その後、馬車に乗って連れて行かれたのは私の屋敷からほど近い商店街の一画だった。
天幕のショー、とか言っていたけれどいったいなんだろう。
お店の看板には、「天体ショー」という、見慣れない言葉が書かれていた。
天体ショー……って、星のこと、かな。
あの空のかなたには星々の世界がある、らしい。
私は詳しくないけれど、いろんな研究が進んでいて、日々、新しい星が発見されている、と聞いた。
「こちらはなんの施設ですか?」
「週替わりで色んなショーを見せているお店、とでも言いましょうか。手品や寸劇が主ですが、今は天体ショーをやっているんです」
「耳慣れない言葉ですね」
「そうですね。俺も見るのは初めてですが、魔法を使ったショーだと聞いています」
魔法を使ったショー……って見たことないな。そういうのがあるんだ。
受け付けは普通の建物だけど、その奥に大きな天幕があった。サーカスに比べたらだいぶ小さいものだけど。
中は薄暗くて、天井にポツポツと魔法と思われる灯りがともっている。
席は緩やかな階段状に設置されていて、半円形に置かれ、中央にはステージがあった。
百人も座ればいっぱいになるだろう、その天幕内はすでに半分ほど、席が埋まっていた。
椅子は長椅子で、ひとつの椅子に四人ほどが座れるようになっている。
私たちは、私たちも席につき、開演を待つ。
辺りは家族連れよりも友達同士やカップルの方が多そうだった。
いったい何が見られるんだろう。
ワクワク感と一抹の不安を抱えていると、舞台上に黒いローブを着た男性が現れて、天幕内はシーン、と静まり返る。
彼は魔法使いだろうか。彼、って思ったけれどフードを被っているから性別はわからない。
『本日はようこそお越しくださいました。これから皆様には壮大な空の果てへの旅をしていただきます。心穏やかにお過ごしください』
響く声も、男なのか女なのかよくわからなかった。
言葉と共に天幕の中は真っ暗になり、私は思わず隣に座るアルフォンソさんの服の裾を掴んだ。
真っ暗闇って心もとなくて怖い。
でもほどなく足元や天井にぽつ、ぽつ、と明かりがついていく。とても小さな光で、それが星であると、すぐに気が付いた。
そして、天井に現れたのは大きな光の塊だった。でもその玉からは炎が噴き出ていて、その炎が今にもこちらを襲ってきそうだった。
『昼、空に輝く太陽は、このように炎を吹き永遠に燃え続けている、と言われています。そして我々が見る星々も遥か空のかなたで同じように燃えているのです』
星が燃えている?
そんなことあるの?
魔法使いが太陽、と呼んだその炎の塊は徐々に色が変わりそして、シュン……となって消えてしまった。
な、何これ今の……私は思わずアルフォンソさんの服を掴む手に力を込めた。
『長い年月をかけ、星は燃え尽き、最後には消えてしまいます。星は空の遥か彼方にあり、すでに消えてしまったものも数多くあります。私たちが見ている星の光は何百年も、何千年も前の光かも知れません』
そんなことあるの? 星の話ってあんまり知らなかったけれど不思議だな……
空に、たくさんの星々が浮かびあがり、そこに絵が浮かぶ。
『とおい異国の地では、星座、と呼ばれる星の絵本がございます。星と星を繋ぎ、動物や神を描き、物語を紡いだそうです』
その話は昔読んだ絵本で見た記憶がある。
すごくワクワクしたから覚えている。
ショーの時間は多分、三十分くらいだったと思うけれど、倍くらいの時間に感じた。
また真っ暗になり、ポツポツと明かりが浮かぶ。
なんだろう、まるで長い夢を見たいたような、そんな感覚がして私はしばらくぼうっと正面を見つめた。
いつの間にかあの魔法使いの姿は消えていた。あれ、本当に現実だったのかな。
『ショーは終了いたしました』
という声がどこからか聞こえてきて、あぁ、立たなくちゃ、って思うのに、全然身体がいうことをきいてくれなかった。
「……さん、パトリシア?」
アルフォンソさんの声が耳のすぐそばでして、私はハッとして隣りへと顔を向けた。
心配そうな顔で私を見つめるアルフォンソさんが、そこにいた。
「大丈夫ですか?」
「え? あ、は、はい。すいません、なんだかぼうっとしてしまって」
言いながら私は頭に手をやる。
「あぁ、他にも動かない方がいらっしゃいますけどそういう事なんですね」
言われて私は視線を巡らせた。すると、アルフォンソさんの言う通り、正面を見つめたまま動けずにいる人が何人も目についた。
「なんだか長い夢を見ていたような感じがして……」
「確かに不思議な体験でしたね。評判がいい理由がわかります。ショーの内容はいくつかあるそうですので、何度も見に来る方も多いそうです」
それはわかるなぁ。
どんなショーか気になるもの。
「立てますか、パトリシア」
「あ、はい、大丈夫です……あの、手をお借りしてよろしいですか?」
大丈夫、と答えたものの普通に立てる気がしなくて、私はアルフォンソさんにお願いをした。
すると彼は頷き、先に立ち上がると私に手を差し出した。