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第40話 サーカス

 郊外の広場のそばで馬車をおり、私たちは歩いて広場でやっているサーカスに向かった。

 ここからでも大きな天幕が見え、多くの人がそちらに向かっていく。

 周囲にはお店も出ていて、大変なにぎわいだった。

 子供たちが待ちきれないのか、


「はやくいこーよー!」


 と声を上げ、母親の腕を引っ張っている。

 こういう特別な行事ってワクワクするのよね。

 大人の私でも楽しみって思うもの。


「大きなテントですね! あの中で色んな動物のショーとかが見られるんですよね!」


 はしゃぐ私を、アルフォンソ様は微笑んで見つめて頷いた。


「そうですね。動物たちのショーの他、軽業師やピエロのショーもあるそうですよ」


 いいなぁ、楽しみだな。

 受付でチケットをだし、天幕の中に入る。

 席は階段状に長椅子が置かれ、全席指定になっている。下から上までずらっと並ぶ長椅子たちは見ていて圧巻だった。

 こんなに席があるってことは、これだけの人が見る、ってことよね。

 中央は円形にあいていて、上をロープが張られ、演者が入って来るであろう入り口の門がふたつ見える。

 天幕内はところどころに光の玉が浮いていて、かなり明るかった。

 入り口でもらったチラシをみると、褐色の肌の男女や、珍しい動物たちが描かれている。

 褐色の肌ってことは、南方の人たちなのかな。いろんな国を巡っていると、説明に書かれている。


「アルフォンソ様のご先祖って、南方のご出身なんですよね」


「えぇ。このサーカスは、南方の国、ミルファーナから来ているそうですが、俺の先祖もそのあたりからこちらに来たと聞いています」


 ミルファーナ、って名前しか知らない。

 世界には色々な国があるわけだけど、国の名前しか知らない国がいくつもある。

 近隣の国ですら詳しいことを知らないもの。

 子供の頃色んな国の神話を読んだけけど、どれがどこの国の話かは覚えていない。

 たぶん行くことはないだろうしなぁ。でも南方の国ってどんなところなのかは興味はある。


「そうなんですね。なんでこちらに出てきたんですか?」


 南方の国からこちらに来るのって何日もかかるはずだ。

 今だって汽車が走っているとはいえアルフォンソ様のような褐色の肌の人は見かけないから、そうとう距離が離れているんじゃないかな。

 しかも何百年も前なら今より道路事情も悪いだろうから来るの、大変だったんじゃないだろうか?

 私の問にアルフォンソ様は肩をすくめる。


「詳しくは知りませんが、放浪の末たどり着いたとかなんとか……いわゆる冒険家みたいな人だったようです」


 冒険家かぁ。いいな、楽しそう。財宝探したりとかしていたのかな。

 考えるだけで夢が膨らむ。

 それでこの国の貴族になったってすごいなぁ。

 昔は多かったのかな、冒険家って。おとぎ話で、冒険者がモンスターを倒して迷宮を冒険するっていうのがあったなぁ。

 今ではあんまりモンスターの話は聞かないけど、ときどき家畜に被害が出るらしいから、いるにはいるんだろうな。

 そもそもアルフォンソ様の祖先って、ルミルアでドラゴンを倒したんだっけ。

 ロマン感じるなぁ。


「すごいですねぇ、そうやって先祖のことがわかるって。うちは平民なのでそういうのないですよ」


 さかのぼれたとして、せいぜいひいおじいちゃんまでくらいじゃないだろうか。

 貴族だと何代も遡れて何をしていたとかわかるんだからすごいなぁ。

 私が感心していると、アルフォンソ様は顎に手を当てて呟く。


「その発想はなかったですね。当たり前の話ですし、どの家も十代以上さかのぼれるのは当たり前なので」


「当たり前ではないんですよ。うちなんてそこまでわかんないですからね。でもだからアルフォンソ……さんがその肌の色である理由もわかるわけだし、その血は確実に受け継がれているって事なんですよね。すごいロマン感じます」


 私の言葉を聞いて、アルフォンソさんは大きく目を見開いて私をじっと見つめる。

 あれ、私何か変なこと言ったかな……すごく普通の感想を言っていると思うんだけど……

 どうしようか、と思っていると、彼は微笑みそして言った。


「本当に、貴方と知り合えてよかったです」


 なんて言いだす。


「え、あ、あの、いきなり何を言いだすんですか?」


 そう私が問いかけたときだった。

 辺りが急に暗くなった。

 テントの中を照らしていたのはきっと、魔法の灯りだろう。

 魔法だから、やろうとおもえば一斉に消すことは可能らしい。

 一斉につけることは難しいらしいけど。

 客席がざわめくなか、中央の広場の上に光の玉が浮かぶ。

 いつの間にか、広場の中央に褐色の肌に黒い髪の女性が立っていた。

 音楽隊がいるのだろう。

 弦楽器の音色と共に、茶色い毛並みの大きな動物が入ってきた。


「あれは……ライオンですね」


 そうアルフォンソ様が呟く。

 ライオンって肉食獣よね?

 大丈夫なのかな。

 ハラハラしていると、広場の中央に大きな輪っかが現れて、女性が手でなにやら指示をだすとライオンがひょい、と跳ねてそれをくぐる。

 すると客の歓声が上がった。


「おー!」


「ライオンを手なずけてるの?」


 なんていう言葉も聞こえてくる。

 輪っかは三つに増え、高さも違うものが用意されるけれど、ライオンはひょい、と難なくその輪っかをくぐっていった。

 ライオンは尻尾を振って女性に近づくと、ご褒美と思われる餌を貰っている。

 可愛い。大きな猫みたいだ。

 魔法使いだろうか。

 ローブをまとった女性が輪っかに近づき、ひとつに火をつけた。

 そうするとまた、客の歓声があがる。

 動物は火を怖がるものだ。

 ライオンは女性にくっついて歩き、彼女の指示を受けて火のついた輪っかに向かっていく。そしてひょい、とそれを跳ぶとひときわ大きな歓声があがった。

 すごいなぁ。あのライオンさん、火、怖いだろうによくできるなぁ。

 次は三つの火がついた輪っかをくぐり、ライオンは誇らしげに座り、尻尾をぱたぱたと振った。

 他にモンスターの曲芸や、人間の曲芸師による空中ブランコや綱渡りなどもあって、会場は大きく盛り上がった。

 モンスターって芸できるんだ……しかも人と共存できるのね。このサーカスでの一番の驚きだ。

 ゴブリンに、犬の頭はコボルかな。いったいどうやって手なずけたんだろう……

 ショーは多分、一時間ちょっとだったんだと思う。

 とても充実した時間を過ごすことができた。

 会場が明るくなり、係の人たちが出口へと案内をしている。


「あー、面白かったです! 連れて来ていただいてありがとうございます」


 隣に座るアルフォンソさんの方を向いて、私は笑顔で言った。


「それはよかったです。では外のお店でお昼を食べていきますか?」


「はい、そうしましょう。せっかくこちらまで来ましたし、色々と見て回りたいです!」


 私たちも立ち上がり、案内の人たちの指示に従い外へと向かった。 



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