何だって?」

「確かに見えない所から覗き込む様に監視をしていたが。

その様子は愛好会には気付かれていない。

だが、今日も吹奏楽部の練習はあったのだ。

そして私達が隠れながら監視していた所は吹奏楽部が練習している場所と、

愛好会が撮影している場所の中間」

「まさかっ!」

「そうだ集!彼等は音の違いに気付いてしまっていたんだ!

そして吹奏楽部の音の響きが違っていたから不審に思って、

怪しい動きはしなかったんだ!」

「そうか!大地の言うとおりだ。

注意深く不審者は未だ姿の鱗片すら見せない。

その用心深さは些細な違いに対しても機敏に反応するはずだ。

音にまで僕たちは注意を向ける事が出来ていなかった!」

「集…残念だがこの監視ももう不審者には気付かれていると思うか?」

「ここまで用心深い奴なんだそうに違いない」

「私達は失敗したんだな」

「ああ…手がかりがもう少しで手に入るはずだったんだが…」

「こうなれば直接愛好会の部室に行くほかないのではないか?」

「大地もそう考えついたか。

だがこれは大きな賭けになるぞ?」

「だが…やるしかあるまい?」


二人は不審者の手がかかりを求めて部室棟へと後日訪れる事を決めたのだった。

今の二人には学校の全てが疑わしく見えているのだった。

迷探偵の迷推理はより浅い深淵に向かって浮上?していくのである。



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