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第10話

時間は少しだけさかのぼる。

アリスと集が溝掃除に汗を流している時である。

集に約束をブッチされた有珠と里桜は教師から頼まれた資料の返却の為の作業を教室で進めていた。

整理こそ大地に頼む事は出来たが彼も暇と言う訳ではなかったらしい。


「済まないな。

今日はこれからアストラルパワー充填の時間なのだ。

ロジカルドライバーを起動しヒュージョンしなくてはいけない」

「あ…うん大丈夫。ありがとう」

「十分手伝ってもらえたよ」


里桜と有朱には全く分からない説明をされたのだが。

恐らくゲームか何かの用語なのだろうと納得して差し上げる事にした。

この手の病気は否定すると悪化する事を二人は知っているのだから仕方がない。

一応?大地が何かの予定がある事だけは理解できるし。

手伝ってもらっている立場上、大地を引き止める事はできずアデューと言いながら颯爽と立ち去った彼を見送ることになった。


「何でかしら?彼、あんなだけれど作業は早くて正確なのよね」

「…マルチタスクが旨いからじゃない?」

「ああ…」


大地が脳内でどうやって病気と折り合いをつけているのか二人には解らない。

けれど普通に病気を患いつつ周囲の人間と会話が出来る辺り頭の回転が速い事だけは確かなのだ。


「青木君といい榊原君といい…進奏和は進学校よね?」

「そうよ。だから変わり者だけれど優秀…?なのでしょうね」


なんとか結論を変わり者でとどめておきたい有珠と里桜なのである。

大地の手際も良かったのか整理作業はほぼほぼ終わりにまで近づいて来ていて、

乱雑に並んでいた資料は整えられそのまま資料館への却する準備ができた。

資料満載で2台分に膨れ上がった台車を押して彼女達は学校に隣接する資料館へと向かうのである。

そして色々な物を返却する事になったのだが。

その日の資料館は特別な整理を行っていた。

展示品の交換と整理。

新しく入手した資材や資料も搬入中でてんやわんやであった。

資料庫の整理をしている様でもあり複数の職員がせわしなく動き続けている。

そう言った状況の中で返却に来た有珠と里桜であったが職員の一人が気を効かせてくれた。

目録を確認した後直ぐに手続きに入って返却だけならものの数分で終わる。

その時点でまだ最終下校時刻までには余裕もあり祥子と楓の部活が終るまで時間があった。

余った時間は資料館の内側に併設されている図書室で調べ物の為の本を二人で探して時間を使う事にしたのである。


「まだ閉館まで時間あるわね?」

「大丈夫。確認したのだけれど今日は展示品の交換が終るまで閉じないそうよ」

「なら今日中に調べ終われるかしら」

「ギリギリまで時間を使えばなんとかなかるでしょう」


ちょっとした調べものであるのだが。

有珠の持っている物が起因していた。

知らなくても良いしあまり悩む事でもないのであるが。

有珠の父親が出張で海外に行くと珍しい物を見つけて買って来てくれるのである。

しかしその手に入れた物がとてもマニアックであり正体不明の物だった。

海外旅行者がお土産に購入して帰る単純な物ではなく。

何処かの裏路地とかで手に入れられる出所不明な怪しい物。

一体父親が何処でそういった類の物を見つけてくるのか解らない。

基本的には安い宝飾品でありアクセサリーの類。

女の子のお土産としては気が効いていて有珠としては嬉しい物であった。

箱に入れられたアクセサリーセット。

…と思うのであるがどうにも胡散臭い。

安物であるはずなのに。

その雰囲気が何とも言えないものだった。

外箱と内側に収められた品々のバランスが悪いせいかもしれない。

始めに手渡されたのは小学校高学年の頃だろうか。

常識的な範囲の価格の物であるはずで。

内側に収められたアクセサリーは高価な物ではないが、異様な雰囲気を漂わせる物だった。

父親は有珠を溺愛している。

けれどそれでもなんでも買い与えてくれちゃう様な甘々な人ではない。

父親の感性が狂っているのなら何も悩む事は無かったのであるが。

常識的な範囲で有珠に似合うお土産なのだ。

その目利きも悪くない。

問題はその宝飾品は不気味なほどに独特の構造をしていた事だろうか。

単純に安い材料で作られた物ではあった。

