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第30話

集が行った一世一代の告白。

それが失敗したからと言っても花火大会は終わる訳ではない。

綺麗に告白花火の炸裂音にかき消され有珠は里桜と大地を探しに校舎に戻ってしまった。

それは打ちあがる花火を一緒に見るという当初の目的すら半分は見られなかったと言う結果となったのだ。

けれどその探しに行った先で里桜と大地が教室の窓際で二人。

肩を寄せ合って眺めている姿を目撃する事になったのだ。

勿論二人は肩を寄せ合っていた訳でもなく。

昼間からはしゃいでいた事で病み上がりの里桜には体力的にきつかっただけ。

ただ教室の椅子に腰かけて休んで大地に寄りかかっていただけに他ならない。

退院してからそれなりに時間も経っていたのだがそれでも夜遅くまで歩く事がほとんどない里桜。

彼女としては体力的と言うよりも普段通りに若干の睡魔が襲ってきていたためでもある。

それでも夜の暗がりで無防備に体を預けているのは大地を信用しているから。

…なのか、それとも本当にそういったことに無頓着なのかは今は問題では無かった。


「あれだけ私の事と青木君の事を気にしていたのに。

あ、なるほどね…

そうだったんだね」


そう。

完全に有珠の誤解も加速する。


「素直じゃないなぁ里桜も。

ファイトっ応援しているからね」


その有珠のある種甘さを含んだ声は当然里桜に届く事はない。

親友である里桜がこの花火大会に自身よりも詳しかった理由。

それは実は有珠のお礼の事を利用して自身と大地の関係を進展させたかった。

だからこそ今日を狙っていたのだって。

互いの状況をうまく嚙み合わせて、こっそりと関係を進めようとしているという誤解を納得できる状況が出来上がっていた。

有珠も里桜も互いの恋愛がうまくいくように願ったのであるが…

果たしてその願いが成就できるのかは不明である。

有珠にしてみれば集へのお礼は花火を見せる事。

そこで一緒に見る事は副産物でしかない。

昼間の屋台での買い物もおもてなしのつもりだったのだから仕方がない。

里桜と大地は二人きりにしてあげるべきと結論付けた有珠は、そのまま屋上に戻ったのだ。


「お待たせ!里桜も榊原君ももう少し休んでいるって」

「そ、そうなんだ」

「そうだったの!

ねぇ青木君気付いていた?

里桜と榊原君が良い感じの関係になっていたって!」

「は?え?し知らない…かな?」

「そうだよね。

私も今日初めて知ったんだ。

けどちょっと考えればわかった事だよね。

だって青木君に今日の予定を伝えたのは榊原君でしょ?」

「そうだけど…」

「里桜が榊原君を誘う理由を作りたくってきっと色々と調べたのよ。

それで二人きりになるのはちょっとまだ早いって思って。

けれど誘いたくってこんな形になったんだと思うの!」

「なるほど?」


集も納得しがたい部分も感じていた。


「あのアストラルパワーな病気にかかった大地が恋愛?して恋人を欲しがる?

