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第41話


「知っているか集?」

「何が?」

「喫茶ミロワールは今【不思議がいっぱい♡】らしいぞ」

「…なんだよソレ?」


学期末テストが終って夏休みが近づく中。

集は大地から意味不明な言葉を聞かされることになった。


「別に大したことじゃない。

ただ大城が喫茶店でアルバイトを始めたようだ」

「へぇ…欲しい物でも出来たのか?」

「いや黒江さんがアルバイトをするのなら自分も一緒にするみたいな感じらしい」

「それはそれは勤労に勤しみ汗を流すとても良い事だな」

「…そうなのか?」

「働く事は悪い事じゃない。

そして労働にあった対価を得られればそれはそれで良い経験だろ?」

「確かにそのとおりであるが、集よたまに君は物凄い「おっさん臭い」言動をするな?若々しさが足りないんじゃないか?」

「余計なお世話だ」


確かに中身の年齢からすれば集は30間近だった。

その結果言動が若干古臭くなってしまっても仕方がない。

旧年代の死語である何時流行ったのか忘れ去られた言語を言わないだけマシだと思うのだが。

某掲示板の常用語が出て来るくらいは勘弁してほしいと思う集である。


「で、だ。

おっさん臭い集の事は置いて本題に戻そう」

「はいはい」

「ミロワールに不思議の国の妖精が現れたそうだぞ」

「へぇ…」

「とても愛らしく皆が挙ってその働く妖精を見るべく喫茶ミロワールに通っているそうだ」


大地はまるで見て来たかのように説明を続ける。

その説明から色々と集にも思う所があったがそこまで興味を持って聞く話では無かった。

喫茶ミロワールの妖精の話は言っては何だがよく聞く話である。

あの喫茶店では何時の頃だったか亜麻色の髪の妖精が店員として働く事があったから。

そう言った店の雰囲気に合った店員が入る度にそう言った話は耳にする。

現在しか知らない「大地」にとっては初めての話題である。

しかし未来を知る集にとっては「知っている出来事」でしかない。

集にとっては聞いた事のある自然の流れであったのである。


「おや、あまり興味をそそられる内容では無かったかな?」

「何度か聞いた話だからな」

「…集よ何処でその話を聞いたのだ?」

「え?」

「喫茶ミロワールに亜麻色の髪の妖精が働き始めたのはつい最近の話だぞ。

今までにない愛らしい妖精でありソレに合わせて店主が専用のエプロンを用意したからこそ、妖精と言われているのだが?

そしてこの話題は厚くホットで素晴らしい直近のニュースなのだ。

何せ情報源は一緒に働いている大城だからな。

当然まだ噂の初期段階にすぎず知っている人も少ないはずだ。

そしてこの手の話題の発症は同じ学年の女子生徒から始まるはずな・の・だ・が?

何故そんなニッチな話題でしかないはずの亜麻色の髪の妖精の事を当たり前に感じているのだが説明を願いたい」

「ほぉ…ん…?…いや…ちょっとまて」

「ほほう?何を待てばいい?待ってやるともさぁ言い訳を聞かせたまえ」


大地のマシンガントークに反応しつつも集は考えを巡らせていた。

亜麻色の髪の妖精の事を知っているのは当然だ。

それは昔有珠がアルバイトをしていたと言う事を聞いた事があったから。

ゴクゴク自然の事として納得していたのである。

集はその時点でやっと自身のミスに気付いたのである。

そう。

亜麻色の髪の妖精の事を噂になる前から噂になる事を理解していた事になる。

些細な違和感である。

だがその違和感を大地は感じ取っていたのである。

大地はそう言った事に今とても敏感であった。

敏感にならざるを得ないと言えば仕方がない事なのかもしれない。

大地自身終わらない病気にかかってしまい同士を求めている節もある。

だからこそ集のそう言った兆候には無駄に敏感であった。

ゾクリと背筋に走るものがある。

それは類友を見つけた人物が見せるロックオンの合図。

集はそれっぽい道を歩んではいるもののそっち側に行くつもりはないのである。

従ってここでボロを出すわけにはいかない。


「…いやお前こそ何でそんなに詳しいんだ?」

「ぬ?」


適当な言い訳が思いつかなかった集が出した答えは質問に質問を返す事であった。

普通に考えて大地が喫茶店の話題を出してくることこそ何某かの作為的な物を感じ取れる。

流石に大地が何かの罠を考えていて集を嵌めようとしているとは思いたくないが。

大地は花火大会以降そのよくわからない思惑が絡み合う所が透けて見える場合があった。

いやはや里桜と大地の中は順調に進んでいるのだなぁと思いつつその事は決して口に出してあげない集。

いつの間にか恋人関係になった事になっている里桜の存在もチラつくが敢えて気付かないふりをしてあげる優しい集である。


「大地自身が噂の発端は女子生徒が始まりと言っているじゃないか。

一体誰からそのいち早い情報を聞き出したんだ?」


そこで大地は硬直を見せ慌てふためいて…

「いや…偶然だ…」という誤魔化しの反応を期待した集であったが、

大地はそんなに甘い人間では無かった。


「何を言うか。解っているではないか。

ちゃんと女子生徒である大城から聞いた話だ間違いなんて生まれない」

「え?」

「え?何が不思議な事も無かろう。

大城里桜とは清い関係であり他者よりも深い仲となっているだけだ」

「そ、そうなんだ」

「ああ。何か可笑しな所でもあったか?」

「い、いや…

そう面と向かって付き合っていると言われると…

言っている本人よりも聞いているこっちが恥ずかしくなる」

「…まだまだ青いな集よ。

私は既にそう言った羞恥心は捨ててしまっているから問題がないのだ」

「羞恥心は捨ててはいけないだろう?」

「まぁまぁ細かい事は気にするな。

だからこそ善意で忠告しているのだぞ集よ」

「うん?」

「大城から情報を貰ったと言う事は、亜麻色の髪の妖精とは誰の事なのか…

考えるまでもあるまい」

「んげぇ…」

「そうだ!その反応が見たかったのだ!」

「僕は全然見せたくない」

「なら覚悟は決まっただろう?」

「何の覚悟だよ?」

「勿論告白をして妖精が誰のパートナーなのかを決める時が来たのだ」

「…それは」


集の心は明らかに重くなっていた。


「大地知っていて僕をけしかけているのか?」

「いや、私は何も解からないさ。

けれど良い雰囲気を作ってやってお膳立てをして失敗する愚かな奴に対しては、

多少なりとも強引に背中を押してやるべきだと感じているだけだぞ」

「そうかい」

「そうなのだ」


「アルバイトを辞めてくれとは言えないよなぁ」

「彼氏でもないからそんな事言っても嫌な顔をされるだけだな」

「そもそも何でいきなりアルバイトだなんて始めたんだ?」

「ああそれは聖のトランペットの修理代がかさんだとか」

「ししょー!俺手伝ったじゃないっすかぁ~~

有珠相手に莫大な修理代を払わせたって事ですかぁ?」

「いやそうではなく、部品を揃えるのに大金がかかったと」

「って事は…」

後の席で我関せずと言わんばかりにアリスは黙々とノートに数式を書き込み計算を続けている。

当然、大地と集の会話は聞こえているであろうがアリスは集達の会話には入って来ない。


「ま、あ、必要経費ね」


あえて何のための必要経費であるのかをアリスは口にしない。

だが災厄を撥ね退け破滅の未来を回避するのに必要な事だったと言われれば。

もう集に反論する言葉は出て来なかった。



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