目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第39話 お出かけ

 そして、週末が来た。

 何を着ていこうかと悩んだ末、紺色のワンピースに焦げ茶色のケープを羽織る。

 それに帽子を被ってブーツを履いて、私は鏡の前でくるり、と服装を確認した。

 まあこんなものよね。正直何を着ていったらいいのかわからないから、無難な服ばかりになる。

 十時より少し前、部屋の扉を叩く音が響いた。


「お迎えが参りました」


「ありがとう、すぐ行きます」


 私はショルダーバッグをひっかけて自室を出た。

 階段を降りて玄関を出ると、迎えの馬車が控えていた。

 二頭だての馬車の横に立つのは、黒いズボンに丈の長いジャケットを羽織っている。彼は私を見るなり被っている帽子をとり、微笑んで軽く頭を下げた。


「ごきげんよう、パトリシア」


「ご、ごきげんよう、アルフォンソ、さん」


 うぅ、何とか名前を呼んだものの、すごくぎこちない。

 しかも馬車でふたりきりかぁ……

 以前、ルミルア地方で馬車に乗った時、手の甲にキスされた時のことが頭をよぎる。

 この間、馬車に乗った時は何もなかったから大丈夫、かな。

 馬車に乗ると、御者の方が扉をしめる。

 そしてゆっくりと馬車が動き出した。

 私は隣に座るアルフォンソ様の方をちらり、と見る。

 彼は足を組み肘を置いてこちらを見ていて、目が合ってしまい慌てて私は顔を伏せた。


「どうしました、パトリシア」


「え、あ、い、いいえ。なんでもないです」


「なら良いですが、三日ほど王都を離れていたので心配していました。何もなかったですか?」


 あ、本当にいなかったのね。

 私の脳裏にロベルト様と食事をしたことが思い浮かぶ。

 これ、言った方がいいのかな……


「えーと、あの……先日ロベルト様にまたお昼を誘われました」


 黙っているのも悪いかな、と思いそう口にすると、空気がピーン、と張りつめた気がした。

 ……何かなこれ?

 顔を上げてアルフォンソ様の方を見ると、彼は微笑んでこちらを見ていた。


「あぁ、そうですか。何もなかったですか?」


「え? あ、はい。何にもないですよ。ただお昼をご一緒しただけで」


 もしかしたまずいのか、な?

 アルフォンソ様は私の手をそっととり、


「やはり少し心配ですね」


 なんて言いだす。

 それはロベルト様が


「ねえパトリシア、指輪を買いに行きましょう」


 指輪を買いに……ってえ?

 指輪って何? 指輪って……指輪、よね?


「指輪……はまだ早いと思います。だって私たち、互いを知る為にお付き合いをしている段階ですよね?」


 指輪って婚約とか結婚とかの時にする者ですよね? 私、ダニエルにもらったもの。

 さすがに指輪をもらう気はないんだけど。

 するとアルフォンソ様は困ったような顔になる。


「他に俺の……とわからせる方法……」


 今なんて言いました? なにか物騒なことをおっしゃっていません?

 ハラハラしていると、アルフォンソ様は私の手首をすっと撫でて言った。


「でしたらブレスレットはいかがですか?」


 ブレスレットかぁ……あんまりする習慣ないけど、それならいいかな。


「それでしたらいいですよ」


 そう答えると、彼はにっこりと笑って頷き、


「では帰りに買いに行きましょうね、パトリシア」


 と言った。

 正直その笑顔、怖いんだけどなぁ……大丈夫かな。

 不安を抱えている間にも、馬車は揺れ郊外へと向かって走っていた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?