駐車場に車を止めて降りた瞬間から、ここは現実とはかけ離れた場所なのかもしれない。空気までがウキウキと誘ってくる。少し遠くに見えるのは立派なお城の塔や、大きな火山が火を噴く姿だ。
同じく車を降りた黒田に連れられて、悠は入場ゲートのある場所まで行く。だだっ広いそこは既に多くの人が列を作っていた。
「凄い人!」
「毎度の事だが、今日は早く着いた分まだましだぞ」
「そうなんですか……」
悠にとっては既に驚くべき事なんだが。
黒田が悠にチケットを渡してくれる。チケットの表にはパークのキャラのイラストがあり、こんな所からワクワクさせてくれるのかと思う。
そうして二人並んでいると、色んな耳をつけた若い女の子や小さな子供がいることに気づいた。
「あの耳みたいなのとか、なんですか?」
「ん? カチューシャだな。このパークの……まぁ、名物グッズみたいなものだ」
丸い耳付きカチューシャでも、飾りや何かが色々違う。更には他のキャラもいるし、頭にミニキャラを乗っけた人までいる。帽子やカチューシャ、更には温かそうなもこもこのフードまである。
「お前にも買うか?」
「恥ずかしくありませんか?」
「この中だけならみんな仲間だろ」
いいのかな、あんなに浮かれてしまって。
でも、楽しそうな人達を見ていると羨ましくもあった。
「あぁ、そうだ。これ、首からさげておけ」
「? はい」
渡されたのは首からさげる薄い定期入れのようなものだ。黒にパークのメインキャラが金色シルエットで描かれたもの。見れば黒田も同じものを首からさげている。ファンシーっぽいのに、何かかっこいい。
「これの後ろ側にチケットを入れるんだ。そうすると無くならない」
「あっ、なるほど!」
「事前に調べたか?」
「はい、少し」
「一番最初、何に乗りたい?」
「あっ、それはちょっとあって」
悠もスマホを取り出す。何かと便利だからとアプリを入れておいたのだ。その中の一つをタッチし、黒田に見せた。
「これ! これに乗りたいです」
「っ!」
一瞬、黒田が怯んだ気がしたが……直ぐに頷いてくれた。
「このアプリから、次ぎに乗りたいアトラクションの予約とか、ショーの予約とかもできるんですよね?」
「あぁ」
「あっ、ご飯……」
「それは俺が事前にしておいた。次のアトラクション、考えておけ」
「それならこの……海底探検がいいです」
「分かった」
今度はほっとした?
黒田の様子を見て首を傾げている間に列はドンドン前へと進み、悠は初めての夢の世界へと足を踏み入れた。
まず、景色が一変する。一切現実を感じない。入って直ぐ、門の所からショップが並び店並みすらもオシャレで可愛い。店の並ぶ通りの真ん中には大きなクリスマスツリーが煌びやかに光っていて、その前ではバグパイプの演奏をしている。
通り過ぎて正面には大きな山と広い水場、そして広場だ。まるで海外のような光景に目を奪われていると、黒田がくいくいと腕を引いた。
「目的のものはこっちだ。この時間なら大して並ばずに行けるはずだ」
「あっ、はい」
誘導されていく方にはこれまた大きな船が見える。そしてその船の前にも大きなクリスマスツリーだ。
「綺麗……」
呟くと、黒田はとても嬉しそうに笑ってくれた。
だが、目的の場所は少しおどろおどろしい。それというのもどうやら、ホラー系をテーマにしたアトラクションらしいのだ。
黒田が言った通り、並ばずに建物の中には入れた。入った建物の内装も凝っていて、古い海外のホテルを思わせる。カウンターがあったり、カーテンが重厚だったり。そして全体的に薄暗い。
アトラクションの入口には係の人がホテルマンの格好をしてチケットを確認している。それを機械にスキャンさせると、今度は広い場所に出た。
「なんか、ドキドキしますね」
「あぁ……」
通された先はまるで書斎だ。そしてそこで沢山の人と一緒に、このホテルに纏わる話を聞かされる。その後は移動で沢山の人が一気に動いた。はぐれてしまいそうな気がしていると、黒田がギュッと手を握ってくれる。大きな温かい手に包まれて、悠はとても安心して、笑いかけていた。
通路を通って階段を登り二階へ。どうやら乗り物に乗る為の列なのだが、単に乗り物に乗る間でも飽きさせない。待っている場所もまるで、発掘された遺物の倉庫のようだ。
「こんな所まで凝ってますね」
「あぁ、だな」
「楽しみですね」
「……あぁ」
「?」
気のせいだろうか、さっきから表情が硬いような?
そんな事を考えている間に、悠達は乗り物に乗る列を順調に進んでとうとう、座席に座った。
一番前の中央辺りに二人並んで乗り込む。荷物は座席の足下に。ベルトや固定具をしっかりとつけた状態でゆっくりと上昇していくが、途中で演出がはいる。その後はグゥングゥンと急上昇していくゴンドラ。チーンという音と共に眼前が急に開いてパークを高い位置から見渡した、その直後だった。
もの凄い勢いで垂直に落下するゴンドラに、悠も悲鳴を上げた。内臓が浮き上がるような浮遊感とドキドキが、全部ワクワクに変わる。大きな声を上げるのも気持ちがいいし、とても楽しい。途中まで急激に落下したかと思えば、また急上昇を始め落下する。それを数回繰り返してようやく下へと到着した。
凄くドキドキしている。嫌なのじゃなくて、楽しいドキドキ。こんな気持ち凄く久しぶりだ。
「黒田さん、楽しかったですね! ……黒田さん?」
隣を見たら、黒田は青い顔をしていた。握っているセーフティーバーにくっきり手の跡がつくくらい握りしめている。まるで数人
「え、と……」
とりあえず出なければ後が詰まる。悠は黒田の手を引いてアトラクションの外へと連れ出した。