冬の月は青く冴え冴えとしている。
人のない社からそんな月を見上げている二人の青年がいた。
一人は肩の辺りまである銀の髪に、大きな金色の目をした青年。もう一人は肩の辺りまである金の髪に、大きな銀色の目をした青年だった。
二人は鏡を見るように顔の造形が同じで、背格好まで同じだった。
「あっ、失敗した」
手の中にある小さな箱を見つめ、銀髪の青年が呟く。その隣にいる金髪の青年がその箱を見つめた。
「どうしたの、兄弟?」
「蟲をね、一匹回収し損ねたみたいなんだ」
「珍しいね、兄弟がしくじるなんて。そいつ、孵る前に死んだとか?」
「ううん、孵ったと思ったんだけれど。変だな? ちょっと楽しみだったのに」
小さく綺麗な文箱を開けると、その中には無数の毒虫が蠢いている。食い合うわけではなく、この青年に従うように怪しく目を光らせている。
「孵ったのに、回収できなかったの?」
「みたいだね」
金髪の青年が、不意にニッと楽しそうに口の端を上げた。
「楽しそうだよ、兄弟?」
「楽しくないのかい、兄弟? だって、腹の中で孵った蟲を払い落とした人間がいるんだよ? 今の時代に、そんな面白いのがいるんだよ?」
ウキウキした調子で言う金髪の青年の言葉に、銀髪の青年は少し反応が薄かったがやがて文箱を閉めて笑った。
「そうだね、そんな人間久しぶりだね」
「そうだよ兄弟! 僕たちの蟲を落とすなんて、凄いじゃないか!」
「会ってみたいね」
「暇が出来たら会いたいね。あっ、でもそうなると一匹足りなくなるんだ。どうしようか?」
「あぁ、そんなの簡単だよ」
銀髪の青年はスッと手を前に伸ばす。するとそこに一匹のムカデがしゅるりと巻きつく。
銀髪の青年はその蟲を手にして辺りを見回す。すると丁度誰かが人気の無い社へと登ってきていた。
「あれでいいんじゃない?」
銀髪の青年がその人物を指さすと、巻き付いていたムカデがその人物まで空を泳ぐように飛んでいき、一瞬の内に張り付く。そうしてあろうことか臍の中へと頭を潜らせズルズルと中へと入っていく。
それでも、取り憑かれる人間は気づいていない。痛みもなく、見えてもいない。見えていたら恐怖に悲鳴を上げてどうにかしようと暴れるはずだ。なにせ自分の臍の中に50cmはありそうなお化けムカデが入り込むのだから。
その人物はしばらくの間社に何かをブツブツ呟き、踵を返す。そのタイミングで仕事を終えたムカデはそいつの尻の辺りから出てきた。
「ご苦労様。いい子が生まれるといいね」
「あいつ、ここ数日ここに来てはむかつく上司の悪口言ってるから、早いんじゃないかな?」
「いいね、栄養沢山で。人間は色んなものをため込んでいるから、蟲が育つのが早いよね」
にやりと笑う二人の青年に気づく者は誰もない。やがて二人は吹き込んだ風に消えていった。
【4話 END】