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6-3 思いを乗せた贈り物(3)

「ところで、その……これ、開けてもいいか?」


 ケーキを半分ほど食べた所で、黒田の目線がプレゼントへと向かう。悠はドキドキしながら頷いた。


 綺麗な包装の箱を開けた黒田が中を確認し、ちょっと驚いた顔をする。そうして取り出したのは1本のネクタイだった。

 品のいい光沢の茶系の黒地に、控えめな赤とシルバーのラインチェック。格子柄とかと違って野暮ったくないし、太さの違うラインで作られる不規則幅のチェックが綺麗だと思ったのだ。

 何より、贈るなら日常使える物がよかった。そう考えると一番に浮かんだのが、ネクタイだったのである。

 鳥羽に相談すると、なんだか高級そうな店につれていかれた。この中から選ぶのかとドキドキしていたが、これを見つけた途端にどうしても、黒田につけて欲しいという気持ちになってしまった。

 思えば、貰うばかりで悠はプレゼントを返せていなかった。そんな余裕もなかったから。でも今なら返せる。この数年分をギュッと閉じ込めて、思いを込めて。


 黒田は取り出したネクタイに丁寧に触れている。目元が緩んで嬉しそうで。


「高かっただろ」

「でも、これだと思ったんです。これまでも沢山頂いてきて、お返しがしたくて」

「気にする事なかったんだぞ。俺がしたくてしていたことだ」

「俺も、贈りたくて選んだものです」


 嬉しそうな黒田は手で確かめるように触れている。そして今しているネクタイを外すと、悠が贈ったものをとても丁寧に結んでいく。慣れた手つきで綺麗にノットが整えられ、黒いスーツの中に収まった。

 やっぱり、思った通り素敵だった。黒いスーツの邪魔をしないが、ダーク系に寄せたブラウンの僅かな色の違い。だからといって悪目立ちはせず、ちゃんと馴染んでくれる。赤のアクセントも落とし目の色合いだからアクセントになっても主張は強くなかった。


「似合うか?」

「凄く! あっ、えっと……俺も、使っています。あのブランケット。とても温かくて、勉強の時の膝掛けに。有難うございます」

「いや、使ってくれているなら良かった」


 お互いに少し照れくさくて、でも嬉しい。そんな顔をしあいながら、のんびりと残りのケーキを食べていった。


 時間になって、小野田が車で迎えにきてくれた。マスターがケーキが4つ入った白い箱を持たせてくれる。だが、何故4つなのか。黒田から聞いているなら、3つのはずだ。


「あの、4つもいいんですか?」

「はい。なんでも、守り神様があるとか。そこにもお菓子などを供えていたのを見たから、そこの分だと聞いています」

「そんな所まで覚えていてくれたんですね」


 きっと巫女が喜ぶ。今からとても幸せそうに笑う彼女の顔が思い浮かんで、悠はにっこりと笑った。


「そういえば悠くん」

「はい?」

「男性にネクタイを贈る意味、ご存じですか?」

「?」


 しっとりと話をするマスターに、悠は首を傾げる。くすくすと楽しそうに笑うマスターが不意に体を近づけて、そっと耳元に触れそうな距離で囁いた。


「貴方に首ったけ。貴方を束縛したい」

「!」

「と、いう意味があるそうですよ」


 体を離してにっこりと微笑むマスターが少し意地悪だ。そんな意味で贈った訳ではなかったし、身につけてもらえる物がいいと思っただけで、黒田のイメージにぴったりで…………言い訳を並び立てても、やっぱり耳まで真っ赤になった。


「またのお越しをお待ちしております」

「……また、来ます」


 心臓はバクバク、耳は真っ赤。そして黒田もその意味を知っていたに違いない。

 ……それなら、嬉しそうな顔の意味は? わざわざしている物を取って悠が贈った物をつけてくれた意味は?


 考えたら黒田の顔が見られなさそうなので、悠は深掘りするのをやめて小野田の車に乗り込むのだった。



 幽玄堂まで送って貰い、小野田と黒田にお礼を言って帰宅すると、リビングはとても賑やかになっていた。


「わぁ……」

「おう、お帰り悠」

「ただいまです!」


 キラキラ光るクリスマスツリーと、テーブルの上のご馳走。レックチキンと果物の盛り合わせ、ローストビーフ、サラダ、そしてグラタン。


「お帰りなさいませ、悠様」

「鳥羽さん! あの、これ……」

「クリスマスですからね。今年は賑やかにいたしました」


 嬉しそうに笑う鳥羽が、グラスとシャンメリーのビンをテーブルに置く。

 出かける前までクリスマスツリーなんてなかったのに。綺麗にセッティングされたテーブルの飾りも。


「あっ、ケーキ! そうだ、買ってしまいましたか?」


 手に持っていたお土産のケーキを鳥羽に渡すと、彼は首を横に振った。


「ケーキについては当てがございましたので」

「へ?」

『早く食べましょう! もう、お腹空いちゃったー』

「姫も腹が減るのかい?」

『感覚はないけれど、味わってみたいという欲求はあるわよ!』

「悠様、手を洗っていらしてください」

「あっ、はい!」


 パタパタと手を洗い、席につく。九郎丸は手にシャンメリーのビンを持って今か今かと待ち構えていた。


「それではまずは祝砲を!」


 ポーンという小気味よい音がして、グラスの中に金色のジュースが注がれていく。それを人数分、当然巫女の鏡の前にも置いて、全員がグラスを持って少し上に上げた。


Merry Christmas!!

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