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おまけ 電話の後で

 鳥羽から翌日の買い物の案内と足を頼まれ、快諾した。悠と休日に出かけるのは覚えていないくらい久しぶりだから、多少の雑用は気にしない事にした。

「悠くん、どうでしたか?」

 車を運転しながら声をかけてきた小野田に、黒田はゆったりと長い足を組み替えて笑みを浮かべた。

「明日は買い物があるそうだ」

「あー、確かに引っ越し直後って何かと必要な物出るっすよね。特に悠くん、物持ってないっすから」

 そうなのだ、あいつは物を持たない。必要最低限過ぎる物しか持っておらず、無理矢理持たせた物も多い。いざというときの防犯ブザーにGPSを仕込んだ事は未だに内緒だ。

「ってことは、明日はダメっすか?」

「いや、足がないそうだ」

「じゃあ、車出すっす! どこ行くっすか?」

「悠のスマホとタブレット、後は服が欲しいそうだ。とりあえず、秋葉のビッ○○○ラが無難だろう」

 あの辺ならあれこれ揃うだろう。

「あー、服は必要っすよね。黒田さん、大分苦労してたっすよね」

 視線は前を向いたまま、小野田は小さく笑う。それに黒田も苦笑が漏れた。

 悠は黒田にもの凄く遠慮している。まぁ、思い切り他人で、なんなら金貸しなんだから当然なのだが。黒田としては可愛い弟分であり、今ではそれよりも少し上になっている。彼に金をかけるのは言わば愛情と心配からだ。

 最低限の生活。食べる、寝る、健康状態が保たれる。だがここにオシャレは入らない。

 黒田としては悠に色んな服を着せたい。絶対に可愛いし似合う服が多いはずなのに、当の悠が無頓着で、着る物を贅沢品にカテゴライズしている。

 衣食住の基本、「衣」なのだが……みすぼらしくなければいいというレベルで話をするから、黒田が服を贈っても受け取ってくれない。

 結果、小野田からのお下がりという事にしている。

「悠くんならショタ系も可愛いっすよね。小柄で可愛い顔してるし」

 ショタ系……チェックのサスペンダー付きの七分パンツに、白シャツにリボン帯、少し大きめのニットカーディガンとか…………着せたい。

「でもでも、シンプルな学生っぽい服装も絶対似合いますよね!」

 学生……細身のズボンにフード付きのシャツとジャケットなんてのも似合うだろう。

「赤とか黄色とかも似合いそうだし」

 そうだな、黄色や赤のチェックシャツに紺色の薄手ニットとかも悪くない。

「あ! でも絶対萌え袖とかさせたいっす! 大きめだぶだぶな感じとか、すっごく可愛いですよね!」

 手の甲まであるような大きめの服を着た悠…………。

「……お前、センスいいな」

「え? どうしたっすか黒田さん! いっつも俺の私服見て眉寄せるのに」

「お前の私服センスは俺とは合わないが、悠に着せたい服に関しては同感だ」

 よし、今出た分を全部買おう。明日買おう。こっそり買って鳥羽に押しつけておこう。黒田はそう固く誓った。

「それにしても、悠くん高校行けるんですよね。よかったすね」

「あぁ、そうだな」

 少し落ち着いて、その話題に黒田も自然と笑みが出る。

 本当は大学まで黒田は面倒を見るつもりでいた。悠は賢かったし、勉強が嫌いではなく、成績もよかった。中学でも推薦を出せて、奨学金も十分推薦が出せると言っていた。黒田も小野田も最後まで悠を説得した。

 だが悠は「高校は義務ではないので」と言って進学しなかった。

 あいつには「出世払い」と言っているが、返して貰う事は考えていない。十分過ぎる収入があり、自分の事にはあまり使うあてがない。貯まる一方だったそれを、あの子に貢ぐのが黒田の楽しみなのだから。

 ただし、悠の父親からは搾り取る。今までは厳しく取り立てたら悠が苦労すると思って手心を加えたが、それも関係なくなる。これからは鬼のように取り立てるつもりだ。

「偉いっすよね、悠くん。今まで苦労した分、これからは幸せになってほしいっすよね」

「そう、だな」

 途端に、頭が冷える。

 悠の幸せをを考えるなら、黒田は身を引いた方がいいのだろう。良家の当主が反社会的な仕事の黒田と親しいのでは、彼の今後に影しか落とさない。

 彼の将来を考えるなら、このタイミングで突き放すべきかもしれない。だがそれを拒む自分もいる。どんな形でもいいから、関わっていたいと思ってしまう。

「黒田さん?」

「いいからしっかり運転しろ。今日は疲れた」

「っす」

 街の明かりが少し目に痛い。そう感じる黒田だった。

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