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汚れた無垢へ、花束を
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現実世界現代ドラマ
2024年07月14日
公開日
7,908文字
連載中
 「私の姉を探して下さい」

 月曜日の昼下り、事務所の扉を叩いた少女はそう言った。



 ホテル街の路地を真っ直ぐ進み、突き当りを右に曲がった先の古びたコンクリートビルの三階に神城銀次の事務所がある。

 神城銀次という男は固く口を閉じた牡蠣のような男であり、依頼人からの仕事はどんな形であれ必ず成し遂げる鋼の精神を持つ青年だ。

 ある日、神城が事務所にて煙草をふかしていると事務所のドアが叩かれ、ドアを開けた先にはセーラー服を着た女生徒が立っていた。齢にして十七前後の少女は自分を神宮寺桜花と名乗り、神城に姉を探して欲しいと依頼する。

 神城は一度少女の依頼を断るものの、少女連続失踪事件の調査を進める内に神宮寺とその少女等との接点に気づく。

 神宮寺桜と少女達、年齢、学年、通う学校、全てが違うというのに微妙に重なり合う関係性。鋼の男は、無垢の為に街を駆ける。
 

肉を断ち、骨を断つ

 額から滝のような汗が滴り落ちた。


 溶接用グローブを履いているにも関わらず、手指は疲労と痛みを訴え、何度も同じ作業を繰り返しそうとも肉体は慣れる事は無い。


 滑車が回り、ロープが滑る。


 を吊り降ろしたロープが悲鳴をあげ、痛ましい音を奏でていた。私は力一杯ロープを引っ張り、その美しい肢体を宙にぶら下げると若く瑞々しい肌に指を這わせる。


 何と表現したらいいのだろう。その肢体は天井窓から差し込む月光に照らされ、蒼白く生気を失っていると云うのに未だ生きているとさえ錯覚してしまう程の美麗さに溢れていた。


 引き締まった太腿も、発達した乳房も、靭やかな腕も、全てが完璧に整えられている。この肢体ならば彼女に相応しいと我ながらに納得する。この肉体こそ彼女に必要とされているものなのだ。


 私は肉切り包丁を右手に持ち、高鳴る胸と踊る興奮を必死に抑え関節に切込みを入れる。


 赤黒い屍血が傷口より漏れ出し肌を伝って滴り落ちる。血に染まった刃は月の光を反射させ、妖艶な鈍色を魅せて肉を斬り裂き筋を断つ。


 もう少し、もう少しで彼女は新たな生を宿し私の下に帰ってくる。その時こそやり直すのだ。ある筈だった一家団欒の夢を叶えよう。私の夢を叶えよう。協力者に家族を与えよう。


 手に入れる。その決意は疲労に喘ぐ私の肉体に喝を入れ、包丁を振るう我が腕に休むなと指令を下す。脳からは尋常でない程のアドレナリンが吹き出し、痺れる腕を絶え間なく振るわせる。


 ああ、愛しい君よ今度こそ私の腕で包容しよう。


 ああ、麗しの君よ今度こそ私の口から愛を囁やこう。


 例えこの身が業火で焼かれようと、君を決して離さない。だから、もう一度その微笑みを私に向けてくれ。


 だから、愚かだった私を赦してくれ。


 無垢なる君よ。

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