その公園はとても広く、遊具がある広場、動物と触れ合える広場、お散歩コースがあり小さなカフェもあるらしい。
すべり台やブランコ、シーソーで遊ぶ子供たちがいて、歓声が聞こえてくる。
動物との触れ合い広場に近づくと、若い男女が長椅子に腰かけて、係の人から小さなうさぎを膝に乗せてもらっていた。
ふたりは寄り添って座っていて、膝に乗るうさぎを笑顔で優しく撫でている。その姿が何だかとても微笑ましくて、幸せそうだった。
たぶん私より若いんじゃないかな……十代くらいじゃないだろうか。
なんだか初々しく見える。楽しそうだなぁ。他に、小さな男の子が両親に挟まれて座り、ニコニコとうさぎを撫でている。うさぎも男の子も可愛い。
「うさぎ以外にも小さい馬もいるし、あっちの建物には猫もいるんだよ。あっちには鳥がいるし」
「けっこう色んな動物、いるのね」
見渡せば確かに、小さな馬に乗った子供の姿が見える。
「ねー、捨てられた子とかの保護もしているんだって。犬や猫は譲渡会もやったりしてるの。うちは前に、ここで犬を譲ってもらって飼ってるんだ」
「保護?」
耳慣れない言葉に私は首をかしげる。
「そうそう、怪我をしたり捨てられた動物を保護してるのよ。だから猫とか犬はほとんどが捨てられた子なんだって」
どんな施設があるって初めて知った。
ジーナと一緒にうさぎや猫と触れあった後、私たちは公園を離れて町中のカフェに向かった。
あと二週間で祭りだからだろうか、あちこちで準備が進んでいるみたいだった。
街灯に飾り付けがされ、中央の広場では何やら工事が行われていた。
「ねえ、あれ何か作ってるの?」
木で何かの枠組みをつくっているみたいだけどけっこう大きい。三階建ての建物くらいある、塔みたいな形に見える。
「あぁ、あれは屋台よ。あそこに像や農作物を飾り付けて、塔の上で踊ったり音楽を演奏したりするの。それで周りで皆踊るのよ」
こんな木の枠組みが塔になるってすごいなぁ。祭りのたびに作っているって事なのかな。
その作業をいろんな人が見つめている。
「あれ」
その中に見知った顔を見つけ、私はじっとそちらを見つめた。
アルフォンソ様だ。
黒いマントを羽織り帽子を被ったアルフォンソ様が作業を見つめていて、説明を受けているみたいだ。
あぁ、だから今朝、ホテルにいらっしゃらなかったのか。祭りのお手伝いをしに来たって言っていたもんね。
あの、話をしている人、役所の人かな。あ、うちが作ってるズボン穿いてる人たちがいる。こうして使われているのを見ると嬉しいなぁ。
「アルフォンソ様、作業の見学かな」
そう私が呟くと、ジーナが答える。
「そうねぇ。当日、伯爵様もお出ましになって山車に乗ってパレードするのよ、アルフォンソ様も乗るのかな」
「へぇ、山車かぁ」
「そうそう、各町で作るんだけどね、毎年どんどん派手になってるんだよね。どこの町も凝ってて楽しいよ。昔話をモチーフにした、勇者とドラゴンの山車とか、天使の群れとか、野菜の妖精たちとか」
いったいどんな山車なんだろう。その説明からはどんなものなのか全然想像できないや。
「パトリシアは、その頃まだこっちにいるんでしょ?」
ジーナの問いかけに私は頷く。
祭りが終わった次の週に、王都へ帰る予定だ。
私が頷くのを見てジーナは嬉しそうに笑って言った。
「なら山車、見られるね。無料でスープが配られるしたくさんお店出るから、絶対楽しいよ。祭りではいたるところで音楽が響いて、皆ダンスを楽しむのよ」
「なにそれ、楽しそう」
話しこんでいたアルフォンソ様がこちらに気が付いたのか、ニコッ、と笑い軽く帽子をとって会釈してくる。
私も会釈して答えたものの、どうしたらいいのかわからずじっと、アルフォンソ様を見つめてしまう。
すると、アルフォンソ様は周りの人たちに何やら声をかけた後、こちらへと歩み寄ってきた。
「ごきげんよう、パトリシア、ジーナ」
「ごきげんよう、アルフォンソ様」
「あ、……えーと、ご、ごきげんよう」
なんとなく気恥ずかしくって、私は目をそらして小さく頭を下げた。
昨日、手の甲に口づけられた時の光景が頭をよぎってしまう。
なんであんなことしてきたんだろう。思い出したらドキドキしてきちゃった。
「ふたりでお散歩ですか?」
「はい。公園で動物たちと遊んできたんですけど、これからカフェに行こうと思いまして」
挙動不審になっている私の代わりにジーナが答えてくれる。
「あぁ、ふれあい広場のある公園ですね。そちらには時間が出来たらお誘いしたいと思っていましたけど」
「えっへへー、私の方が先にお誘いしちゃった」
ふざけたような口調でジーナが答える。
「別に、公園は広いんだしまだ案内してない所ありますでしょう? 展望台には行ったの?」
ジーナの言葉を聞いてアルフォンソ様は首を横に振った。
「まだですよ」
「ならそこに行って来たら? あそこから見る夕焼け綺麗だし」
展望台ってたしか、どこかの公園にあるんじゃなかったっけ。高い塔で、町が一望できるっていう場所だ。
ジーナの提案にアルフォンソ様は顎に手を当てて考え始めてしまう。
えーと、何考えてるんだろう?
そして、ぱっと顔を上げたかと思うとこちらを見て言った。
「明日、いかがですか」
てっきり今日行く、って言い出すのかと思ってドキドキしてしまった。
明日……まぁ、毎日が暇ですし明日の予定は未定だから別にいいけど。聞きたいこともあるしな。
「明日ならいいですけど……」
「じゃあ、決まりですね。明日、三時ごろホテルへお迎えにあがりますね」
「あ、はい、わかりました」
頷き返事すると、ジーナが私の腕を掴んでくる。
「それじゃあ私たち、これからカフェに行きますので」
「あぁ、そうでしたか。では、パトリシア、また明日」
そう言って、アルフォンソ様は頭を下げたので私もつられて頭を下げた。