台座はメッキ処理された金属を使った物で宝石の代わりにガラス玉を使って作った物。

悪く言えば子供のおしゃれの為の玩具に見える。

当然そういった扱いで有珠はそのアクセサリーを使って里桜や楓と祥子達と身に着けて遊んでいた。

4人の特別な繋がりの象徴。

子供のいうお揃いみたいな考えで有珠はそのアクセサリーをそのまま3人にプレゼントしたのである。


「いいの?」

「うん!」

「ありがとう」

「きれー」


祥子も楓も喜び里桜はちょっとだけ複雑な表情を見せていた。

でも有珠が玩具だからと言って押し切ったのである。

里桜もアクセサリーに詳しい訳では無かったが思う所があった。

その構造と作り込みは玩具の範疇を越えている。

里桜には凄まじい職人の作り込んだもの様にも見えるのだ。

それがテクニックだと言われればそれまでだが。

何かの練習で作られたのかもしれない。

偶然でたまたま偽物の安物で大した価値などないものだと。

…本当に?

けれどそれ以上は里桜も考える事は無かった。

それからである。

本人達に何かしらの影響を与える事ではなかったのであるが。

不思議な事が起きたのであった。

その中身の玩具と不釣り合いな豪華な箱の構造はアクセサリーに合わせた形に納められる物である。

里桜達にプレゼントしてしまったためにその部分に収まる物は無くなったのだ。

けれど…


「有珠お土産だよ」

「ありがとうお父さん」

「わぁ…綺麗ね」

「ははは有珠に似合うと思ってね」

「うん!」


そうして手渡された物は新しいアクセサリーであった。

大切に布で包み込まれて渡されたソレに外箱は無く中身はイヤリングであった。

丁度良くなかったのだからと有珠は玩具の宝石が入ったあの箱を開きその中に保管したのである。

その時有珠は何とも思わなかったのであるが…

それからもて不思議?なお土産が続く事になったのである。

父親が出張に行く先は一か所ではなく世界各国である。

けれどその出張で買って来てくれたそのお土産は全て初めて貰った箱に収まる物であった。

ネックレス以外箱には入っていなかったその箱。

けれどそのネックレスに合わせたチョーカーから始まりイヤリング・ティアラ・ブレスレット…

果てはアンクレットまで収まる様に一つずつ集まる様に揃ったのだ。

別の場所で買ってきたのにも拘らず。

けれどその箱に収まった物は統一された作り込みがされた物だったのである。

作られた宝飾品達に同じ紋様が彫り込まれていたのだ。

アクセサリーの形に作られた窪みにぴったりと収まっている。

始めは偶然としか思わなかったのであるがそれが全て揃うと不思議では済まされない気もする。

正直呪いの類の品なのではと疑ったほど。

綺麗に箱に納められたその宝飾品の数々。

何処かの時代の王族のパリュールを模した物であるのなら。

世界中で買って帰って来られても不思議でも何でもない気がする。

偶然ではなく必然であったと言う理由が欲しかったのだ。

そうであればただの偶然で片づけられる。


「偶然…にしては出来すぎよね?」

「量産品だったのかもしれないわよ。

こういった物を身に着けるのはそれ相応の立場の人でしょう?

有名な物を模写して作られたのならそれなりに数も出回っていると思うし」

「そうよね」

「不思議と思いたいからこそ不思議と考えてしまっているのではないかしら?」

「思い込み?」

「有珠が信じたいのなら止めはしないけれど。

全世界に散らばった物なら直ぐに似通った物も見つかるでしょう」

「うん」


進奏和高校に隣接する資料館は歴史的資料も多数抱え込んでいる。

収集した物を整理して資料にまとめる事もしているのだ。

有名な物なら写真の一つでも直ぐに見つかるだろうと言うのが里桜の考えである。

里桜と一緒に探し始めたのであるがその資料の捜索はさして時間もかからずに終わってしまうのである。


「やっぱりねぇ…」

「え?見つかったの?」

「そうよ」


里桜が探して見つけた資料に掲載されている写真。

それは有珠が持っているネックレスに似ている形をしていたのである。

これを模して作られた偽物である事は明白であり…

それ故になーんだ何も不思議な事は無かったのねと二人で納得できたのである。



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