額から滝のような汗が滴り落ちた。
溶接用グローブを履いているにも関わらず、手指は疲労と痛みを訴え、何度も同じ作業を繰り返しそうとも肉体は慣れる事は無い。
滑車が回り、ロープが滑る。
何と表現したらいいのだろう。その肢体は天井窓から差し込む月光に照らされ、蒼白く生気を失っていると云うのに未だ生きているとさえ錯覚してしまう程の美麗さに溢れていた。
引き締まった太腿も、発達した乳房も、靭やかな腕も、全てが完璧に整えられている。この肢体ならば彼女に相応しいと我ながらに納得する。この肉体こそ彼女に必要とされているものなのだ。
私は肉切り包丁を右手に持ち、高鳴る胸と踊る興奮を必死に抑え関節に切込みを入れる。
赤黒い屍血が傷口より漏れ出し肌を伝って滴り落ちる。血に染まった刃は月の光を反射させ、妖艶な鈍色を魅せて肉を斬り裂き筋を断つ。
もう少し、もう少しで彼女は新たな生を宿し私の下に帰ってくる。その時こそやり直すのだ。ある筈だった一家団欒の夢を叶えよう。私の夢を叶えよう。協力者に家族を与えよう。
手に入れる。その決意は疲労に喘ぐ私の肉体に喝を入れ、包丁を振るう我が腕に休むなと指令を下す。脳からは尋常でない程のアドレナリンが吹き出し、痺れる腕を絶え間なく振るわせる。
ああ、愛しい君よ今度こそ私の腕で包容しよう。
ああ、麗しの君よ今度こそ私の口から愛を囁やこう。
例えこの身が業火で焼かれようと、君を決して離さない。だから、もう一度その微笑みを私に向けてくれ。
だから、愚かだった私を赦してくれ。
無垢なる君よ。