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第13話 呪いの遺物たち

 入り口の受付前を通り過ぎ、向かって左側の扉に入る。

 するとすぐに下りの階段があって、司祭様はそれを下りていく。

 人がふたりどうにか並べるほどの階段の壁には魔法だろうか、ところどころに光の塊が浮いている。

 岩の地下っていうことは洞窟になるのかな。会堂よりも空気がひんやりしている。


「毎年毎年色んなものが増えていきまして、去年、増築したのですよ。それもこれも皆様が観覧にいらしてくれるおかげです」


 そう、司祭様は嬉しそうに語る。

 でもそれって、それだけ呪いの物品が増えている、ってことよね。

 えーと、そんなに世の中、呪いってあるものなの? それはそれで怖いんですけど。

 そう思っていると、アルフォンソ様が苦笑して言った。


「展示室を増築ですか? そんなにも増えるとは驚きですね」


「はい。四つの部屋に分かれていて、仮面の間、人形の間、宝石の間、危険の間となってます」


 なんだか最後の部屋、とても物騒な名前ですけど?


「き、危険、ですか?」


 おそるおそる尋ねると、司祭様は笑い交じりの声で言った。


「えぇ。特に危険な呪物を展示しております。もちろん封印をしておりますし今は危険がないですが、封印をといてしまったらその力の暴走が予想されるものがございます」


 楽しそうに語っておいでですが話の内容が怖すぎるんですけど?

 なに、力の暴走って……


「なんでそんな危険なものが存在するんですか?」


 前を下りていく司祭様に尋ねると、彼は肩をすくめた。


「逸話は色々とございますが、人の思いがその物品に呪いの力を与えてしまっている事例が多いように思いますね。ねたみ、ひがみ、怒り、悲しみ……人の強い感情が悪霊を引き寄せ呪いの力をもってしまうのですよ」


 人の思いか……

 私はパーティーで見聞きしてきた噂話を思い出す。

 誰が誰を好きらしい、という話から始まって、どこの貴族は経済状況がよくないらしいとか、誰が浮気しているだとか、大きな宝石を手に入れたらしい、とかそんな話、多かったっけ。

 パーティーってお見合いの側面もあるけれど情報収集や人脈づくりの側面もあるのよね。だからお父様やお母様はパーティーがあると極力参加していた。

 それで商会をしってもらってし

 話をしているうちに階段が終わり、開けた場所に着く。

 壁にフロアマップがあって、丸い部屋が四つあり、出口は別にあることが示されていた。

 最初の部屋は仮面の間、人形の間、宝石の間、危険の間の順番で周れるようになっているらしい。

 そのフロアマップの横に入り口があり、仮面の間の内部が見えた。

 ここは地下、というか半地下なんだろうな。壁の高いところに窓があり、そこから空気の入れ替えができるようになっているようだ。そこから入る灯りがあるから、室内は意外と明るい。

 仮面の間、ということもあり、壁にはいろんな仮面がかけられていて、部屋の中央にはケースにおさめられた仮面がいくつもあった。

 そのひとつひとつに逸話が書いてあって、つけたら二度と外せないとか、戦の神の魂を宿した仮面と書いてある。

 見た目は何の変哲もない仮面だけれど、全部呪われているのか……

 戦の神の魂を宿した仮面は普通そうに見えたけど、よく読むと敵だけじゃなくて周りの人まで不幸にしてしまう、って書いてある。

 ……不幸ってなんだろう。いや、これだけでも十分どうかと思うけど、これよりも危険な物がこの先にあるのよね。

 いったいどんなものがあるんだろう。ワクワクと恐怖が私の心の中で同居している。


「ずいぶんと展示物が増えましたね」


 展示物を見回しながら言うアルフォンソ様に、司祭様は笑みを浮かべて頷いた。


「えぇ。おかげさまでたくさんの訪問者がいらして教会を支えてくださいます」


 確かにこの展示室には観光客と思われる人たちの姿が多々あって、展示物を見て思い思いに感想を述べている。

 人形の間に入ると、ひとりの女の子が目に付いた。十歳位だろうか、熊のぬいぐるみの前に立ってそれをじっと見つめていた。

 あれ、あのぬいぐるみだけケースに入っていないんだ。

 他の人形やぬいぐるみは皆、ガラスのケースにおさめられているのに、その少女が見つめてる熊のぬいぐるみだけは茶色の木でできたゆりかごの中におさめられているだけだ。

 なんであれだけ、ケースに入れられていないんだろう。

 不思議に思いつつ、私はアルフォンソ様から離れてそのゆりかごに近づき少女の背後に立つ。


「なんでお返事してくれないの、ラリー」


 そう、少女はぬいぐるみに向かって話しかけていた。

 ラリーって、このぬいぐるみの名前だろうか。ゆりかごの前に置かれた案内の札には、


「くまのラリー」


 とだけ書いてある。

 他の展示物にはちゃんと逸話が書いてあるのに、なんでこのぬいぐるみだけ、むき出しだし何も書いてないんだろう。


「おや、レイチェルさん。今日もいらしていたんですか?」


 司祭様の声が背後からして、少女はハッとした顔をしてこちらを振り返った。

 青い目をした少女は、私を見て目を見開いて口をパクパクさせた後、ばっと走り出して部屋を出ていってしまった。

 ……何、今の。

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