「あらためまして、『
若草色の袖をあわせ、
「皇子殿下におかれましてはご不便をおかけすることと存じますが、ご理解いただけますよう、なにとぞお願い申し上げます」
そうか、そうだったのか。
おのれが歓迎されていなかった理由が、暗珠はようやく腑に落ちる。
猫族。目前の青年が、獣人だった。
そのことを知らされる意味が、いまならわかる。
「それでは、ごゆるりとお過ごしくださいませ」
完全に陽が落ちきる前に、用意された客室。
柔和な物腰で案内をされたが、そこに了承する以外の選択肢は与えられていない。
(なるほど、帰すつもりはない、か)
他人事のように思うほか、暗珠にはなすすべがなかった。
* * *
卓を引っぱたく音が鳴りひびき、ところ狭しと並べられた料理の食器がゆれる。
「お父さまたちや
「悪ぃな。発案は俺だが、にゃん小僧も共犯だぜ!」
「開き直らないでください!」
夕餉の席にやってきてだいぶ時間がたつが、それどころではない緊急事態に食事ものどを通らない。
暗珠は知ってしまったのだ。
一心たちが獣人であることも。
なにもかも、知られてしまった。
そして、発端である
これには頭が痛くなる早梅である。
「こんなの、実質『監禁』じゃないですか……」
「お気持ちはわかります。ですが
「一心さま……」
卓の真向かいに座る一心は、一度茶杯に口づけると、琥珀色の双眸を神妙に細めた。
「先日はじめてこちらへいらした際、身分の証明のために
「街で悪趣味な催しをやめさせたってのは、評価できる。若さゆえの危なっかしさが玉にキズだが、正義感が強くて度胸がある。すくなくとも、皇帝派の太守よりは信用できると判断した」
早梅は息をのんだ。
一心はもちろん、早梅を守ることに躍起になっていた晴風が、このような判断をくだしたためだ。
あくまで皇族としてではなく、暗珠個人として見ているのだと。
「よく考えてみな。俺たちが今度やらかそうとしてんのは、今日のさわぎよりもっと多くの人間を巻き込んで、もっと危険なことだ」
「騒動に乗じてそのまま
「それにな
「……殿下を、私たちに同行させるということですか?」
否定の言葉はない。つまり、肯定だ。
予想だにしない展開に、早梅は絶句する。