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第42話 石言葉

 ここ、貴族御用達のお店よね。私には敷居が高いお店だから入ったことないし、家に呼んだこともない。付き合いないし。

 躊躇している間もなく中に入ると、黒いスーツ姿の男性店員がにこやかに声をかけてきた。


「いらっしゃいませ、フレイレ様。およびいただけましたらご自宅までお伺いいたしますのに」


 そうですよね。

 貴族が直接お店に来るなんてめったにありませんよね。

 私だって宝石商、うちに呼ぶことが多いもの。

 アルフォンソ様は張りつけたような笑顔を浮かべて言った。


「ブレスレットを見せていただきたいのですが、お願いできますか?」


 その言葉に店員さんは私の方をちらっと見て頷く。


「かしこまりました。では奥の部屋にご案内いたします」


 ひえっ……やっぱり貴族相手って扱い違うわね。

 うちだったら別室に、なんてならないもの。

 ドキドキしながら通された部屋は、小さな応接室みたいだった。

 ソファーと、テーブル。壁には絵画がかけられていて、天井には魔法と思われる明かりが淡い光を放っている。

 私はアルフォンソさんと並んで座り、店員さんが来るのを待った。


「お茶をお持ちいたしました」


 そう言っては言ってきたのは女性の店員さんだった。


「あ、ありがとうございます」


 白磁のティーカップから湯気があがり、お茶のいい匂いが漂ってくる。

 お茶をいただいていると、先ほどの男性店員さんがトレイを持って入ってきた。

 そして、アルフォンソさんが座っている側に近づくと、その場に膝をつき、


「こちらはいかがでしょうか?」


 と言い、トレイの商品を見せる。

 ブレスレットは三つで、どれも細い鎖に宝石がついている。

 宝石の種類はそれぞれ違っていて、緑や青、赤などがある。宝石はなんだろう……エメラルドとサファイア……それにルビーかな。私、宝石にはそこまで詳しくないのよね。

 デザインも違うし、どれも可愛らしい。


「ペリドットと、サファイアと……こちらの赤い石は見慣れませんね」


 そうアルフォンソさんが言い、赤い石がついたブレスレットを手に取る。

 あ、ひとつしか宝石、あってなかった。

 その赤い石のブレスレットは、細いチェーンに石が等間隔に三つずつ連なっている。


「こちらはサンゴ。海の中の生き物なのです」


「い、生き物?」


 思わず声を上げ、私はアルフォンソさんがもつブレスレットを見た。

 血のような濃い赤色の石にしか見えないけど……これが生き物?


「昔は植物だと思われていましたけれど、長年の調査で生物であることが分かったんです。浅い海底に生息していて、太古の時代から装飾品に利用されております。幸福や長寿、という石言葉がございます」


「石言葉、ですか?」


 初めて聞く言葉に私が疑問の声を上げると、店員さんは頷き答えた。


「花言葉は有名ですが、石にもそれぞれ意味がございます。ペロドットは平和、サファイアは誠実、ダイヤモンドには無垢といった意味があります」


 そうなんだ、知らなかった……


「アメジストは呪術的に使われたこともあり、魔除けの意味があったりします」


 アメジストって紫色の石よね。私は持っていないけれど。

 魔除け、という言葉にアルフォンソさんがすかさず反応し、


「アメジストのブレスレットはありますか?」


 と言いだした。

 ……どういう意味かな?

 店員さんは笑顔で頷き、


「ございますのでご用意いたしますね」


 と告げて、部屋を後にした。

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