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6-2 思いを乗せた贈り物(2)

 くる12月24日。クリスマス・イブ。


 忙しいだろう黒田に今日会いたいと伝えると、彼は時間を作ってくれた。

 どうせなら外で会いたくて、待ち合わせは17時。場所は開店前の黒田経営のバー喫茶だった。

 ここは前にも何度かきている。日中は喫茶店で、コーヒーとケーキの美味しい匂いがしている。けれど夜はバーになって、途端に大人の雰囲気になるらしい。夜は来たことはないけれど、日中は何度か。それこそ誕生日やクリスマス、ここでケーキを食べていた。


 Clauseの札が下がったドアの横にある呼び鈴。鳴らすと、知っているバーのマスターさんが顔を出してくれる。優しそうな30代くらいの男の人が表でコーヒーやお酒を提供してくれて、奥のキッチンでは少しきつめなお兄さんが料理を作ってくれるのだ。


「悠くん、いらっしゃい。黒田さんは奥で志野と話をしているから、店で待っていてもらえますか?」

「はい。有難うございます、マスターさん」


 招かれて、四つあるテーブル席の一つに腰を落ち着ける。すると直ぐに温かい紅茶が出された。


「有難うございます!」

「どういたしまして。黒田さんからお話は伺っています。新しい生活にも慣れましたか?」

「はい、少しずつですが」

「それは良かった。また日中、今度は学校のお友達と来てくださいね。美味しいケーキ、志野が焼いて待っていますから」

「はい、是非!」


 ちなみに、志野さんというのが厨房担当の料理長さんだ。そして、マスターさんの恋人でもあるらしい。

 少し、興味が出てきた。どうしてマスターと志野は付き合い始めたのか。いつ、自覚したのか。どんな風にお付き合いをしているのか。

 でもそれを無神経に聞けるほど、悠は空気を読まない人間ではない。


 そうしている間に、奥の厨房から黒田が出てきた。スーツにオールバックにした人は悠を見て、格好に似つかわしくない優しい笑みを見せた。


「おや、デレ顔」


 マスターが苦笑して、一礼してカウンターへと戻っていく。それと入れ替わって、黒田が悠の前の席に座った。


「悪いな、足を運ばせちまって」

「いえ! 俺の方こそ、忙しい時にお時間取って貰っちゃって」

「気にすんな。それで、どうした?」


 少し心配そうな顔をする黒田に、悠はカバンを開きおずおずと包みを取り出す。そしてそれを、黒田の前に出した。


「ん?」

「あの……クリスマスプレゼント、です」

「えっ」


 凄く驚いた顔をする黒田の顔が、見る間に赤くなっていく。オールバックだから形のいい耳が丸見えで、それが徐々に赤くなっていくのを見ると悠までドキドキして俯き加減になってしまった。


「あの、日頃のお礼と……俺の気持ちというか」

「あぁ、うん」

「この間も、とても楽しかったです! また、連れて行ってください……」

「あぁ、勿論」

「…………」

「…………」


 どうしよう、照れすぎて言葉が出てこない!


 もじもじする悠と、嬉し恥ずかしで耳を赤くしている黒田の沈黙。正直気まずさが漂う中、突如脇からケーキの乗った皿が二枚置かれた。


「なーに気持ち悪い顔してるっすか、黒田さん」

「志野……」

「悠、今年のクリスマスケーキだ。有り難く食え」

「はい、有難うございます!」


 コック服に黒い前掛けをした、黒髪短髪の青年が悠を見下ろす。その横にはマスターもいて、口の悪い彼に困った顔をした。


「そちらのケーキには、こちらのコーヒーを。悠くんも飲めるでしょ?」

「はい、頂きます」


 黒光りする小さな丸いケーキの上には宝石のように煌めく苺と、金色の飴細工。フォークを入れてみればスポンジとジャムがサンドされ、その上に更にムースが見える。

 一口食べれば表のコーティングはビターな味わい、スポンジは甘さ控えめな分、ムースが甘く微かにナッツ系の風味がする。更にジャムはベリー系で程よい酸味で味を引き締めていた。


「美味しい!」

「当然だ」


 志野は得意満面な笑みを浮かべる。

 コーヒーは少し苦めだがさっぱりとした飲み心地で、口の中にいい香りを残してくれる。全部合わせてとてもバランスがいいのだ。


「クリスマスだからな。お前、毎年楽しみにしてるだろ」

「はい! ここのケーキ、とても好きです」

「ふふっ、有り難うございます。よろしければお土産に持って行ってくださいね。用意してありますから」

「え! そんな……」

「その分、今度食いに来い」

「はい!」


 嬉しい笑みを浮かべる悠を見て満足したのか、志野は頷いて厨房へと戻っていく。マスターも再びカウンターへと戻って、夜の準備を始めた。


「美味しいですね、黒田さん」

「おう」


 ようやく立ち直ったらしい黒田も、コーヒーとケーキを堪能している。それを見ているのも嬉しいような、幸せなような。こんな時がもう少し長く続けばと、悠は思って笑っていた。


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