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5-1 お土産話とエトセトラ(1)

 いつの間にか寝ていたみたいで、起こされたら幽玄堂の前だった。ちょっとだけ寂しくて、後悔をした。


「中まで」

「いえ、ここで! 今日は有り難うございました」

「いや、俺も楽しかった。また行こう」

「はい。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 荷物を持って、黒田からのブランケットも持って去って行く車を見送るのが少し悲しい。ちょっとした喪失感すらあった。

 だが幽玄堂に入ると、直ぐに鳥羽が「おかえりなさいませ」と笑顔で出迎えてくれる。それに「ただいま」と返す日常が有り難いと思える。


 リビングでは九郎丸がゴロゴロしていて、悠を見てにっかりと笑う。そしてその奥の鏡には巫女の姿もあった。


「おう、おかえり悠」

『おかえり、悠! 楽しかった?』

「みんな、ただいま。とても楽しかったよ」


 にっこり笑ってこたつの前。そこでそれぞれ皆にお土産を手渡した。


「クッションか! おぉ、いい沈み込みだぜ。これなら猫でも使える」

「よかった。もこもこの寝巻きも考えたんだけど、それだと猫の時使えないなって」

「こっちのが断然いい。はぁ……わっち専用」


 言うと早速三毛猫に変化し、新しいクッションの真ん中にそろそろと乗っかって、ごろんと丸くなってしまった。


『柔らかい。縁側の煎餅座布団も味があるし落ち着くが、こっちは埋もれたい』

「喜んでもらえて良かったです。こちらは、鳥羽さんに」

「僕にですか?」


 ちょっと恐縮したようにお土産の袋を受け取った鳥羽が、早速中を開けて驚く。クマのフード付きブランケットはやっぱり可愛すぎただろうか。と、思ったのだが、意外と喜んでくれた。


「朝方とか寒いし、キッチンも少し寒いから。あの、持ち運び便利な膝掛けと思ってください」

「有り難うございます。使わせていただきますね」


 早速広げ、感触を確かめるように頬を寄せている。ほっこりとした顔をしてくれると、ほっとした。


「で、これは巫女にね」

『妾は物は……あぁ!』

「ふふっ、お菓子とお茶。これなら巫女も楽しめる?」

『楽しめる! 悠はいい子!』


 鏡からポンと飛び出して、そのままはしゃぐようにぴょんこぴょんこする巫女の前に、さっそくお皿を出してミックスあられを入れてみる。おせんべいがパークのキャラの形をしていた。


『いただきまーす!』


 透明な手が食べ物に触れると、食べ物は動いていないのに半透明な何かが抜ける。それを粗食して、巫女は『美味しい!』とうきうきだ。

 この何かが抜けた食べ物、実は味がしない。害はないというので食べてみたのだが、食感はあれど臭いと味がしなかった。そういうものを抜いて食べているのだと思う。


 そこに小鬼が入ってくるのを見て、悠は「あ!」と声を上げた。小鬼へのお土産を忘れてしまった。

 どうしようかと思案していると、巫女がくいくいと服の裾を掴む。そして、まだ食べていないお菓子を指さした。


『これをあげるといいわよ。悠の手から渡せば悠の霊力が移るから、とても美味しくなるわ』

「分けてくれるの?」

『勿論! そいつ、けっこう甲斐甲斐しくていい奴なのよ』


 首を傾げる小鬼に、悠はお菓子の袋を破って手渡す。おずおずと受け取った小鬼がクッキーを一口食べると、美味しそうに目がにんまりと笑う。そして、手の平サイズだったのが子猫くらいの大きさに突然成長した。


「わわ!」

『育ったわね。良かった良かった』

『大キク、ナ、タ』

「あっ、声も聞こえる!」


 悠が驚いて声を上げると、小鬼も驚いたみたいに目を丸くし、次には出目金のような目に一杯の涙を溜めた。


「え! どうして泣くの? 大丈夫?」

『声、ワカル。嬉シイ』

「あ……。ごめんね、今まで分からなくて」


 小鬼はきっと、今までも話しかけていたのだろう。悠には聞こえなかったけれど、色々。それがこの涙なら、今までちゃんと向き合っていなかったのが申し訳なかった。


『小鬼は悠の霊力を貰うと少しずつ大きくなるわ。特別な事じゃなく、今みたいに直接悠が食べ物をあげればいいだけ』

「それだけでいいの? それならこれから毎日するよ」


 子猫(推定3ヶ月)大の小鬼の頭を撫でて、悠はにっこりと笑った。



 お風呂に入ったりして部屋に戻り、さっさと寝ようと電気を消したのだが……眠れない。まだ興奮が冷めないようで、寝付ける感じがしない。そのまま何度も寝返りを打っていると、姿見から声がした。


『眠れないの?』

「うん」

『少し話する?』

「いいの?」

『ぜひぜひ。あっ、ぬいぐるみも有り難う! 凄く可愛い』

「ううん。女の子達が持ってるの見てて、巫女も似合うだろうなって思ったんだ。喜んでくれて俺も嬉しいよ」


 パークを行く女の子達が手に持っていたぬいぐるみ。それを見ながら、きっと巫女が持ったら可愛いだろうなと思った。男の自分が持つのは恥ずかしいから、今日の思い出にお土産という形で連れてきてしまったのだ。


『実体がないのが悲しいな』

「なれないの?」

『力が足りないのよ。神様だって簡単じゃない。強いんだけどなー』

「ふふっ、知ってるよ。巫女がいてくれなかったら俺、とっくに死んでるし」

『そう? 悠は自分の力だけで頑張れると思うけれど』

「そんな事ないよ。俺なんて、全然だし」


 本当に、やれる事が少なくて困ってしまう。


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