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第77話 ロラン様と

 館長室に入るのは久しぶりだった。ソファーに向かい合って座るとすぐにお茶が運ばれてくる。

 いや何これ。

 緊張するんですけど?


「アルフォンソのことですが、目を怪我して帰って来たでしょう」


「そう、ですね」


 いまだに包帯は取れていないから気にはなっているんだけど。


「あれはドラゴンの尾の毒にやられてまだ視力が回復していないようです。心配しているんですけど、本人はさほど気にする様子がなくて」


 と言い、ロラン様は暗い顔をする。

 あぁ、アルのことが心配なのね。すごく弟を大事に思っているんだろうな。

 アルフォンソの方はあまりお兄様の話をしないけれど。


「また無茶をしないか心配なのですが、なにかご存知ですか?」


 まっすぐに、真面目な顔で見つめられ私はどうしようかと多い悩む。

 呪術の話をしていいものかどうか……でも、ステファニア様達が巻き込まれていること、ばれているんだものね。それなら隠しても仕方ないかな。

 ロラン様、独自の情報網を持ってそうだし。

 隠せることではないと悟った私は、最近起きている連続殺人事件のことと、図書館で見つけたよみがえりの呪術に関することを話した。

 黙って聞いていたロラン様は、頭に手をやり呆れた顔をして深いため息をついた。


「また厄介なことに関わっているんですね。なぜそういう変わったことに関わっていくのか理解できませんが」


 変わったこと、と言われるとそれについては苦笑いするしかない。


「それは……まあ、私が発見者になって疑われたのも関係しているかもしれません。疑いは晴れたと思いますけど。もし、本当に呪術が関わっているとしたらあとひとり、犠牲者が出るはずです。場所は大まかにはわかっていますけど、それがいつかなんてわかりませんし」


「それで遠見の鏡を持ち出して、その魔法使いの家を見張ると」


 呆れた様子で言われ、私は苦笑したまま頷く。


「そうです」


「それに姫とロベルト様が関わっている、ということですね」


「そう、だと思います」


「きっとおふたりとも喜んで巻き込まれているでしょうね」


 それは私もそう思う。

 ステファニア様の事はよく知らないけど、変わった方だしな……


「何事も無ければいいですけど……魔法を使う相手はかなり手ごわいですよ。何をしてくるかわかりませんからね」


「え、あ、あの、そうなんですか?」


「えぇ。フェル氏のことは俺も知っています。魔術師で学者。まあそういう人は多いですけど。魔術にもいろいろあるのはご存知ですよね。攻撃する魔法もあれば、鍵をかけたり宙に少しだけ浮いたりできるものなどがあります。攻撃魔法は厄介ですよ。相手がなりふり構わず使って来たら、被害が他にも及びますからね。建物を破壊することも可能ですから」


 そうか……そういえばどうやって捕まえるつもりなんだろうか。

 もし、シュヴァルクさんが抵抗したら……だって、シュヴァルクさんは大切な人を復活させるためにあんなことをしているわけよね? だとしたらきっと、何があろうと願いを成就させようとするはず。


「そうなるとどうしようもないのでは……


「その方は、大切なものを同時に失ったわけでしょう。これ以上失うものなんて何もないですからね」


 それを思うと心が痛い。

 出産の事故は多いと聞く。だから珍しい話ではないと思うけど……どうしようもないわよね。

 でもそれを受け入れられないから、シュヴァルクさんはよみがえりの呪術を行おうとしている。


「でも、それを復活させるために人の命を奪うなんて間違ってます。彼女たちにも家族はいたでしょうから」


 頭の中に、目撃してしまった被害者の顔が思い浮かぶ。

 私には何もできない。それがとてももどかしい。


「ねえ、パトリシアさん」


「はい、なんでしょうか」


「誰だって誰かの大切な物よりも自分の大切な物しか見えないでしょう。アルフォンソ、貴方が巻き込まれなければわざわざ首を突っ込むようなことはしていないと思いますよ」


 そんなロラン様の言葉に私は目を見開く。

 最初は悲鳴を聞いて私が気にして、そしてそのあと、私は被害者を見つけた。

 そうか……私が巻き込まれたから、アルはそんな危険に……

 そう思うと心が痛い。

 でも私に何ができるだろう。自分の無力さにいらだちを覚えてしまう。


「私には何ができるでしょうか」


「ないでしょうね。俺にだってないですよ。ただ待つしかないのは辛いですが、無事を祈るしかないでしょう。大丈夫ですよ、パトリシアさん。アルフォンスには守るべきものがありますから。だからドラゴンの討伐からもアルは帰ってこられたのですよ。守るものがある存在は強いですからね」


 そう言って微笑んで言われるとなんだか恥ずかしい。

 守るべきものか……確かに小説でもよくある話だ。

 どうか、どうか無事でいてくれますように。

 祈る事しかできない自分が無力すぎて、私は俯いて手を組むだけだった。




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