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2週目の人生の方がハードなんだがどうすればいい?やり直しの人生はバイオレンスでデンジャラス
VLS
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年07月16日
公開日
150,071文字
連載中
青木集は気軽に考えていた。
2度目の人生なら一回目よりもうまく立ち回れるんじゃないかと。
謎の女(笑)に「やり直してみたい?」と聞かれて即「OK」して世界を飛び越えるも、
もう一度やり直す事になった高校生活は思ったように上手くいかない。振舞えない。何でどうして?
好きなあの子にアピールしよう努力して自爆する…彼の2度目の人生は上手くいくのか?
それ以上に2度目の人生の方がやることが増えて大変何だかその辺りはどうすればいい?
青木集の苦悩は続く。そして一度目よりも面倒くさくて大変な学生生活が今始まると良いなぁ?
謎の女(笑)に契約をせがまれ超常的なパゥワァに目覚められなかった彼の愉快な日常はどうなる??

みたいな内容で進行中。

第1話

都内で有名な進学校である進奏和高校。

その学校に相応しいブレザー型の制服を身にまとった青木集は、腕にシャベルを持ち必死に作業を進めていた。

お世辞にも力があるとは言えない集であったがそれでも道の両端にある溝に詰まった泥にシャベルを突き立てる。

力を入れて泥を掻き出し袋に詰めるという地味に辛い重労働を続けていた。

数回しない内に息は上がり疲労感が両腕に圧し掛かる。

慣れない中腰の作業は当然体にダイレクトアタックをかけスポーツマンも真っ青。

ダラダラと全身から汗があふれ出てキラリと光り輝き滴り落ちていたのだ。

やっている事の地味さに反して、その行動が光り輝いて見えるのは当人の容姿の良さもせいもあるかもしれない。


「ほらほらっ!キリキリ作業なさい!」

「精一杯やっているって!」


その彼を見ながら応援をする同じ高校の制服を纏った女生徒。

「アリス・ミノロワール」は集を応援し続ける。

集の作業をしている近場の塀に体を預けスマホを見ながら作業の監督をしていた。

軽口を叩きつつ集が手を止める事を許さない様に相槌を絶妙なタイミングで入れていたのだ。


「未来を変えるのでしょう?

