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おまけ ネクタイと黒田

 悠を無事に幽玄堂に送り届けた後、黒田は車の後部座席で密かに悶えていた。まず、ニヤけ顔が戻らない。


「嬉しそうっすね、黒田さん」


 バックミラーをチラチラ見ながら、小野田が呆れたように言う。が、黒田にはもうそんなものどうでもいいのだ。

 悠からプレゼントを貰うなんて、しかもクリスマスに。こんな日、想像もしていなかった。物ではないものは沢山受け取っていると思うが、こうして手元に残る物があるのはまた嬉しくてたまらない。


「……威厳、ないっすよ」

「うっせぇなぁ、いいいだろうが!」

「羨ましいっす。悠くんほんと、黒田さんラブっすよね」


 ラブ…………。


 途端に、ちょっと黒田は凹んだ。


「え! ちょ、なんで凹むんすか!」

「お前……悠がそういう意味で俺に贈り物をしたと思うか?」

「あ…………どっちかと言うと、お父さんいつも有り難う的な感じっすね」

「だろうな」


 ずけずけと言った小野田だが、黒田もこれを否定できない。悠の事だから大きな意味はないんだろう。

 それでも、自分の為に選んでくれたこと。考えて、しかも高かっただろう物を。


 ネクタイに改めて触れる。まず、生地がいい、上品だ。これでも野暮ったくならないようにと気を遣ってこういうものを選んでいる。だからこそ分かるのだ。


「あいつが、男にネクタイを送る意味を知ったらどんな顔をするんだろうな」


 ふと穏やかに呟く黒田は小さく笑う。多分恥ずかしそうに赤くなるんだろう。そして、「そんなつもりは」と言うに違いない。

 が、小野田は途端に「あー」と声を発した。


「もしかしたら、知ってるかも?」

「ん?」

「いや、車乗ってきた時の悠くん、なんか恥ずかしそうにもじもじしてたし」

「……え?」


 じゃあ、そういう意味でこれを選んだのか?


 そう思うと今度はドキドキする。悠から好かれている事は自覚しているが、束縛したいなんて思いを込めていたなんて。いや、だが……。


「ほら、恭司さんが教えたとか」

「あ……あぁ!」


 あの店のマスターである恭司はこういうことに気を遣う。悠と何やら話していたし、もしかしたら。


 でも、それで赤くなっていた。気にしてくれた? 意識してくれた?


 耳が熱い。昔の悠なら「そんなんじゃないですよ」と平気な顔をしただろう。笑い飛ばしたに違いない。だが、そうはせずに赤くなったなら……少しは、変化があったのか?


「……黒田さん、口説き落としちゃ駄目っすよ。まだ17……ってか、まだ17にもなってないっすから。流石に、ボスが児童ポルノとか売春でお縄ってのは情けないっす」

「わかってる! 今更数年待てないほど焦っちゃいない」


 もう何年見続け、待っていたか。それに比べれば後2年程度、どうってことはない。


 手元にあるネクタイに触れ、見つめ、笑う。


「まぁ、縛られるのも悪くはないな」


 気のない相手ならごめん被るが、悠になら縛られたい。彼がその気になってくれるのなら。これは、仮契約ってことで受け取ろうか。


「さて、仕事だ」

「うっす!」


 今日はクリスマス。街は一際賑やかだ。


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