どうやら私は、アルフォンソ様とかなり縁があるらしい。
首都から汽車で三時間も離れた場所で、なんで私、ピンポイントでアルフォンソ様のお祖母様と知り合うのよ。
アルフォンソ様と視線が合い、私は立ち上がって振り返り、彼に向かって頭を下げた。
「ごきげんよう、アルフォンソ様」
そう言って、私は顔を上げる。
するとアルフォンソ様はにこっと笑って言った。
「まさか貴方がご一緒とは思いませんでした、パトリシア」
「アルフォンソ、ふたりは知り合いでしたの?」
驚いたようなマルグリットさんの声が響く。
はい、そうです。知り合いどころか付き合っている……のかな。付き合う、の意味が私にはいまだにわからないんだけど。
「えぇ、おばあ様。彼女とはお付き合いさせていただいているんです」
「あら、そうだったの?」
さらに驚きを含んだ声が聞こえてきて、私はマルグリットさんの方を振り返ることが出来なかった。
「あ、アルフォンソ……」
「なのでおばあ様、今度パトリシアを屋敷にご招待したいと思うのですがいかがですか?」
ちょっと待って? どういうこと?
困惑する私をよそに、アルフォンソ様は話を続けた。
「祭りが終われば俺も首都に帰らなくてはなりませんし、父の手伝いでこちらに来ましたのであまり時間はありませんが、せっかくですのでどうでしょうか」
「あまり堅苦しいのは好きではないけれど、パトリシアさんをお夕食にご招待する、と言う事かしら?」
「はい、パトリシアもどうですか?」
えーと……
私はマルグリットさんとアルフォンソ様の様子をちらり、と確認する。
マルグリットさんはにこにこと笑ってこちらを見ていて、アルフォンソ様は微笑んで私を見ている。
いや、そのアルフォンソ様の笑顔がなんか怖いんですけど?
この状況、嫌です、とは言えないよねぇ……
そんな勇気、私にはない。マルグリットさんとはすごく話が合うし、楽しいもの。アルフォンソ様はまだ何考えてるのかよくわかんなくって困ってるけど。
腹をくくり、私はできる限り笑顔をつくりアルフォンソ様に向かって言った。
「はい、喜んでお伺いいたします」
でも相手は伯爵家よねぇ……しかもプライベートなお食事会か……大丈夫かな、ちょっと心配。
「パトリシアさん」
そんな私の不安を和らげるかのように、マルグリットさんの優しい声が聞こえてくる。
「ただご夕食を一緒に食べるだけよ。普段と同じように気張らずにいらして。お洋服も、今と同じようなもので大丈夫だから。家族だけのお食事だし」
「あ、ありがとうございます、マルグリットさん」
そう言われるとちょっと気持ちが楽になる。
うん、ただご飯を食べるだけよ。それなら大丈夫よね。
「パトリシア、お泊りの宿、教えていただけますか? 明日の夕食の時間にお迎えにあがりますので」
「あ、はい、わかりました」
泊まっている宿を伝えると、アルフォンソ様は頷き頭を下げる。
「お食事のところを邪魔して申し訳ございませんでした。ではこれで失礼いたします」
「えぇ。またあとでね、アルフォンソ」
マルグリットさんが答えて、アルフォンソ様は私の方にも頭を下げて去っていく。
その様子を遠巻きに見ていたカフェのスタッフであるジーナがこちらに歩み寄ってきて、私に話しかけてきた。
「パトリシアって、アルフォンソ様とお知り合いだったの?」
心底驚いた様子で言われ、私は苦笑して頷く。
「えぇ……あの、私の友人の従兄なの。それで友人のパーティーで知り合って」
「そうだったの。世の中狭いわね。アルフォンソ様、子供の頃はよくいらしていたのよ。貴族のご子息だけど、普通に私たちみたいな庶民と遊んでいたのよね。見た目がちょっと変わっているから人目をひいて、首都ではけっこう大変なことがおおかったみたいだけど」
アルフォンソ様の話になると、必ず見た目の話がついて回るのね。この辺りは北国だから、色が白い人が多いし余計目立ちそう。
「そうなのよねぇ。それで今回の事があって心配していたのだけど、とりあえず元気そうでほっとしたわ」
まあ元気そうではあるのかなぁ。
最初、アルフォンソ様に会ったときはかなり沈んでいらしたし。私はちょっとあの方怖いんですけどね。何考えてるのか全然分かんないし、結局私と彼との間に何があったのかはっきりしないし。
……恥ずかしくって聞く勇気ないし。
「さあ、パトリシアさん。まだお食事途中だし、早く食べちゃいましょう。あとケーキ食べる?」
「はい、食べます」
「ケーキどれにしますか? 思い切って全種盛りってどうですか?」
ふざけた口調でジーナが言うと、マルグリットさんはメニューを手にして笑う。
「あら、そんなに食べられるかしら?」
「私、ケーキならいくつでも食べられます!」
言いながら私はぎゅっと、拳を握りしめて見せる。
「頼もしいわねぇ。じゃあジーナさん、お食事のあとケーキをお願いするわね」
「かしこまりました」
びし、とジーナは頭に手をあてて敬礼して見せると、キッチンの方へと戻っていった。