目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第46話 企画参加

 十一月に入ると一気に気温が下がった。

 吹く風は冷たさをまし、木々の葉は一気に色を変え赤や黄色に染まっている。

 冬までってあっという間よね。

 私がダニエルと別れて五か月経った。

 風の噂に子供が生まれたと聞いた。まあよろしくやっていればいいんじゃないかな。関わる気は全然ないし。お父様は仕事の付き合いもあってそういうわけにもいかないところはあるらしいけれど、ダニエルが後継ぎであの商会、大丈夫なのかな。

 私はすっかりパーティーから足は遠ざかり、貴族の噂は最低限しか入ってこない。

 これぐらいがちょうどいいなぁ。

 職場が王宮の近くであるため、知り合いと顔を合わせることはあるけれど、そんな個人的な話はしないから気楽だった。若干の気まずさはあったけど、何事もなかったかのように皆話しかけてくるのよね。

 パーティーでは好き放題言っていただろうに。

 仕事を始めて二週間ほど過ぎた十一月十一日月曜日。

 出勤すると、ロラン様に声をかけられた。


「あ、パトリシアさん、おはようございます」


「おはようございます、ロラン様」


「お願いがあるんだけど」


 お願い、とは?


「まだ先にはなるのですが、複数の施設合同でイベントを企画していまして、貴方にその企画に参加していただきたいんです」


 ……なん、ですと?

 そんなの初めて聞いたけど……


「企画とはなんですか?」


「今年初めてやるものなのですが、体験型のミステリーき……」


「やります!」


 ロラン様が言い終わる前に私は声を上げて手も上げた。

 体験型のミステリー企画ですって?

 そんなの喜んでやるに決まっているじゃないですか!

 私の勢いに驚いたのか、ロラン様は大きく目を見開いて私を見つめた後、口元に手を当てて笑いながら言った。


「聞いた通りですね」


「え、あの、聞いた通りってどういう意味ですか?」


「アルフォンソが言っていました。貴方は尾行とか、ミステリーとかそういう言葉を聞くと目の色が本当に変わると」


 う……恥ずかしいけれど否定できない……

 そうね、アルフォンソさんは一緒に尾行したものね、熊のぬいぐるみを。

 もうきっと、あんな経験できないだろうなぁ。

 そう思っていたところにミステリー企画なんて、とても心惹かれるんですけど?


「あはははは……」


 曖昧に笑って頭に手をやり、私はロラン様に尋ねた。


「合同の企画、なのですよね? いったいどういうものなんですか?」


「来年の三月末から四月になるのですが、王宮周辺にある施設の一般公開があるんです。主に子供たちを対象にしているのですが」


 子供の頃、来たことあったな。

 お城の中には入れないけど、議会とか裁判所とか見学できて、普段入れない所に入れるからワクワク感があったな。


「それで、施設合同でイベントを行うことにしたのですが、本にまつわる事で何がいいか考えたとき、謎解きはどうか、との意見があがって」


 謎解き、という言葉に私のテンションがドン、と上がる。


「それはとても楽しそうですね」


 なるべく冷静に言ったつもりだけど、私の声は明らかに興奮していた。

 抑えきれないこの感情。謎解きって何をするのかな? 殺人事件の謎を解いたり? それとも失われた宝物を探すとか? やだ、考えただけでもワクワクしてきてしまう。

 頭の中でごちゃごちゃと考えていると、ロラン様が口もとに手を当ててクスリ、と笑う。


「本当に謎解きがお好きなんですね。では、詳細について書類をお渡ししますので目を通しておいてください。何せ初めての試みなので皆手さぐりの状態ですが、楽しい企画を考えたいと思います」


「そうですね、楽しみにしています」


 言いながら私は頷いた。

 その日、私はいちにちご機嫌だった。

 ロラン様と話しをしたあと、謎解き企画に関する書類を渡された。

 今月の末に一回目の会議があるらしく、それまでに企画を考えてきてほしい、とのことだった。

 イベントの趣旨は、楽しく本に触れてほしい、というものだった。だから本にまつわる謎解きを考えてほしいらしい。

 それをみんなで持ち寄って、内容を詰めていく。とのことだった。会議は平日なのね。

 どういう企画、考えようかなぁ。

 そして迎えたお昼休み。私はいつものように近所の公園でお昼をとっていた。


「……パトリシア、大丈夫? ずっと笑ってるけど……」


 怯えた様子でそう声をかけてきたのは、隣に座るセレナだった。彼女とはすっかり打ち解けて、仕事以外のことも話すようになっていた。


「え? あ、え? そうかなぁ」


「うん、ずーっと笑ってる。あれ、確か合同企画のメンバーに選ばれたのよね?」


「はい、そうなんです。謎解き企画だそうで」


「あら、楽しそうね。初めての試みで手探り状態って聞いたけど、ロラン様が中心になってやるって聞いたわ」


 あぁ、そうなんだ。


「うちの図書館ってちょっと特殊でしょ? 殆どが専門書だし、外国の本も多いし、子供を招いてのイベントってなると難しくって。だから開放日に何かした事ないのよ。それで今回は開放日に関わりの薄い施設を巻き込んで図書館を使ったイベントをしよう、って考えたみたい」


 あぁ、なるほどねぇ。

 確かに国会図書館は子供向けの本とかないし、見せる所もないしねぇ。


「謎解きかぁ。子供の頃クイズといて全問正解したら景品がもらえるっていうのやったことあるけど、そういうやつ?」


 セレナの言葉に私は頷く。


「そんな感じ、かな。もっと凝った感じで、魔法使いになって魔術書を探すとか、勇者になってお姫様を探すとか、いろいろ考えられますけど」


「いいなぁ、そういうの考えるのすごく楽しそう」


 確かに楽しいと思う。私も楽しみだし。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?