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第47話

その日商店街には2店目の進奏和の生徒達の憩いの場となる喫茶店がオープンし喫茶ミロワールにライバル店が生まれる…

と言った事にはならなかった。


「ふふふん~」


鼻歌を歌いながらアリスは喫茶アルバレストの店員として仕事を始める。

日曜日の開店前の店前の清掃。

その姿は本格的な中世のメイド姿をベースとしているものの落ち着いた大人をイメージさせる姿である。

言うなれば可愛い愛らしい姿をベースにして楽しいをイメージさせる喫茶ミロワールとは対極の位置にある姿であった。

その時間は決して長い時間では無かったのだが。

そのアリスの姿はミロワールの店主美香にばっちりと見られてしまったのである。

それが何を意味するのかは簡単な事であった。

商店街の中で住み分けをしていたアルバレストとミロワール。

なのにその一方が領域を犯してくるのであれば対抗せずにはいられないのである。

商店街の商工会にて店主同士で話し合いをすれば誤解は解ける事であった。

アリスは良一が一時的に預かった姪と言う事にすれば良かったのだ。

けれど良一もまた叶える者である。

商店街の喫茶店の店主と言う役回りはあくまでも補助であった。

だからこそ細やかな根回しをする配慮はなかったのである。

そしてタイミングも悪かった。

里桜と有珠を雇い入れて噂になりより一層の集客と繁盛を始めてしまったミロワール。

その姿を見て流石にアルバレストも何もせずにはいられないと考えてもおかしくはない。

何よりも美香が見た姿がいけなかった。


「何あれ?」


有珠とアリスは髪と瞳の色を除けばほとんどが瓜二つなのだ。

まるで一卵性双生児の様にそっくりなのである。

そこに来て髪色が違うからこその際はしっかりとあれど…

着ている物も美香からすれば問題だったのである。


フリル満点の亜麻色の髪色に合わせて愛らしくミロワールの制服を着る有珠。

それは美香が考えた可愛さの象徴なのだ。

そこからフリルもレースも外しダブルのベストと長めのスカート。

そして黒の胸当て付きのエプロンというシンプルな装い。

髪色に合わせた黒の装いはとてもアリスに合っている。

そこが問題だったのである。


まるで有珠の対極に位置するような装いでありながら、

似合っていると言うのが美香には信じられなかった。

そしてその事実を受け入れる事は美香にとっては敗北に他らなない。

店外の清掃でなくては見る事の無かったほんの一瞬の出来事。

美香はアルバレストの行動を宣戦布告として受け取ったのである。


「やってやる。やっってやるわよっ!

アルバレストがその協定を破るならっ!

向こうがその気でこっちに宣戦を布告してくるのなら!

私は何時だって本気で勝負してあげるわ!」


美香のテンションは最高潮となりその日から喫茶ミロワールは大改革を迎える事になるのだった。


「黒江さん!大城さん!緊急事態よ!」

「え?何があったんですか?」

「アルバレストが私達に対抗してきたの!

私達はこの挑戦状を受けて立たなくてはいけないわっ!」


その鬼気迫る美香の説得に里桜も有珠も引き気味になってしまう。

だがその勢いは止まらない。


「不審者騒ぎの次はライバル店の出現だなんて」

「一体何が起こっているの?」

「それは解らないわ。

けれどここ数日間のミロワールの忙しさは凄いものがあったでしょう。

臨時に店の外に席を用意して対応する程度には忙しかったから。

きっとその繁盛ぶりに触発されたのよ!」

「そうなんですね」

「同じ商店街内でもライバルになるなんて複雑ですね…」

「私達は仲間でありながらライヴァルだから仕方がないのよ」

「なるほど」

「だからねっ!もう少しでいいの。

もう少しでいいから黒江さん詰めさせて頂戴っ!」

「…ええとそれはどういった意味なのでしょうか?」

「制服をより愛らしくしたいのっ」

「へ?い、いえもう十分に愛らしいですよ?

愛らしくて可愛いはずですよ!?」

「いいえっ!まだよっ。まだ足りないわ!」

「そ、そんなことないよね里桜?」

「…そうね足りないかも?」

「ええっ?」


有珠が焦るのも当然だった。

十分に愛らしさを表現した有珠のミノワールの制服はとてもではないが、

仕事着という体裁を逸脱しつつあるギリギリのだった。

まだ数度と数えるほどしか働いていないはずであったが有珠の制服には明確な変化があったのだ。

正しくはエプロンにであるが。

そもそもにおいて汚れる事が前提のエプロンであるはずなのに。

フリルやレースがふんだんに使われたエプロンはもはや仕事着と言うよりもアイドルが着るステージ衣装。

当然汚れる事よりも愛らしさを表現する事が前提に置かれてしまっていた。

それを綺麗に着こなす事が出来たのはそれこそ有珠がそう言った物を着慣れていたからに他ならない。

中学時代のマーチングバンドの精神は今も有珠に根付いている。

その衣装を大切にする方法を自然と意識しないでもできているからこそ有珠は、そんな給仕にしてはやりすぎなエプロンでも問題はなかったのだ。

不思議の国から出て来た妖精は本人の知らない内に飾り付けが進んでしまっていたのである。

納得できるような出来ないような理由を聞かされる里桜と有珠。

ただその日確実に有珠の可愛いは更にグレードアップした事は確かであった。

同時に有珠は美香に尋ねる事になったのだ。


「店長その不審者の来店はあれからあったんですか?」

「それが…どいう訳かまるでないのよ」

「それって…本当に不審者だったんでしょうか?」

「それは解らないけれど。

こういった事は油断するとその隙をついてやってくるのよ。

警戒は怠らないし不思議の国の妖精にはもっと愛らしくなってもらうわ」

「は、はあそうなんですね」

「ええ。だから今日も一日頑張りましょ!」

「「はい」」


返事をした二人はそのまま仕事に入るのであった。

喫茶ミノワールが開店する時刻になってもまだ喫茶アルバレストは開店の時間ではない。

だから開店までの間アリスは窓際からミノワールを監視し続けていた。

本当に不審者がいると言うのなら祝日でしかもお目当ての人が働く時間なら、

近付かないだけで遠くから観察している可能性もある。

そう言った推測の下での監視だった。

開店直後ならそんなに混んでもいないだろうし見つけやすいかもしれないと。

目を光らせるアリスであったが…


「困ったわね。

怪しいと思うとどれもこれもが怪しく見えてくるわ」

「大変だな」


皆が皆誤解から生まれた不審者の存在を探し続けその正体を暴くべく動いていた。

有珠への見守りをアリスに託すことが出来た集。

その安心感は彼に更なる行動力を与える事になる。

その迷探偵ぶりと傍にいる偽助手(大地)の活発な調査は次の段階へと移っていたのだ。



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