ここ、貴族御用達のお店よね。私には敷居が高いお店だから入ったことないし、家に呼んだこともない。付き合いないし。
躊躇している間もなく中に入ると、黒いスーツ姿の男性店員がにこやかに声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、フレイレ様。およびいただけましたらご自宅までお伺いいたしますのに」
そうですよね。
貴族が直接お店に来るなんてめったにありませんよね。
私だって宝石商、うちに呼ぶことが多いもの。
アルフォンソ様は張りつけたような笑顔を浮かべて言った。
「ブレスレットを見せていただきたいのですが、お願いできますか?」
その言葉に店員さんは私の方をちらっと見て頷く。
「かしこまりました。では奥の部屋にご案内いたします」
ひえっ……やっぱり貴族相手って扱い違うわね。
うちだったら別室に、なんてならないもの。
ドキドキしながら通された部屋は、小さな応接室みたいだった。
ソファーと、テーブル。壁には絵画がかけられていて、天井には魔法と思われる明かりが淡い光を放っている。
私はアルフォンソさんと並んで座り、店員さんが来るのを待った。
「お茶をお持ちいたしました」
そう言っては言ってきたのは女性の店員さんだった。
「あ、ありがとうございます」
白磁のティーカップから湯気があがり、お茶のいい匂いが漂ってくる。
お茶をいただいていると、先ほどの男性店員さんがトレイを持って入ってきた。
そして、アルフォンソさんが座っている側に近づくと、その場に膝をつき、
「こちらはいかがでしょうか?」
と言い、トレイの商品を見せる。
ブレスレットは三つで、どれも細い鎖に宝石がついている。
宝石の種類はそれぞれ違っていて、緑や青、赤などがある。宝石はなんだろう……エメラルドとサファイア……それにルビーかな。私、宝石にはそこまで詳しくないのよね。
デザインも違うし、どれも可愛らしい。
「ペリドットと、サファイアと……こちらの赤い石は見慣れませんね」
そうアルフォンソさんが言い、赤い石がついたブレスレットを手に取る。
あ、ひとつしか宝石、あってなかった。
その赤い石のブレスレットは、細いチェーンに石が等間隔に三つずつ連なっている。
「こちらはサンゴ。海の中の生き物なのです」
「い、生き物?」
思わず声を上げ、私はアルフォンソさんがもつブレスレットを見た。
血のような濃い赤色の石にしか見えないけど……これが生き物?
「昔は植物だと思われていましたけれど、長年の調査で生物であることが分かったんです。浅い海底に生息していて、太古の時代から装飾品に利用されております。幸福や長寿、という石言葉がございます」
「石言葉、ですか?」
初めて聞く言葉に私が疑問の声を上げると、店員さんは頷き答えた。
「花言葉は有名ですが、石にもそれぞれ意味がございます。ペロドットは平和、サファイアは誠実、ダイヤモンドには無垢といった意味があります」
そうなんだ、知らなかった……
「アメジストは呪術的に使われたこともあり、魔除けの意味があったりします」
アメジストって紫色の石よね。私は持っていないけれど。
魔除け、という言葉にアルフォンソさんがすかさず反応し、
「アメジストのブレスレットはありますか?」
と言いだした。
……どういう意味かな?
店員さんは笑顔で頷き、
「ございますのでご用意いたしますね」
と告げて、部屋を後にした。