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4-1 遊園地デート・後編(1)

 お昼はランチプレートだった。サラダとスープとグラタンに飲み物をお願いした。デザートは別件で連れて行くと言われ、心ゆくまで堪能する。


 先ほど乗ったトロッコはどうやらパークの中央にあるらしく、二人はそこからまだ行った事のない場所へと向かった。

 一面がアラビアンナイトの世界。思わず建物の前で写真を撮ってしまった。

 ここは比較的穏やかな乗り物が多いらしく、二人でゆったりとしたボートに乗ってアラビアンナイトの世界を堪能した。


 それにしても、少し寒い。やっぱり水辺だからだろうか。


「大丈夫か?」

「はい」

「寒いんだろ?」

「でも、歩き回っていますから」


 実際、歩いているとそうでもないのだ。

 気遣ってくれる黒田を促し、今度は映画をモデルにしたアトラクションへ。意外と激しい横揺れに驚いたが、残念な事にこれも原作を知らなかった。黒田に言うと「名作だぞ」と言われてしまった。

 どうやら後日、DVD鑑賞会が行われそうな勢いだった。


「そういえば俺、アラジンも見たことないです」

「マジか……」

「はい。映画とかあまり見てないなって。中学校の視聴覚室で、数本見ましたが」

「何見たんだ?」

「えっと……ホラー? 目が覚めたら見知らぬ四角い部屋にいて、色々仕掛けがあってドンドン人が死んでくという」

「…………キューブか?」

「あっ、そんな名前です!」

「なんでよりにもよってそんなホラーを……」

「先生の趣味だと思います」


 女子が数人具合悪そうにしてたし、悠も思いきり直視していたが、ちょっと相応しくないなとは思った。


「あとは……殺し屋と少女の感動物で。古い作品だと思います。レ……」

「レオンか?」

「それ!」

「アレは名作だな。最後が泣ける」

「分かります」


 のんびりと歩きながら辺りの装飾を楽しみ、途中の店を覗いてみたりして、気になった乗り物に飛び込みで乗ったりしながら正面へと戻っている。どうやらそこで期間限定で出しているデザートが食べたいとか。


「今度、映画連れて行こうか?」

「映画ですか?」

「あぁ。家で見るのもいいが、やっぱり大きな画面と迫力のサラウンドはいいぞ」

「なんか……ピンとこないですけれど」


 でも、多分黒田と一緒ならどこでも楽しいのだろう。そんな気がする。


「じゃあ、雅臣さんの見たい映画がいいです」

「俺?」

「はい。俺はあまり分からないので、好みとかも。なので、教えてください」

「……考えとく」


 黒田はどんなものが好きなんだろう? ちょっとウキウキしてきた。



 中央に戻ると、何やら大きな水辺の側に人が集まっていた。


「ショーの時間だな」

「ショー?」


 しばし立ち止まっていると、大きな船が何隻も出てくる。それぞれ独特の形と装飾をして、その上でパークのキャラクターが踊ったりしている。近くなくても十分に見える、迫力のあるものだった。


「凄いですね!」

「夜がメインだが、見て帰るか?」

「遅くなりますか?」

「いや、そうでもない。変な時間に帰って帰宅の渋滞に巻き込まれるよりは、早く帰れるかもな」


 それなら楽しみたい。素直に頷くと、黒田も安心したように笑ってくれる。

 そして促されるまま、二人で正面近くのカフェへと入った。


 温かなウッドデッキに可愛らしいアンティークっぽいテーブルセット。そこに置かれたのは紅茶とフォンダンショコラ。

 飴色の紅茶を二人で飲みながら、人並みを見つめつつ甘いデザートを食べる。沢山歩いて疲れたのか、甘い物がとても美味しく思えた。


「けっこう歩いたな」

「はい。でも楽しくて、全然苦になりません」

「喜んでくれたなら幸いだ。おやじも喜ぶ」


 穏やかに笑う黒田を見ながら、悠も微笑む。そしてやっぱり、落ち着くと胸の奥が五月蠅い気がする。


「ここを出たら、船にでも乗るか?」

「はい」

「どうした?」

「外、少し暗くなってきちゃったなと思って」


 夢はいつまでも続かない。暗くなるとそれを感じて、少し寂しくなってくる。

 正面の黒田も少し寂しそうな顔をする。だが、直ぐにそれは消えてクシャリと悠の頭を撫でた。


「また、連れてきてやる。次は違う方だな」

「いいん、ですか?」

「あぁ。何なら小野田の誕生日に誘うか? あいつ、夏ど真ん中が誕生日だぞ」


 なんとなく、予想の付く感じがする。

 でも、どうせなら黒田ときたい。次があるなら。


「雅臣さんと、来たいです」

「そうか」


 嬉しそうに微笑む人を直視して、悠の心臓はまた少しドキリとしたのだった。


 周回の船はそこそこ長い時間乗っている。けれど、低い位置から今まで乗ったアトラクションを見るのも新鮮だった。何よりボートが通るだけの岸辺まで雰囲気に合わせて作り込まれているのが凄い。「アレが面白かった」「これがよかった」なんて話をしながら正面に戻ってくると、ベネツィアを思わせる景色が一気に広がってくる。暗くなり、街灯に明かりを灯る異国の景色。それに、言葉もなく見惚れてしまった。


 船を下りると先にお土産を買う事になって、悠は皆に何を買おうか迷っている。嘉一と鳥羽、九郎丸、そして巫女にも。


「クロさんは柔らかいものがいいのかな?」


 彼はよく昼寝をしているし、モコモコしていたり柔らかいものが好きだ。もっと言うと、装飾品や高価な物は必要としていない。


「クッションか?」

「ですね。ぬいぐるみは違う気がします」

「あ…………確かにな」


 以前九郎丸の人間バージョンを見ている黒田も肯定する。もしもあれが猫のクロの変化した姿だって知ったら、黒田はどんな顔をするのだろう。

 壁に作り付けられた棚に、色んなクッションが並んでいる。キャラクターの形をしたものもあるが、悠が選んだのは丸いシンプルなもの。しかも柄は人魚姫だ。


「……いいのか?」

「多分」


 魚好きだし、いい夢が見られそうだ。


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