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第50話 手紙

 その日、家に帰ると手紙が届いていた。

 いったい誰だろう。正直心当たりがないんだけどな。

 不思議に思いつつ、私は部屋のテーブルの上に置かれた白い封筒を手に取る。するとその手紙の差出人の所にはアルフォンソさんの名前が書かれていた。

 名前を見て、私の心臓がどくん、と大きな音を立てたような気がした。

 今いったいどちらにいらっしゃるのかしら? ロベルトさんに聞けばよかった。

 住所はどこだろう。なじみのない町の名前が書いてある。ということは、どこか遠くの町に行っているのかな。

 そう思うと少し寂しいような。少し前までしょっちゅう顔を合わせていたしな。

 緑色のシーリングスタンプの紋様は、アルフォンソさんのお宅の紋章かな。

 私はソファーに腰かけて、ペーパーナイフで手紙を開ける。緊張のせいかその手は少し震えていた。

 中に入っていたのは白い便せんだった。手紙を開き、私は文を読む。


『ご機嫌いかがですか? 俺は今、王都から北西にある国境の町、モンターナにいます』


 見慣れない町の名前でまったくぴんとこなくて、私は思わず本棚に近づき国内の地図を探した。

 そんな詳しい地図ではないけれど、町の場所くらいはのっている地図をだし、テーブルに広げる。

 この国、東側は海が広がっていて、北側は高い山が連なっている。北西も山岳地帯で、隣国との境になっていた。モンターナ……ってここか。この辺りはたぶん、森と山よね。行ったことないから詳しくはないけれど、この辺りも温泉地なんじゃないだろうか。山だったらどこを掘っても温泉がわくとお父様が言っていたことがあって、実際に温泉地として有名な町はいくつも存在する。

 モンターナの場所を確認して満足した私は、手紙の続きを読んだ。


『任務のため、こちらを訪れているのですが戻るのにはもうしばらくかかりそうです』


 そうなんだ……なんだろう、ぎゅっと心が締め付けられるような感じがする。

 会ったら会ったで振り回されてあわあわしてしまうのに。私、アルフォンソさんに心、惹かれ始めているのかな。

 あー、なに、この心のざわつきは。こんなの味わったことなくて落ち着かないんだけど?


『……戻れましたらまたご連絡いたします』


 で、いつ戻られるんですか? しばらくっていつですか。

 あまり放っておかれますと私、心移りするかもしれないですよ。

 ……いや、そんなことないか。たぶん。

 私はダニエルと同じことなんてしないしできないもの。

 手紙をいただいたなら返事を書かないと。

 私はデスクに向かい、紙とインク、ガラスペンを用意して返事を考えた。

 いったい何を書けばいいんだろう。

 しばらく紙を見つめた後、私はペンを走らせた。


『……ご機嫌いかがですか? 最後にお会いしてからだいぶ時間が経ち、どうなさっているかと思いをはせておりました。私はお仕事にも慣れてきて、今回、春に行われる施設見学会の企画に参加することとなりました』


 そう書いてから、これもきっとアルフォンソさんの仕業よね、と思い至る。まあいいんだけど。楽しそうだし。

 でもロラン様、ちくいちアルフォンソさんの話、聞くかな。

 いや、単に私が入ったばかりで、職場から抜けてもそこまで困らないからかもしれない。

 そう思うとちょっと複雑な気持ちになるけれど、働き始めて日が浅いもんねぇ。そう思われても仕方ない。

 私はペンを走らせ、近況を報告する。


『早く戻ってらしてくださいね。新年のランタン祭りは共に見られるよう祈ります』


 最後にそう書いて、私は自分が書いた文を読み返した。

 なんだろう、文章から滲みでる早く会いたくて仕方ない感は。

 あーもう、自分で読んで恥ずかしくなってきた。新年のランタン祭りのことまで話題に出して私ってば。

 ランタン祭りは年が明けに行われる祭りだ。

 新しい年を迎えた瞬間、燃えにくい紙でつくったランタンを空に飛ばすもので、新年の目標とか願い事をそのランタンに書く。

 たくさんの人が参加する祭りで、普段は早く寝ないといけない子供もこの日ばかりは夜更かしが許される特別な日だ。

 自然とこのことを書いてしまったけど大丈夫かな……

 うーん……新年って騎士なら警備の任務とかありそうよね。翌朝は国王陛下のご挨拶があるし。

 でもせっかく書いたしな。そう思って私はインクが乾くのを待ってからそれを折り、封筒に宛先を書いてから手紙をいれてシーリングスタンプの蝋を用意する。

 ろうそくに火をつけて専用の容器に蝋をいれてとかし、それを手紙の開け口に垂らしてスタンプを押し付ければ出来上がりだ。

 そしてメイドを呼び手紙を出すのを頼み、私は児童書を開いた。




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