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7-2

その日は夫婦揃って、父の店のレセプションに招待されていた。


「素敵なお店だね」


宣利さんに褒められ、嬉しくなる。

黒と紺を基調にした内装は落ち着きがあり、ゆったりと食事ができそうだ。


VIP専用のレストランなのでもちろん招待客のほとんどがVIPだし、取材で入っているプレスもそういう方向けのところだ。

招待客リストをツインタワー運営に提出し、チェックがあったと父は言っていた。


「本日は当店にお越しいただき……」


そんな人たちを前にしているからか、挨拶をする父は緊張しているように見えた。

それに、この店の成功が会社のこれからにかかっているとなると仕方ないかもしれない。


挨拶が終わり、料理が出てきはじめる。

今日は着席式なのでスタッフがお皿を運ぶ。

父の店は創作フレンチなので、アミューズから始まる。


「アミューズは……」


お皿の上にはサーモンや毛ガニといった食材をメインにした料理が、彩りよく三品ほどのっている。


「美味しそうだね」


宣利さんの言葉に、頷いた。

周囲ではシャッターを切る音もする。

ナイフとフォークを握り食べ始めたが、どんな評価がされるのか気になって味がいまいちわからない。


コースは順調に進んでいく。

よほどシミュレーションを重ねたのかスタッフの対応もしっかりしていて、これならグランドオープンしても安心そうだ。


「……綺麗」


「……美味しい」


時折、そんな声が聞こえてきて、胸を撫で下ろす。


メインは弟自慢の、宮崎牛のローストだった。

この店のために、特にいい牛を探したらしい。

心配なのか、駆けつけた弟が厨房からこちらをうかがっているのが見えた。


運ばれてきた料理を、ひとくち食べる。

それだけでなんというか、こう……開眼した。

いや、実際、思いっきり目を見開いていたし。

顔を上げると宣利さんと目があった。

なにか言いたいが言葉が出てこず、お皿と彼のあいだに視線を往復させる。

彼も私と似たようなものなのか、黙ってうんうんと激しく頷いた。

味付けは塩だけのようだが、驚くほど肉の甘みが口の中に広がりそれがいいアクセントになる。

この肉に塩以外の味付けはもはや冒涜ではないかと思うほど、肉の旨味が凄い。


視界の隅で弟が盛大にガッツポーズしているのが見えた。

周りを見渡せばしみじみと肉の旨味を味わっているか、手が止まらないとばかりにぱくぱく食べているかがほとんどだった。

しかも、大多数が食べ終わって、名残惜しそうにため息を漏らしている。


「これは参ったね」


感心するように宣利さんが漏らし、我がことのように嬉しくなっていた。


素晴らしいデザートまで堪能し、レセプションが終わる。


「素晴らしかった」


「ファミレス経営の会社と聞いていたから侮っていたけど、これほどとは」


帰っていく人々の言葉を聞きながら、鼻高々になった。


「お父さん」


「花琳、どうだった?」


これほどの好印象を人々に与えておきながら、父はまだ心配そうだ。


「最高だったよ。

全部、美味しかった。

特にあの、お肉!」


「だろ!

話もらったときから足を棒にして探しまくったからな!」


弟は自慢げだが、それはよくわかる。


「よくやった、隆広!」


弟の肩をバンバン叩き、労う。


「へへ、姉ちゃんに褒められた」


弟は照れていて、いくつになっても本当に可愛い。


「これでオープンも安心だね」


「だといいんだが……」


父はいつまでも心配していておかしくなってくる。


「お義父さん、安心してください。

皆さん、高評価でしたよ。

きっといい口コミが広がって、連日満席間違いなしです」


力づけるように宣利さんが頷く。


「そうですか。

ありがとうございます」


それでようやく安心できたのか、父はほっとした顔をした。


結局、予約受付を開始して数分でプレオープンの日もグランドオープンの日も満席になった。

その後も予約枠は争奪戦となっているようだ。




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