公園は、今日が平日と言うこともあり昨日よりも人は少なかった。
小さな子供たちがブランコや滑り台で遊んでいて、風に乗り歓声が聞こえてくる。
色の変わった木々の葉が風に舞い、散っていく。
「木々の葉の色が綺麗ですね」
吹く風に帽子を飛ばされないように頭を押さえながら、私は言った。
「そうですね。日に日に色が濃くなっていますね。祭りの頃にはすべての木の葉の色が変わって、もっと美しい姿を見せてくれるでしょうね」
「祭り、もうすぐですね。先日の舞台がどんな飾り付けになるのか楽しみです」
王都のお祭りしか見たことないから、どんなお祭りなのかすごく楽しみだ。
「皆、思い思いの衣装を着て、街の至る所で音楽が流れて踊るんですよ。出会いの場にもなっておりますから、そこから恋人になる者も多いそうです」
あー、そうなんだ。貴族や商人がパーティーで知り合うように、祭りで知り合ってっていうのがあるのね。
「アルフォンソ様は祭りの日、伯爵様のお手伝いされるんですか?」
「えぇ。ずっとではないのですが。ですからパトリシア、祭りの日、一緒に周りませんか?」
そうなりますよね。それを断る理由はないし、そもそも一緒に周る相手もいないため、私は頷いた。
「大丈夫ですよ。特に予定はありませんから」
そう答えると、アルフォンソ様はほっとした様な顔になる。
「十三日……日曜日の夜は花火が上がるんです。その日の三時頃、ホテルの前で待ち合わせでよろしいですか?」
「はい、わかりました」
アルフォンソ様と会うと、必ず次の約束をしている気がする。
「あの、アルフォンソ様」
「なんでしょうか」
「私は、祭りが終わった後の二十日には王都に帰ります。アルフォンソ様はいつ、王都に戻られますか?」
するとアルフォンソ様は顎に手を当てて視線を下に向けた。
「そうですね。俺の休暇も、その日までなので十八日頃には戻る予定です。王都に戻りましたら自宅ではなく、騎士の寮に戻る形になりますが」
あ、そうか。アルフォンソ様、寮で生活してらっしゃるのね。騎士の仕事って確か王宮の護衛の他、式典での儀仗隊もやるんだっけ。詳しくは知らないけど。
そうなると時間、今みたいにはいかなくなるよね。
「では余り時間が取れなくなるのでは?」
あくまで印象だけど、騎士って忙しそうだ。事件の捜査もするとおっしゃっていたし。
するとアルフォンソ様は頷き、ちょっと寂しげな顔で言った。
「そうですね。ですが休みの日はありますからお会いできる日はあると思います」
まあそうよね。でも騎士だと決まったお休み、というわけにはいかないよね。
まあ仕方ないよね。
そう思っていると、私の手をに握るアルフォンソ様の手の力が少し、強くなった。
そして彼は私の方をじっと見つめて言った。
「ですから今のように自由にお会いする時間は取れませんので、今のうちに同じ時間をたくさん過ごせたら、と思っています」
そんなこと言われたら恥ずかしすぎるんですけど?
顔が真っ赤になるのを感じながら私は視線をそらす。
その時だった。
「あー!」
という、男の子の叫び声が響いたかと思うと、ぐい、と手を引っ張られ、アルフォンソ様に抱きしめられてしまう。
「きゃっ」
私の叫びに続いて、地面にボールがおちて跳ねる音が響く。そして走ってくる足音が近づいてきた。
「ごめんなさい、大丈夫でした?」
たぶん十歳くらいだろう、金髪の男の子たちが息を切らせてこちらに走ってきて頭を下げた。
「あ、大丈夫大丈夫」
私はアルフォンソ様に抱きしめられたままそう答えた。
ここは公園だし、ボールが飛んでくるのは仕方ないだろう。
それよりもこの状況ですよ。アルフォンソ様のまとう匂いと、心臓の音がすごくよく聞こえてきてドキドキするんですけど?
子供たちはボールを拾うと、足音を響かせて走っていく。
「子供の頃って全力で走り回りますよね。もうあんなに走れる自信、無いですよ」
私を抱きしめたままアルフォンソ様は言った。
子供と同じ量で動いたらきっと死ぬ。そういう自信がある。
いやそれよりもですよ。
「あ、あの……この状況は……」
「ボールが貴方に当たりそうでしたので」
それはわかっていますよ。わかっているけれど。
「あ、あのありがとう、ございます……でもあの……」
「でも、なんですか?」
「は、離していただいても大丈夫、ですか?」
遠慮がちにそう伝えると、アルフォンソ様はそっと、私を抱きしめていた手を離す。
「あぁ、そうですね。このままでは歩けませんもんね」
と言って笑みを浮かべた。
いや、そういう問題ではないんですけど?
アルフォンソ様、本当につかめない人だなぁ。
彼は空へと視線を向け、
「まだ夕暮れまで時間がありますから、カフェに立ち寄りますか?」
「そうですね。あと私、動物たちと触れ合いたいんですがいかがですか?」
せっかく来たのだからまたうさぎや猫や犬と触れあいたい。
私の提案にアルフォンソ様は頷き、
「大丈夫ですよ」
と答えた。