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第7話

顔も名前もバレている。

つまり考えるまでもなく集はピンチなのだ。


「入学早々屋上で花火をするとは…なかなかの問題児の様だな青木?」

「いやぁ…そんなつもりはないですし。

そもそも花火はまだ時期が早いと思うのですが?」

「奇遇だな私もそう考えた。

しかし現実はどうだ?屋上は光り輝き花火で絵でも書いていたのだろう?」


凄まじい誤解と濡れ衣であった。

確かに花火が良く見える程よい暗さの時間である。

今更ながら思い出せばアリスの行った契約は光り輝いていた。

それはそれは遠くからでも見る事が出来る状態であったのだ。

当然職員室にいた教員からもその状態はもろバレである。

教員が確認に来ることは当然と言えば当然であった。

握らせられていた屋上の鍵は隠し通さなければ不法所持とみなされ盗難騒ぎとなりかねない。

鍵はそそくさと隠し、花火だと思っているのならそうなのだと考えていただく。

流石に屋上で怪しい儀式をしていたとは言えないし信じてもらえない。


「花火なんてやっていないですよ。

それにその先生が見た光を僕も見つけて見に来てみたら…

何もなかったって所でして」


それなりに辻褄のあった説得力のある言い訳は出来ていた。

「なるほどな」と納得して教師もそれ以上追及する事はしなかった。

面倒な事にしたくなかったと言う事でもあるが。

集は軽く怒られ早く帰れと言って解放される事になるのであったが…


「そうだな。

しかし誤解を招いた上に最終下校時刻に帰っていなかったお前は暇な様だ。

喜べ宿題を与えてやる」

「宿題ですか…」


それくらいは仕方がないと諦め。

それ以上に大事になる事を望まなかった集もまたその提案を受け入れた。

勿論教師が提示したのは宿題とは名ばかりの物である。

反省を示す文書の作成であった。

集は今世に置いて初めて反省文を書かされると言う結末を迎えたのである。

背筋に冷たい物が走りどうにも問題児として見られ始めているのではないか?

そんな疑問が生まれて来た集であったが。


「好奇心旺盛な生徒には困ったものだな?」

「全くです」


あははと乾いた笑いで誤魔化すほかなかったのだ。

追い払われる様に校内から追い出された集が思った事は一つ。


「あいつ…罪を擦り付けやがったな?」


幻聴でなく確実に「ごめんなさいっ!」という謝罪の言葉が集の耳には届いていたのであった。

喫茶店に続いて2回目である。

結局屋上に上がった事は怒られた。

持っていた屋上の扉の鍵こそ没収はされなかった事は良かったのか…


「花火と間違えてしまってごめんなさい」


反省文を提出。

それから職員室での読み上げは集の創作感あふれる文書である。

反省文と言うより物語仕立てになっており別の意味で担任と国語教師を感動させることになる。


「反省はしているのだよな?」

「もちろんしています」

「これがお前の反省文なのか?」

「はい。良く出来た感動の一幕を表現できている。

素晴らしい作品だと自負しております」


集も考えた部分がある。

教師は集に「反省文」とは言わなかった。

あくまでも「宿題」と言ったのだ。

そこで集は担任の教師にいらない気を回して差し上げたのである。

人それを屁理屈と言う。

読み上げに国語教師は「確かに」と相槌を打ってしまうほどであった。

しかし…それで許して良い物か頭を悩ませる結果となったのは言うまでもない。

変な形で能力とお節介を発揮する集は確実に厄介で優秀?な生徒として認識されたのだ。

宿題の提出さえ終れば集の贖罪?は終わり教室に戻る事は許される。

教室に戻った集は自分の席に座ろうとしたのだが。

その後ろにいるアリスに一言言わずにはいられない。

集が近づいてきたことにアリス気付くも視線を上げる事は無かった。


「やってくれたな?」

「あら?私は謝ったでしょう?」

「…アレは幻聴では無かったのか?」

「契約が完了した証拠よ。

ある程度距離が近ければ私から支持を出せる便利な声ね」

「テレパシーの様な物…か?」

「アレとは原理が全然違うけど半分正解。

集から私には繋げられないから一方向なのよね」

「微妙に不便な…」


環境に影響されるからナカナカ繋がらないしねとも付け加えられ。

便利さで言えばスマホの方が数倍便利だし?とロマンに対して止めを刺してくる。

科学の結晶スマホには勝てないわと付け加えていた。

屋上に取り残され怒っていた事などその会話をしているうちに薄れてくる。

それ以上にアリスは手元でノートにカツカツと幾何学模様を描き続けていた。

あの契約の日に見た図形と同じであった。

演算結果から複数の図解を利用していて法則性は感じられる。

しかし未知であり集には理解不能な物であった。

だからこそ質問したくなった。


「アレは科学なのか?それとも魔法なのか?」

「科学であり魔法ね。

原理を解明できた物を科学と呼ぶのであれば原理不能でも機能する物は魔法でしょう?だからアレは魔法なのよ」

「そのノートの幾何学模様は魔法のレシピみたいなもんか」

「そうねー。境界面を知らなければ中二病だと思うわ。

でも否定できない世界の理の一部なのよね」


アリスとの会話には集には理解不能な単語と理が続く。

しかしその理解不能があったからこそ集は今高校生となったのだ。

集はその事実を受け止め受け入れざるを得ないのだが。


「…笑えないな」

「…そうね」

「集も世界の理を知ってしまったのか。

それは仕方のない事だな?

だが集よ。それは既に通り過ぎし過去に置き去りにしてくるべきものだぞ?」

「は?」

「え?」


二人で深刻な雰囲気で話をしていれば近くにいた集と腐れ縁となる男子生徒。

榊原大地さかきばらだいちが会話に割り込んできたのだ。

文武平等の爽やかスタイルであるがその実態は今だに夢の中にいる戦士である。

腕に包帯の代わりに意味不明のテーピングを施して「力を封印」している。

それが破れたら俺は暴走するっ!らしい。

それなりに重度の病気は患っている様である。

大地はそのままアリスがノートに書き記していた図形を見て感心する。


「ほう…これは運命と世界の計算式ではないか」

「…うん?わかるの?」

「ああ、この幾何学模様が世界を表しているだろう。

ミノロワールが計算している数式が未来を変えるべき因果を示している」

「…良く分かっているわね?なら未来を変えるべき時間軸は?」

「当然今日の放課後からだろう?」

「フフフっ。そうよね。解っているじゃない。

集。榊原の計算結果を採用するわ。

今日の放課後は私に付き合いなさい」

「…は?」


アリスと大地の会話で集に理解できたことは何一つ無かった。

大地は学生でありアリスとは違うただの人間である。

そして大地が口にした事は一部の若者に発生する病気から来る言動のはずだ。

はずなのであるが…

その言動はアリスの計算結果と偶然にも一致していたのである。

その為にこの意味ありげな会話は成立してしまった。

傍から見ればアリスと大地の会話はただの痛い会話でしかなく。

彼等の会話に周囲は「ああ夢を見ているのね」と思うだけである。

しかしアリスの言動は確実に実行しなければいけない因果に関わる事。

集の未来に関わる動くべき事なのであった。

ややこしい短時間の会話。

集は大地の患っている病気にアリスが合わせていただけだと思っていた。

ただの楽しい妄言だとしか思えなかった。

その事が集にとって2度目の失敗の引き金となるのであった。

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