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4-2 遊園地デート・後編(2)

「次は鳥羽さん……」

「使う物がいいんじゃないか?」

「はい。スリッパとか、温かいものがいいと思います」


 鳥羽はあまりこたつにも入らずに動き回っているし、仕事をするときは大抵キッチンにあるテーブルか、自室。幽霊だから寒くないのかもしれないが、見ているぶんには寒そうに感じるのだ。


 あれこれ見ていると、小さく収納できるブランケットを見つけた。どうやらフードがついていて、収納するときには畳んでこのフード部分を被せて四角くコンパクトにできるらしい。

 汚れの目立ちそうな白は避けて……と考え、ちょっと遊び心も加えて、クマのマスコットのものにした。


「最後は嘉一さん」


 最近何だかんだと会うことが多いし、お世話になっている。そして嘉一のお土産は既に絞ってあるのだ。


「持ち運び用のタンブラーか?」

「はい。寒くて辛いと言っていましたから」


 コーヒー派で温かい飲み物を好んで飲むらしいのだが、コンビニなどで買う事が多く直ぐに冷めてしまうと漏らしていた。これは温冷どちらも使えるし、飲み口もちゃんとロックできる。柄はクロにグレーでキャラの描かれた物が一番大人しく感じた。


 巫女には美味しそうなお菓子を色々と、紅茶の缶を買った。彼女自身は物を長時間持ち運ぶ事は出来ないようだが、お菓子なら味わえるだろうと。あと、小さなクマとウサギのぬいぐるみを買った。


 黒田も小野田達に色々見ている。そうしてお互い買い物を終えるとそれをロッカーに預け、早めの夕飯にとレストランへと入った。



 夜のショーは人気らしい。食事を終えて見える場所に行くと、もうちらほらと人の姿がある。


「まだ1時間以上あるのに」

「こんなもんだ」


 座って見られる場所に腰を下ろし、キラキラしているパークの夜景をぼんやりと見ている。夢の終わりを感じながら。


「今日は本当に、有難うございました」


 伝えると、黒田は穏やかな表情で頷く。ぽんと、頭に手が乗った。


「本当に、夢みたいです。つい何ヶ月か前だったらこんなこと、想像すらしていませんでした」


 その日食べる物すら考えなければいけなかった。寝る場所や、次のバイトの不安や、それを押し込める為の笑顔や。

 そんな事を考えている毎日で、どうして遊ぶ事を考えられる。今の幸せを、想像する事が出来る。

 身に染みてくるのは、今の幸せとそれを与えてくれる人達の大切さ。何も出来ている実感がないのに、大切にしてくれている人達への純粋な感謝だ。


 黒田は少し悲しげな顔をする。そしてとても自然に肩に手が回って、少しだけ引き寄せられた。


「よかったな」

「……はい」

「クリスマスはサンタが来るぞ」

「ははっ、これ以上は贅沢です。もう沢山、プレゼント貰いました」

「来年になったら、誕生日だ」

「17歳になりますね」

「4月には高校生だぞ」

「楽しみです。色々、体験してみたい」

「映画の約束も忘れるなよ」

「はい。連れていってくださいね」


 嬉しくて、幸せで、少し胸が苦しい。最近、押し寄せる感情が強い気がして、受け止めきれずに苦しくなることが多い。鳥羽の話だと、感情の一部を食らっていたモノがあったらしい。それがいなくなった事で今度は感じすぎてしまうのかもしれない。

 食べていたのは本来は悪い感情や思いらしいのだが、マイナスがあるからプラスが大きく思える。そう、実感する。


 夜になって少し寒い。黙っていると余計にだ。

 体を寄せていると、不意に温かなものが肩にかかる。見ればさっき見たばかりのブランケットが掛けられている。丸めて持ち手付きのバンドで締めるタイプだ。


「雅臣さん?」

「寒いから、かけとけ」

「でも、雅臣さんが買ったんじゃ」

「お前にだよ。俺から、クリスマスプレゼントだ」

「……ずるいですよ、そんなの」


 こちらは用意していないのに。


 少し悔しい。それはきっと黒田が色々と大人で、気がきいて、大きな存在だから。少し追いつきたいと、思ってしまうから。


 クリスマスまでには何か、用意しよう。


 そう決めて、悠は残りの時間を少しほっこりと話ながら待つことになった。


 夜の水上ショーは煌びやかな光と水のスクリーン、音楽と踊りの幻想的なものだった。ちゃんと物語性もあって、少し驚いた。まさに魔法にかけられてしまいそうな、そんな気分だ。


 見終わってもしばらく興奮が冷めない。その間に花火が上がって、更に声を大きく笑って。でもちょっとだけ、空元気でもあった。


「最後、ツリーの前で写真撮りませんか?」


 二人で撮った写真がない。パークの人にお願いして、二人で写真を撮って。ちょっとだけ、宝物気分だった。


「それ、俺にも後で送れよ」

「はい、勿論!」


 楽しい時間はあっという間、それこそ夢が終わってしまうよう。寂しい気持ちは切なくて……でも、まだもう少し側にいる。家に帰り着くまではまだ、夢は終わっていない気がした。


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