悠が眠ったあと、鳥羽、九郎丸、巫女、そして小鬼には大切なミッションが残っていた。
「にしても、まどろっこしいな。どうしてこっそり枕元に置かなきゃなんねーんだ?」
「そのような習わしだからです」
面倒がる九郎丸に、鳥羽が小さな声で窘めた。
クリスマスというイベントがあることは知っていたのだが、これまでの主は皆年齢が高く、こうした若者や家族向けのイベントを楽しむような人では無かった。その為、これという飾り付けをしたり、料理を用意したりはしなかったのだ。
だが、悠は若者で、ここの皆を家族のように思ってくれていて、そういう愛情に飢えている感じもある。ここはちゃんとしてあげたいと思い調べると、どうやらこれも習わしらしいのだ。
リビングで悠が眠るのを待っていると、リビングの鏡が仄かに光って巫女が顔を出した。
『悠、寝ちゃったみたい。声かけても反応がないから、もう大丈夫よ』
悠が眠った合図を送ることになっていた巫女からの知らせで、鳥羽は立ち上がり隠していたプレゼントを出してくる。綺麗に包装されたそれを大事に抱え、いざ! バレないように枕元に置くミッションの開始である。
そっと廊下を進むが、この家はかなり古い。なにせ江戸の頃から修復しつつ使っている。どうしても床板が軋む。特に九郎丸は気にせず進むから足音がする。
「九郎丸、もう少し静かに!」
「あぁ? あぁ、おう…………難しい」
「お前、猫でしょうが」
「……おぉ!」
ポンと手を打つと、九郎丸は猫の姿に変わってしまう。そうすると確かに足音は静かになった。
それにしても、意識して足音を抑えるというのは難しいものだ。普段はできている気がするのだが。
『お前の方が足音してんじゃねーか』
「意識すると難しいんです!」
『幽霊ってのは足音がしねーもんなのにな』
「……あ」
そうだった、幽霊だった。
試しに足を消してみたら…………足音がしなくなった。
「簡単でした」
『お前、時々自分が何者か忘れる事があんだろ』
「人間と同じように生活していますからね。己が幽霊なんて意識、既にありませんよ」
まぁ、そのように悠が扱ってくれるからなのだが。
何にしてもこれでバレずに行ける。問題なく悠の部屋の前まできた鳥羽は、そっと襖を開けた。
悠は布団にくるまって静かな寝息を立てている。起きる気配はない。そして予定通り、そこに小鬼が待機していた。
「お願いしますね」
こそっと小さな声で伝えると、小鬼は頷いて開いている戸の所まで来てプレゼントを受け取り、トコトコと悠の枕元まで行くが……とても不安定で怖い。左に寄れたり右に傾いたり。
『見てられん!』
スルリと猫のまま行った九郎丸が小鬼を猫のままサポートし、どうにか枕元にそれを置いた。
「ふぅ……」
小鬼と九郎丸が無事に部屋の外に出て、そっと障子を閉める。そして三人仲良く足音を立てずにリビングへと戻ってきた。
「ったく、骨が折れるぜ」
猫から人へと戻った九郎丸が呟き、鳥羽は苦笑しながらお茶を淹れる。小鬼は悠から貰ったクッキーを嬉しそうに食べている。
「でも、こんなのもたまには楽しいですよ」
「まぁ、確かにな」
鳥羽と九郎丸にとっても初めてのクリスマス。やり終えて満足な顔をした二人はニッと笑ってお茶を啜った。
翌日。
鳥羽と九郎丸は何故かプレゼントの件で悠にお礼を言われ、この年の子供がサンタクロース=両親、もしくは家族であることを知っている事を知り、ちょっと恥ずかしい気持ちになったそうだ。
おしまい。