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第16話


日々普通の毎日を過ごすだけの集にとって学校生活は楽?な物である。

全ての授業は復習しているだけの感覚であるから仕方がない。

躓く所はほとんどなく忘れてたな程度の事であった。

学生生活を順調に遅れれば遅れるほど別の部分での不満が溜まってくる。

今は豊かな学生生活をする事は出来ない事は解っていた。

つまり楽しく何かをする為に資金が欲しかったのだ。

元手が無ければ何もできないのは当然なのだ。

前回のアリスの食い逃げに対応?する為に余計に持っておきたいと言い訳をして。

学習時間に変換するべき時間を全て換金してやろうかと考えたのである。

せめてくクリスマスまでには…

何とか有珠にプレゼントを渡してもおかしくない仲になりたいと考えれば。

それなりに時間に余裕がないのでは?と思ったのだ。

アリスからの呼び出しによって状況がコロコロ変わる事だけは理解した。

ならその予定に十分に対応できるだけの準備は必要だ。

即ち集はアルバイトをしてもいいのである!

一体誰に対しての言い訳なのか解らないが…

直近の映画と言う目的を達成する為には資金が必要でありその資金を得る為に、

集は経済活動をしなければいけない。

それは理解している。

進奏和は生徒のアルバイトを禁止している訳ではないし学生らしいアルバイトであれば社会経験として斡旋すらしてくれるのだ。

隣接する資料館の受付対応や倉庫整理などである。

登校前の新聞配達と言うある意味伝統のアルバイトもあるが、集は悩むよりも提案を受け入れる事にしたのである。

素晴らしいタイミングで大地は集に声を掛けたのだ。


「バイトするか?」

「する」


渡りに船であった。

土日の休日を使った清掃の仕事だと説明されれば断る理由は無かった。

簡単な慈善活動さと言って大地にホイホイと連れて行かれた場所は海沿いの港湾都市にあるとある場所であった。

凄まじい高周波が鳴り響く大音量をまき散らして回り続ける物がある場所が集と大地の仕事場だった。

朝駅集合な!と言われ指定された駅に行けばホイと必要分がチャージされた電子マネーのカードが手渡される。

それからは早かった。

電車に乗り目的地の駅に着けばそのまま着換えて現場に直行である。

出迎えてくれた人は土建屋の現場監督の様な人である。


「おお!大地今年も頼むぞ!」

「はい!任せてください」


元気よく返事をした大地。

それに集にも監督らしき人は挨拶が終ると直ぐに新品の作業着が手渡されたのである。

なによりそこで監督に対応する姿はどう見ても病気を患っていない事に集は驚く事になる。

しかしそれを気にしている時間は無かったのだ。

着換えを持って連れていかれた場所はすさまじい高さの場所であった。


「なぁ大地?何故俺達はここでこんな事をしているんだ?」

「それはお前が慈善活動みたいなのが好きみたいだからだが」

「これは慈善活動なのか?」

「もちろんだ。報酬も発生する素晴らしい経済活動だ」

「おまえ今、経済活動と言ったな?言ったよなぁ?」

「どっちでもいいじゃないか。なに簡単な掃除だぞぉ?

綺麗にするだけだぞぉ。

花壇を手入れしてお花を愛でる様に優しく繊細に掃除をすればいいだけだ。

そして日給〇万円で報酬も良い清掃活動だ」

「ああ、そうだな!確かに簡単だな(言葉にするだけならな!)

そして報酬も良いなぁ。それは認める」


けどなぁ…と集は下を見た。

そこはめのくらむような高さだったのである。

エレベーターなんて便利な物は無い。

自力でそこまで登らなくてはならない。

完全に鉄塔の外側に設置してある作業用の外にむき出しの階段を上ってきたのだ。

今集達がバイトとしてきた場所は普段は立ち入り禁止の特殊?な所。

ガチャガチャと安全帯の使い方を教わり大地にならって登ってきたのだ。

どうしてこういった場所でのアルバイトを大地が知っているのか解らない。

が、それを問い質している暇は無かった。


「下を見ない方がいいぞぉ」

「それは解る。わかってるけどぉ…」


見たくなくても視界に入ってくるのである。

そして理解した。

何故大地は可笑しな事をしても平然としていられるのかを。

きっと大地は特殊なバイトをやりすぎて普通の感覚が解らなくなっているのだ。

今はそう思い込む事にする。


「それでは始めようか集?」

「お、おおう…」


扉のロック後がちぃんと解除して開く。

その中は煤で真っ黒でありその煤を洗い流すのが集達の仕事だった。

集達がいるのは火力発電所の煙突であり仕事はその煙突内部の掃除である。

特殊建造物で短期間に清掃を終らせなければいけない為に人海戦術で行われる報酬は良いがきついバイトであった。

求人サイトにはなかなか出回らない特殊なお仕事である。

高所である事からそれなりに風も強く寒い場所である。

着て来た衣服を脱ぐ事もなくその上からつなぎを着てゴーグルをしてその上からマスクもし更にタオルで顔を覆う。

更にフードを被って完全防備で現場に突入するのである。

真っ黒に汚れたその汚れをタワシでこすり取り特殊洗剤をぶちまけ中を黒から鉄の銀になるまでただひたすらに磨き続けるのである。

少し動くだけでもふっと舞う黒い煤。

もふっと覆いかぶさり作業着は一瞬にして真っ黒になるのであった。

もう呼吸も大変でクソ暑くもはや立ち位置も分からなくなる。

真夏には絶対に出来ないため、その前に行われる作業であった。


「きおつけろ?落ちるなよぉ」

「気をつけろったって…」


全体が黒いのである。

光は吸収されほとんど床と周囲の黒が同色化して足元が見えないのだ。

高さを感じなくて済む反面。命綱無しで足を踏み外したら本当に命はない。


「ほらほら。手が疎かになってるぞぉ。これでは時間内に終わんない。

さぁキリキリ動こうオーギュメンターの調整作業よりも楽だからな!」

「お、おう」

「ほら、この後映画に見に行けると考えればやる気にもなるだろ」

「それは…なる。なるが…」

「では想像するのだ。彼女との甘い時間を!喜ぶ顔を!」

「おぉ!」

「ちょろ…」


大地は誰がとは言わなかった。

そして「おお!」とやる気になった集は全力で真っ黒になるのである。

そもそもどうやってこんなバイトを見つけて来たんだよ。

突っ込みたくなる集であった。

しかしそれ以上に驚きなのはこのアルバイトは清掃作業であること。

町の美化を推進する事ととして進奏和高校の推奨アルバイトに紛れ込ませても問題ない事になっていた事だろうか。

鍛えると言うのに間違いない仕事内容であった。

集自身が高所恐怖症でない事だけが救かもしれない。

土日二日間のバイトは集の精神力をより高位へと引き上げた。

集の人間力がアップするよりも疲れの方がひどく感じる形となったのだ。

因みに月曜日には大地は何時もの病気に戻っていたのは言うまでもない。



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