それが私達の契約なのだからしっかりと守って頂戴ね!」

「言われなくともっ!」


ガツガツと大きなシャベルを使っての作業は進む。

そうして誰にも見られない慈善事業を集はアリスが終っていいわよと宣言されるまで続ける事になっていたのだ。

やっとのこと周辺の溝掃除を終らせた時には日は落ちる寸前で。

暗くなる前に家に帰宅するのがやっとであった。

初めての「作業」に彼のなけなしの体力は吸い取られ、その日の集は帰宅後すぐに爆睡する事になるのである。


「く、くそっ。

こんなに体力的にきつい事をさせられるなんて聞いてないぞぉ…」。


余りに簡単に契約してしまった事を後悔しつつ。

愚痴を吐きながらも既に解約は不可能である事は理解していた。

そして自身の行った「作業」の結果を数日後に知る事になる。




―自身の願いを叶えるために私を利用なさい―

―そして私に願いを叶えさせなさい―


人生の転機を迎えるその契約を受け入れ、

集は2度目の人生を始める事を了承したのである。

細い糸を手繰り寄せ、手に入れたチャンスを無駄にしない為に、

やるべき事をやりなすべき事をなす為に世界を飛び越えたのだ。

その結果現在の彼は16歳まで若返り2度目の学生生活を謳歌する事になりそうであったが。

一度目の高校生活とは違う意味で面倒な日々を送ることになってしまったのである。

契約を提示して来たアリスの行動は早かった。

了承したと同時に集の意識は暗転し自身を認識できた時には、

既にアリスが宣言していた世界を越える壮大な旅は終了していたのである。

ただその飛び越え16歳の自分に統合した時の瞬間は集にとってお世辞にも良いと言えるタイミングと状況ではなかったのだが。


肌寒いから温かいに切り替わり始める4月。

意識が覚醒し起き上がった時、集の視界に飛び込んできたのは、

知っている懐かしい風景であった。

そこは自身が高校時代に通っていた進奏和高校の教室であり、

同時に深い眠りから目を覚ましたかのような曖昧な状態の覚醒は周囲の環境を、理解するのを致命的に遅らせる事なったのである。

何故?そこに自分自身がいるのかを把握できなかった集は、

世界を飛び越えた事を喜びポロリと言葉を漏らしてしまう事になったのだ。


「…叶ったのか?」


集が覚醒したのは授業中でありお堅い教師が淡々と授業を進める時間であった。

そして黒板に書かれた物を必死にノートに書き写し、ある意味で沈黙の時間であったが故にその「集」の呟きは教室に響き渡る事になったのである。

タイミングも悪かった。

新学期早々居眠りをする新入生の集に対して教師の反応はそれほど良い物ではない。


「…おめでとう。

叶えてやろう。青木、黒板の問題を解け」


居眠りをしていた事に対する懲罰的な意味合いもあったのだろう。

たまたま数学の授業時間であった事は集にとって幸運であったのだ。

そのまま前に出てくるように促された集であったが。

集にとって教師からの呼び出しよりも重要な事。

今すぐに手も確認しておかなければいけない事があったのである。

その為に教室の前に出られるのはとても都合がよかった。

覚醒しつつある頭で黒板に書かれた数式を見れば、

それは今の授業の流れをぶった切る「問題」であった。

あえて生徒達の前で恥をかかせ、居眠りなど二度とさせない。

そんな教師の思惑が透けて見える変則的な数式が用意されていたのである。

次回かその次か。

今はまだ教えられていない範囲の問題であったが集にとっては、

回答を出すのに悩むべき問題では無かったのだ。

そう言えばこの教師はそういう奴だった。

頭の片隅から思い出したいけ好かない教師の表情を確認すれば、

やはりとも言える顔つきであった。

ほぼほぼ集の推察通りの展開であり、

その展開に則して「恥をかいてやるのもまた」今の自分には、

やるべき事ではないだろうかと考えてしまったが。


「はぁ…」


黒板の前でチョークを持った時、唐突に横から教師に声をかけられたのだ。


「早く解け。

お前の為に授業の進行が遅れるのは本位じゃないだろう?

私の授業を眠っている程度に余裕があるのだ。

さぁ解いて見せてくれ」


…よし、

その喧嘩買ってやる。

カツカツと黒板を叩くようにしてワザと大きな音を立てながら、

集は黒板に回答を書き続ける。

その手の動きには迷いはなく…

するすると回答が出てくる自身の頭に、おお…

若い頭はすんなりと回答が出てくるとちょっと自身で喜んでいた。

最後…


ガツン…ボロっと砕け落ちたチョークはタイミングよく、

集の手元から無くなったのであった。


「これで、どうでしょうか?」


理路整然と並べられた模範解答的な書き方。

中間式付の答えは教師にクレームを入れられないようにしたやり方であった。

回答に教師は「え?」と驚いて反応を見せる。


「あ、あっている…」

「ありがとうございます、席に戻っても?」

「ああ、その、なんだ。

よく理解していたな」

「先生の教え方が良いから理解する事が出来たんですよ」


それは暗に教えてもいない場所を問題として出すなよという集からの抗議の言葉でもあった。

入学早々の学生に舐められない為の教師の手腕の一つだったのかもしれないが。

そうであったとしても気に入らない。

だから反骨心を働かせたのである。

はて?ここまで自分は短気だったのかと考えもするがその理由は思いつかない。

集自身はそこまで教師の行動はイラつく事ではないと思い直すも感情の抑制が聞いていないのかと。

自身の持つ感情に違和感を持つ結果であった。

短気になったつもりも無かったのであるが。

感情のコントロールと言う点で体の若さに引きずられているのかと思案に走りそうになったのだが、同時に振り返って自身の席に戻ろうと教室を見渡した瞬間。その喜びをかみしめる結果となった。

視界に入ってきて自然とその方向を集は向いてしまっていた。

我慢できなかった。

亜麻色の髪で長いストレート。

出会った時には成長期前で彼女は平均よりも小さい姿であった。

同時に整ったその容姿と育ちの良さからくる落ち着き放った立ち振る舞い。

そこにいるだけなのに他者を安心させる雰囲気を持っていた。

集は…

クラスメイトとしてそこに存在する黒江有珠を直ぐに見つける事が出来たのだ。

記憶の中にいる彼女と重なり合うその姿を見て集はそれだけで世界を飛び越えた価値があったのだと。

願いを叶えられたのだと。

16の春に戻って来られたのだと確信に至る。

ここは夢じゃない。

だって彼女がいるのだから。


「戻っていいぞ青木」

「はい」


硬直していた集に対して教師はさっさと戻れとでも言いたげに集の背中を言葉で押す。

その後押しで歩き始めても集の視線は有珠から離す事は出来ない。

視線を強く送ってしまったがために有珠もまた集を意識する事になるが、

その教師に対する態度と難問を解いてしまった事であまり彼女の感情は芳しくない事に。

集からすれば教師から売られた喧嘩を買って真っ向正面から反論の使用もない回答をぶつけてぶん殴り返しただけであったが。

それは有珠から見ればクラス内の秩序を乱す行為に他ならない。

調和を好む彼女にとって秩序を乱す様な事は受け入れられない。

真面目に授業を受けていなかった者が運よく点数を取れて自慢しているようにも見えてしまっていたのだ。

有珠の目付きは鋭くなっていたが。

それでも視線が外せずにフッと笑みを見せてしまった集は有珠に少なからず誤解を与えるリアクションを取る事になった。

ギリっと歯を食いしばる有珠。

それは明らかに敵対的な態度であったのである。

集はその事に確かに有珠ならそういう態度を取るだろうと思考を巡らせ、その何気ない態度が嬉しくなっていた。

見知った存在。

どうしても会いたかった人がそこにいる。

とはいえ授業中である。

それ以上の行動を起こす事は有珠に嫌われる事になると考えた集はそれ以上のリアクションを取ることなく席に大人しく戻る事にする。

それからの授業もそつなく熟した集はそのまま放課後まで何事もなく過ごし、

その日は帰宅する事になったのだ。

久々に受けるその「退屈な授業」という時間が今の集にとっては、

とても心地よい時間であった。

それが誤解を招く事になってしまうのであったのだが仕方のない事である。



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