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2-2 蟲(2)

 母が死んだ――

 ベッドの中で静かに息を引き取った母の側で、父が震えながら泣いて叫んでいる。その声が、苦しくてたまらない。

 きっと、俺のせいなんだ。家計が苦しいのを知っていた。母も一生懸命働いていた。その無理が、祟ったんだ。全部、俺の学費や食費の為だった。

 本当は体の異変を母は倒れるよりも前に知っていたんじゃないのか? 時々、苦しそうな様子があったのに。「大丈夫」という声に安心して、追求しなかった。

 もっと、お金があったら色んな事を気にせず病院に行けたのかな? もっとお金があれば、最新の治療とか薬も使ってもらえたのかな?

 俺がいなかったら、母さんは死なずにすんだのかな?

 苦しくて、悲しくて……なのに涙が出なかった。ズキズキと胸は痛いのに、声一つ出なかった。

 父さんは、母さんの残したお金も全部使った。保険金も、貯蓄も。

 部屋には母さんの遺骨がまだある。お葬式も、してあげられなかった。

 家賃が払えなくて、電気もガスも止まって、水道も止まった。勿論給食費も払っていないから、保健室に行くふりをして水をお腹いっぱい飲んだ。

 逃げるようにアパートを出た。母さんと3人で過ごした場所を離れたくなかった。でも、怖い人が沢山来るようになったから、逃げたんだ。

 辿り着いたのは凄く暗くて寒くて汚い部屋だった。夏は涼めるものもなくて暑くて、冬は隙間風が入ってきて寒くて凍えてしまいそうだった。

 学校は、行っている。そこで水を飲んで一日を過ごす事も多い。誰かの家の庭先になっているみかんや柿を、こっそり食べた。パン屋から食パンの耳が貰えたらご馳走だった。

 それでも、徐々に動けなくて一人で暗い部屋で転がっている。腕の中に、母さんを抱いたままで。

 寒い、お腹が空いた……もう、ダメなのかな?

 ジワジワと胸に迫る不安と恐怖に叫び出しそうなのに、叫ぶ力もない。目頭が熱くなって頭の前の方が痛むのに、涙は出なかった。

 どうして父さんは俺を捨てたの? 俺が、悪い子だから? 母さんじゃなくて、俺が死ねば良かったのかな? そうしたら、父さんはこんなに悲しまなくてよかったのかな?

 苦しくて、辛い。恨むとか、憎むとかよりも前に、捨てられたんだという思いが苦しくてたまらない。胸が潰れてしまいそうで、息ができない。ふっ、ふっ……という浅い息を繰り返して、悠は汚く染みだらけで歪んだ畳の上に転がっている。

 その時、ドンドンドンッ! というドアを乱暴に叩く音がして、悠はビクリとなった。この音を知っている。怖い人達が来た音だ。

 逃げなければ。思うのに、体が動かない。どうしたらいいかも分からない。

 少し動こうとしただけで、胸が痛んで蹲った。そして、ふと力が抜けた。

 もう、きっと死んじゃうんだから、怖くない。誰も、助けてなんてくれないんだ……。

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