聞くところによると、皇帝陛下は諸々の公務を問題なくこなされているが、どうやら、体調が思わしくないらしい。
あまり食事もとらず、眠れないのか、毎夜就寝前に医官に薬を用意させていると。
「陛下の体調不良とやらには、わが
「早一族が生まれもつ体内毒のことですね」
「えぇ。彼は
「涼しい顔で痩せ我慢してるってわけか。放っておいても、そのうちぽっくり逝っちゃったりしねぇの?」
「否。二年も耐え忍んでいるのだ。
「よって、飛龍が完全に『氷毒』を克服する可能性も考えられます。私たちがすべきことは、そうなる前に、確実に息の根を止めることです。しかし……『逆賊』となるには、私たちはあまりに立場が弱すぎる」
仮に暗殺が成功したとしても、滅亡寸前の一族と、民衆から迫害を受ける獣人。
現在圧政をしいられている臣下が、主君の崩御とともに手のひらを返し、『逆賊の制圧』という大義名分のもとに国軍を動かせば、早梅たちとて無事ではすまない。
悔しいが、悲願を果たすには、まだ時期尚早だ。
これは
「種族の枠をこえ、『
「一心さま、それは……!」
「おいおい、正気かよ……!」
あくまで獣人ならざる部外者でしかない早梅は、五音、六夜らがなにをもってうろたえているのか、すぐに理解できない。
「獣人族のなかでも段違いに孤立している狼族が、あたしたちの助けは必要ないって、突っぱねたってこと」
七鈴の補足により、ようやく早梅も事の重大さを知る。
「一心さま、狼族はどうして……!」
「彼らなりの矜持があるのですよ。ご安心を。『獬幇』を抜けたというだけで、目的はおなじです。狼族は独自に皇室を追いつめるつもりですから、僕らは僕らのすべきことをしましょう」
ならば、そのすべきこととはなにか。
それこそが、本日の本題だ。
「まずは実績作り。具体的な話をしますと、ここ燈角の街に、ひどく苦しめられている獣人がいます」
「獣人を奴隷として売買する闇市……か」
「なっ……そんなものがあるなんて……!」
「残念なことに、六夜の言うことはほんとうですよ、梅雪さま。かねてよりそうした動きが見られるとのことで、私たち猫族はここ燈角へやってきたんです」
「ここは
七鈴の話をまとめると、こうだ。
木を隠すなら、森の中。
ひとを隠すなら、ひとの中。
「近々、この街で大きなお祭りがひらかれるわ。そして民衆のだれもが沸くその日、闇市はひらかれる。『招待客』が観光客にまぎれてやってきても、目立たないものね」
「では、私たちの目下の課題は」
「えぇ」
にわかに気を引き締める早梅のまなざしを受け、一心が言葉を継ぐ。
「闇市で売買される獣人たちを救出すること。そのためなら、なにをやってもかまいません。そろそろわが『獬幇』支部を、次の街へ移す予定でしたしね」
ひときわ柔和な笑みをうかべた青年が、歌うように言葉をつむいだ。
「──勝負は三日後の、