いやいやありえないでしょ」


そう頭をよぎるもあの有無を言わせない、参加する事を表明した時に見せた言いきった態度。

それは確かに集が納得できるだけの強引な押し進めだった事思い出した。



「ありえる…のか」

「でしょ?でしょ?」


花火を並んで見上げながらも有珠の興奮は収まらなかった。

里桜と大地と恋愛はどうなっていくのか。

どうなってほしいのかを話し続けていたのである。

そこに集がもう一度告白するような時間はない。

ただただ相打ちを打ち続けるしかなかったのだ。

それでも集にとっては一歩でも有珠に近づけた事を喜ぶべきだと納得して…

帰りの駅で里桜と有珠を大地と一緒に見送ったのである。


「で、結果はどうだったんだ?」

「それを聞くかわが友よ?」

「聞いてやっているのだ。

間違っていたら自己の認識を正してやるのも友の仕事だからな」

「そうか?」

「そうなのだ。

さぁ、胸を張って言いきるがいい」

「失敗した」

「なるほど。予想通りの展開で私も嬉しい限りだ。

当然と言うより必然の失敗だったのだろう」

「何故そこまで言い切れるんだよ」

「当然この失敗は必然であり、そうしなければお前の努力が無駄になるからだ」

「そーかい」

「そうなのだ」


誤解する余地すら大地に否定された集の落胆ぶりはすさまじかった。

だが有珠との恋愛事情よりも集にとっては確認するべき事がある。


「んで?大地は何時から大城さんとつき合う事にしたんだ?」

「…なるほど。そう見られたのだな」

「ああ。でさ?彼女が出来て幸せいっぱいの大地は?

僕に正しい自己認識を見せてくれたのだから。

大地の正しい自己認識を教えてくれてもいいだろう?」

「一理ある。

しかしその回答に対しては明確な答えは否定させてもらおう」

「かき氷を食べさせあったりさ。

花火を教室で二人っきりで寄り添っていたんだろ。

ならもう彼女と彼氏じゃないか」

「大城さんはとてもおおらかで、しっかりしているからそう見えるのだ」

「うん??どういうことだ?」

「普通に考えてみればいい。

果たして高校生になってもアストラルパワーが抜けきらない様な奴と真面目に

恋愛が出来ると考えているのか?」

「それが出来たらから今日があるんじゃないのか?」

「集よ忍耐には限度がある事を知っておくべきかと思うぞ」

「自分自身がヤバい奴だと言う自覚はあるんだな?」

「そうさ…私は危険な男なのさ…」

「恥ずかしくないか?」

「そんな物は何処かに置き忘れて来てしまったよ」

「あ…そう。

大地の特殊性を理解して大きく包み込んでくれる人なら上手くいくんだろうな」

「ああ。その通りだ。

さぁ集もアストラルパワーの充填をしに行かないか?」

「断る」

「それは残念だ」


その日はそれで大地とも別れ集は一人で帰路に就いたのである。



週が明けた月曜日。

少しの気まずさを持ちながら学校へと登校した集であった。

教室には珍しく集よりも早くアリスが登校していて、集には理解できない数式と格闘していた。

その手も集が前の席に座ると同時に止めてにやにやしながら集に挨拶をする。


「おはよう。今日は早いのね」

「ああなんだか寝つきが悪くて早起きになってね」

「そうなの。それで花火大会は楽しんだ?」

「…それなりにね」

「と言う事は告白は失敗したのね」


ガタリと大きな音を立てて集は体を翻して後ろを向く。

そこには満面の笑顔を見せるアリスがあった。

集が何かを話し始める前にアリスが口を開く方が速かった。


「危なかったわね」

「…何が?」

「だってもしもだけれど、今告白が成功していたら大変な事になったわ」

「大変?」

「ねぇ集。あなたは忘れているかもしれないからもう一度言っておくわ。

未来を変えたいのでしょう?」

「当然」

「その結末を変えるには今を決定的に変える必要があるの。

集が頑張った事で大城さんの未来は変わったわ。

けれど彼女の未来が変わっただけなのよ。

まだあなたの運命は破滅に向かって進んでいるの。

運命の天秤は平行にはならない。

どちらかにしか傾かないのよ。

だからあと一つ重しを乗せ換える必要があるの」

「…それをクリアーしない限り破滅する未来が待っていると?」

「そうよ。

だから黒江さんと関係を進めるなとは言わないけれど。

慎重になりなさいね」

「…解った」

「とは言ってもその移動させる重りも直近で動かす事になるわ。

まぁ、楽しみにしていなさい」

「ああ」


アリスは余裕の笑みを見せる。

そして止めていた手を動かし始めると集には理解出来ない数式をまた書き始めたのだ。



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