外に出ると、子供たちが走って出店に向かって行くのが見えた。
どうやらあめ細工を売っているらしく、茶髪のおじさんがにこにこ顔で子供たちから要望を受けてあめをのばし、器用に動物の形を作っていく。
すごいなぁ、あれってどうなっているんだろう。
おじさんの太い指先から猫や犬などの形が生まれ、子供たちはお金を払って嬉しそうにそれを受け取っていく。
他にも食べ物を売っているお店があって、お腹が空腹を訴えてくる。
そうか。お昼の時間よね。
広場には芝生があって、敷物を広げて食事をとっている家族連れがいるし、女の子同士で食事をしている子たちがいる。
見てると余計にお腹が空いてきてしまい、私は思わずお腹に手を当てた。
「パトリシア」
「あ、はい」
名前を呼ばれ振り返ると、アルフォンソ様は私の方に手を差し伸べてくる。
「食事に行きましょう」
「そうですね、お腹がすきました」
「こちらで食べるのもよいと思いますけれど、少し行けばお店もありますしそちらに行きますか?」
言われて私は視線を巡らせる。
サーカスが来ているからだろう、広場にはたくさんの出店があって、どこもにぎわいを見せている。
お腹が空いているし、移動は面倒に感じて私はここで食べたいと申し出た。
「最近、お仕事先で食事をするときは外で食べているんです。風が気持ちいい……」
「ではこちらで食べましょう」
私が言いきる前にそう言われ、彼は私の手を握り歩き出した。
急すぎるんですよ、アルフォンソ様?
「外で食べるなんてめったにしませんからたまにはいいでしょう」
なんて言いだす。
いやまあ、そうかもしれませんけど。
「ロベルトにお昼に誘われたとおっしゃっていましたけど、何回行ったんですか?」
その問いに、私はへんに緊張した。
アルフォンソさんがロベルト様を非常に意識しているのは間違いないからだ。
なんでそんなに気になるんだろう。べつに私、ロベルト様と何にもないのに。
「ロベルト様とご一緒したのは二回ですよ。そもそもまだそんなに働いていませんし」
「二回もか……あいつ……」
私の答えに忌々しげに呟く。
「そういえばアルフォンソさんには全然お会いしませんよね。ロベルト様はよく顔を合わせますけど」
「あいつは儀仗隊としての活動が中心で、日頃は城内の警備をしています。俺は儀仗隊ではなく、戻ってきてからは城内の外に出されることが多くて」
あぁ、そういう事なのね。
儀仗隊って確か儀式や式典、国賓がいらした時に護衛とか儀礼とかをする騎士たちのことだ。
新年にある国王の挨拶の時しか見かけないから、よく知らないけれど。
「騎士のお仕事って詳しくは知らないのですが、警備以外にもあるのですか?」
「えぇ、儀仗隊の他、地方の査察、国境警備、モンスターの討伐など多岐にわたります。ここ数十年はあまりモンスターが現れませんが、それでも確かに存在して時々村を襲うことがあるんです」
「そ、そうなんですね」
モンスター……さっきのサーカスで芸を見せていたけれど彼らみたいなのはまれなんだろうな。
いろんなおとぎ話や小説に出てくるけれど、人や家畜を襲い、冒険者や勇者に退治されるものだ。
「さっきのサーカスでもいましたよね」
「えぇ。ああいったのは珍しいですよ。どう調教したのかはわかりませんが、幼いころから育てたのかもしれませんね。モンスターでも親が死んだりはぐれたり、ということはあるでしょうから」
言われてみればそうか。
ルミルアにいたときにそういう動物を保護する施設、あったけどモンスターでもそういうこと、起こるわよね。
親がいるのなんて当たり前に思っていたけれどいつ何が起こるかわからないし、できる限り両親、大事にしよう。
「私、モンスターを見たのは初めてでした」
「俺も余り見たことはありませんが、あれは本当にごくまれなものなので、もし見かけたら逃げてくださいね」
「見かけることがないのを祈ります」
こんな町中でモンスターが出てくることってない、と思いたい。でも翼のはえたモンスターもいるから、飛んでこないとも限らないか……それはそれで怖いな。私、戦う手段はもっていないし。
出店がいくつも並ぶ通りを歩きながら、私は視線を巡らせる。
色んな匂いがしてどれもおいしそうなのよね。
無難にパンを食べてから、馬車に乗り連れて行かれたのは宝石店だった