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第37話 捕まった

 金曜日。今日で仕事を始めて三日目になる。

 昨日、アルフォンソ様は現れなかった。

 てっきり毎日張り込みされるのかと思って身構えていたけれど、肩透かしを食らってしまった。

 だから昨日は国会図書館の周辺を散歩して帰ることができたんだけど、アルフォンソさんは何を考えているのか本当にわからない。

 今日はどうなるんだろうなぁ。

 朝、国会図書館に出勤すると、セレナさんはいなかった。なので今日は赤い髪のイヴァン=コッソリーニさんがお仕事を教えてくれることになっている。

 事務所に入ると、彼はにこっと笑い私に手を振り言った。


「おはようございます、パトリシアさん」


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 私は彼に近いて頭を下げた。


「じゃあ、今日は受付での仕事をお教えしますね」


「はい」


 国会図書館の仕事は、カウンターでの資料の貸し出し返却業務、館内を回り資料の用意、返却された資料の整理などに分かれている。

 私の仕事はカウンターでの資料の貸し出しや返却の業務と、資料の用意だ。

 昨日と一昨日は館内を回って資料の用意をしながら、どこにどんな資料があるのか見て周った。

 まだ全部見て周れたわけじゃないけど、百年以上前の本の写本もあったりして楽しかった。

 他にも古い本が色々とあるらしいけれど、その全てを見ることはもちろんできない。

 いつか見てみたいなぁ。

 そんなワクワクがつまった国会図書館での仕事、三日目。

 イヴァンさんと共に、私は図書館の出入り口の側にある受付に立った。

 開館するなり、役人と思われる人や、学生っぽう人たちなどが入ってきて入館手続きをしていく。

 この図書館は少し特殊な図書館なので、何の手続きもせず自由に出入りができる他の図書館と違って入館する時に名前と時間を記入し、番号札を受け取らないといけない。そして資料を借りる際はその番号札が必要らしい。

 あっという間に数十人の人たちが図書館の中に散っていくが、中には資料の貸し出し手続きのみをする人もいた。

 異国の地理や気候について書かれた本や、法律の本、魔法の本など様々な本が貸出手続き待ちの箱に溜まっていく。

 午前中の仕事をこなしたあと、お昼休みになったので、私はひとり、外に出た。

 今日はひとりでお昼かぁ。どうしようかな。

 昨日はセレナさんとスパゲティを食べに行ったのよね。この辺りのお店は全然知らないから、どこに行こうか悩んでしまう。

 面倒だから公園にでてるサンドウィッチのお店でいいかなぁ。

 そう思い私は公園に向かって歩いて行った。

 すると、その途中で目の前に立ちはだかる人がいた。


「あ、また会ったね!」


 その人はおとといお昼をご一緒した、公爵家のロベルト様だった。

 彼は茶色のズボンに白いシャツ、それに焦げ茶色のマントを羽織っている。


「あ、ロベルト様。ごきげんよう」


 内心驚きつつ、私は頭を下げた。


「今日はひとりなの?」


「あ、はい、そうなんです。セレナさんは今日お休みなので」


 そう言いつつ私はちょっと気まずかった。

 アルフォンソ……さんに釘さされたからな……

 ロベルト様はそんなこと知るわけはないので、ニコニコ笑って言った。


「それじゃあお昼、一緒に行きましょう!」


「ってえ?」


 私の答えなど待たず、ロベルト様は私の手を掴んで歩き出した。

 あぁそうだっった。

 ロベルト様、突っ走る人だった。おとといも私たちの返事を聞かず、席を取りに行ったものね。ちょっとアルフォンソさん、これは逃げるの無理ですよ?

 またどこかで見ていたりしないよねぇ?

 そう思いつつ見える範囲を見てみるけれど、アルフォンソさんはいない、と思う。

 なんでこういう時にはいないのよ。正直助けて欲しいんだけど?


「ちょ、あ、あの、ロベルト、様?」


「公園にサンドウィッチ以外にもお店、出てるんですよ!」


 と言い、彼は公園に私を引っ張っていく。

 外ならいいか……いや、でも異性とご飯を食べ行くのって大丈夫なのかなぁ。アルフォンソさんの手前、気まずいんだけどな。

 でも相手は国王陛下の甥。拒絶できるわけはないので私は仕方なく引っ張られていった。

 視線を巡らせると、すれ違う人たちが皆驚いた様子でこちらを見ている。

 やだこれ、すごく恥ずかしいんですけど?


「あの、すみません。ご一緒しますので、手、離していただいてよろしいですか?」


 すると、ロベルト様は立ち止まってこちらを振り返り、私の顔と腕を交互に見る。

 そしてハッとした顔になると、パッと手を離して気はずかしげに笑って頭に手をやった。


「すみません。レディに失礼ですよね」


 それ、今気が付いたんですかね。

 ちょっと遅いと思うのよ。


「そうですね」


 と、思わず本音を漏らすとロベルト様は情けなさそうな顔になって、


「申し訳ないです」


 と言い、頭を下げた。

 わかればいいんですけどね。

 辺りを見回すと、子供たちが走り回っているのが目に映る。

 それにこの間お昼を食べた丘の階段では、人々が思い思いの時間を過ごしているようだった。

 中には恋人同士、と思われる男女もいる。

 サンドウィッチのお店の他にいくつか店が出ていて、賑わっていた。

 パンケーキのお店にバーガーのお店などがある。


「あちらのバーガーのお店はいかがですか?」


「バーガーって初めて聞きましたけど……」


 お店の前の看板を見ると、どうもパンにハンバーグなどを挟んだものらしい。けっこうボリューム、ありそうだ。

 それにポテトと飲み物がついているらしい。


「最近流行っているんですよ。お値段もそんなに高くなくておいしいですよ!」


 確かに、価格表を見る限り値段は安めだ。

 にしてもロベルト様、公爵家の方ですよね? この辺りには高い店もあるだろうけれどそういうところにはいかないのかな。

 でも考えてみたら初めてお会いした時、買い物していたお店もお手頃価格だったな。

 貴族ってもっと気張っているものだと思ったけど……アルフォンソさんもそんな高いお店に行ったりしないな、そういえば。

 そう考えるとアルフォンソさんも変わった貴族よね。


「確かにお値段、お手頃ですね」


「はい。お金は限られていますから、安くおいしいお店は貴重ですよ。公爵家の人間ではありますけど、自由に使えるお金は騎士の給料だけですから、節約できるところは節約しています。朝食と夕食は寮で無料ですが、お昼だけは自腹なんですよね」


 そうなのね、初めて知った。

 貴族でもそういうものなのか……大変だなぁ。

 まあ私は食べられればどこでもいいんだけど。


「確かに安いほうがありがたいですね。毎日のことですし」


「そうなんですよねー。じゃあ行きましょう!」


 そして、ロベルト様は大股で歩き始めた。

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